toggle
2023-04-19

「すべては最後の台詞のために準備」映画『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』金子由里奈監督・新谷ゆづみさんが名古屋で舞台挨拶


 

4月14日(金)からセンチュリーシネマで公開中の映画『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』は、京都のとある大学の「ぬいぐるみサークル」に入った3人の新入生を中心にサークルメンバーの交流を描きながら、それぞれが抱える生きづらさを映し出している作品です。3人の新入生を演じるのは『町田くんの世界』の細田佳央太さん、『いとみち』の駒井蓮さん、『麻希のいる世界』の新谷ゆづみさん。先輩役として『佐々木、イン、マイマイン』やNHK連続テレビ小説『舞い上がれ』に出演した細川岳さんや『カメラを止めるな!』の真央さん、『ミューズは溺れない』の若杉凩さんも出演しています。

『21世紀の女の子』『眠る虫』で注目を集めた金子由里奈監督による長編商業映画デビュー作であり、本作の原作者である『おもろい以外いらんねん』『きみだからさびしい』をはじめ、繊細な感性で話題作を生み出し続けている小説家・大森粟生さんにとって初の映像化作品です。公開3日目に、名古屋のセンチュリーシネマで金子由里奈監督と新入生の1人を演じた新谷ゆづみさんが上映後の舞台挨拶に登壇。金子監督が原作小説を読んだときに感じたこと、新谷さんの役作り、撮影の裏話、お気に入りのシーンなどについて和やかに話しました。(取材日:2023年4月16日)

金子由里奈監督の母校 立命館大学の部室で撮影「ヒリヒリした気持ちを鴨川が潤してくれる」

映画『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』は細田佳央太さんが主演で、ぬいぐるみに話しかけることが活動の中心となっている京都のとある大学の「ぬいぐるみサークル」が舞台です。「ぬいぐるみサークル」は細田さん演じる人を好きになる気持ちがわからず、恋愛ができないと悩んでいる主人公・七森をはじめ、自分と人との違いに悩んだり、社会の痛ましい出来事に傷ついてしまう、ナイーブで心優しいメンバーばかり。メンバーそれぞれが心に抱えた気持ちをぬいぐるみに打ち明ける姿から若者の感じている生きづらさが映し出され、繊細で優しすぎる七森が少しずつサークルのメンバーと交流していく姿が優しいタッチで描かれています。

名古屋のセンチュリーシネマでの上映後、余韻に浸るお客様の前に監督の金子由里奈さんと、作中で「ぬいぐるみサークル」の中で唯一、ぬいぐるみと喋らない白城という役柄を演じた新谷ゆづみさんが温かい拍手に包まれて登壇しました。金子監督は「先ほど新宿の武蔵館で舞台挨拶をして、今、名古屋にいます。日本各地で上映されているんだなと実感できてとても嬉しいです」と挨拶し、「初めてセンチュリーシネマに来たのですが、広くてワクワクしますね。何か映画が見たくなりました」と話しました。新谷さんは「皆さんと楽しい時間をすごせたら良いなと思います」と客席に語りかけ、拍手が起こるとニッコリ。名古屋の滞在について尋ねると、金子監督は「久しぶりですね。一度パルル(新栄にあるイベントができるカフェ)で対バンしたときがありまして」と話すと観客は不思議顔。「チェンマイのヤンキー」というユニットで音楽活動も行っていることを補足し、そのライブから「4年ぶりの名古屋です」と笑顔で答えました。新谷さんは「『麻希のいる世界』(2022)の舞台挨拶で訪れましたが、名古屋は久しぶりです。でも、先週まで愛知で撮影していて、よく愛知には来ています」と愛知エリアに縁があることをアピールしました。

金子監督は本作の舞台が京都であることについて「高校の時に修学旅行で初めて京都に行きました。自由行動で歩き回った時に、いろいろ感じて”ここで学生生活を送ったら楽しいだろうな”と京都の大学に進みました。暮らしてみると鴨川が流れていて、自分がヒリヒリした気持ちの時に鴨川を見て潤うみたいな…色々もたらしてくれる町で大好きです。この映画を京都で撮れたのでとても嬉しいです」と語りました。金子監督は立命館大学の映画部に所属し、部室で寝泊りする人がいた思い出を述べ「(母校の)部室で撮影していて、自宅と学校の境界があいまいだった当時を思い出しました」と話すように劇中でもその雰囲気が映し出されています。

大学時代に出会った原作について「無自覚な加害性に向き合わざるを得ない小説体験」

金子監督は「大学時代に原作と出会って、自分の無自覚な加害性に向き合わざるを得ない小説体験を持ちました。SNSが普及して言葉の加害性について問われている現在、この作品は、今とどけるべき作品だと思います。これまでスクリーンで出会ったことのない、取りこぼされてきた存在を映画で表したいと企画しました」と映像化の経緯を熱く述べました。金子監督は主人公の七森(細田佳央太さん)の気持ちに共感していて、あるシーンでは「わたしそのもの」と感じたことを吐露しつつ、今回の脚本を兄の金子鈴幸さんと共同で執筆するなかで、鈴幸さんが七森のサークル仲間である白城の視点に共感していたこともあり、金子監督の中で白城の存在が大きくなったそうです。金子監督は「白城のぬいぐるみとの距離感を兄と一緒に考えて、すべては最後の白城の台詞のために準備していきました」と白城への思い入れを語りました。また「白城はたくさんの言葉を体に持ちながら出さずに、引き受けるタイプの優しさを持っています」と七森のような繊細さゆえの優しさと異なることを付け加えました。

昨年上映された映画『麻希のいる世界』でのカロリーの高い芝居から打って変わり、今回は「ぬいぐるみサークル」を見守る芯の強い学生を好演している新谷さんは「私自身大学に通っていないので、大学に足を踏み入れることや、サークルに入るという経験が新鮮でした」と振り返りました。また、脚本を読んだ感想として「読めば読むほど、七森を愛おしく感じました。七森が悩んでいることに対して、助言したり寄り添ったりしたいなと思っていました」と役と重なる気持ちだったと明かしました。現場で実際に七森を演じた細田さんについて「想像した七森以上の七森でした!」と絶賛。「何か守りたくなるというか、愛おしいなと。最初の脚本を見た時の感情は間違っていなかったと思いました」と目を輝かせました。

金子監督は「新谷さんは”衣装とか部屋のセットで役に入れるんです”とおっしゃっていた通り、衣装合わせをしていく中でどんどん白城になっていきました」と述べ、白城の人物像として「サークルの中で白城だけが腕時計をしているとか、レザー素地を身に着けているというヒントというか表現をしています」と明かしました。そして「パートナー関係の人物どうしがお互いの服を着まわしているという所もあります」と話しました。新谷さんは「その人の人生や環境を考えたら、身に着ける素材など分かりやすく現れるものではないかなと思います」と監督に頷いていました。

新谷ゆづみさんと駒井蓮さんのアドリブシーンに注目「この映画で革命を起こしたい」

「ぬいぐるみサークル」の部室にはぬいぐるみ達がぎっしり。その中に監督のお気に入りのぬいぐるみがあり、ポスターにも登場しているそうです。新谷さんは部室のセットについて「ビックリしました!こんなに沢山のぬいぐるみが集まっているのを見ることは、今後の人生でもないだろうなと面白い体験でした」とトーン高く話しました。自身のぬいぐるみについて新谷さんは「小さい頃、おばあちゃんに海遊館で買ってもらったペンギンのペンちゃんがいます」と教えてくれました。撮影中の様子について新谷さんは「(駒井さんや細田さんなどと)いっぱい話しました」と実感を込めて答え、充実した撮影時間だったと表情からも伺えました。金子監督は「原作は白城と麦戸(駒井蓮さん)の関わりが薄いのですが、映画ではささやかな連帯みたいなものを描きたかったんです。一緒にいて、自分たちが違うことを分かっていて、それでも認め合うという二人を表現したいなと思いました」と述べました。白城と麦戸がぬいぐるみを一緒に洗い、屋上で干すシーンは特別な思いで脚本に入れたと語りました。監督は「ぬいぐるみをケアするシーンが欲しかったんです。実際、私がぬいぐるみを洗ったことがあって、水面に揺れている毛並みは1本1本針みたいで、いろんな意味が同居していると感じたんです」と説明。劇中、ぬいぐるみを洗った新谷さんは「(洗ったぬいぐるみの)ラビはめっちゃ重かったです。水に浸すと重くなって乾くと軽くなるって、当たり前のことだけど面白かったです。麦戸ちゃん(駒井蓮さん)とのあの一連のシーンはラフに撮りましたね」と振り返ると、金子監督は「あれはアドリブが多かったですね。二人が麦戸と白城の感じで話してくれて、その空気感…見ていて好きでした」と満足顔で話しました。

金子監督は「私、七森役の細田君に”この映画で革命を起こしたいです”と言ったそうです。記憶にないんですけどね」というと客席はクスクスと小さな笑い声が起こりました。「でも、きっと細田さんが私の気持ちを受け止めてくれる佇まいだったから、熱量を放出できてしまったと思うんです」と語り、「当時、友だちに子どもが生まれて、その子が将来、夜道を一人で歩くときに怯えないででいられる社会であって欲しいと、そのきっかけになるといいなという願いがあってこの映画を作ろうと話しました」と細田さんとのやり取りを教えてくれました。

最後に監督は、「この映画を見て、何か自分の仕舞ってあったものや、ほかの人と対話するきっかけになればいいなと思います」と呼びかけました。新谷さんは「主題歌が白城をイメージして作られたと聞いてビックリしました。この曲はこれからも大切にしたいと思います。みなさま、お越しくださって、ありがとうございました」と挨拶しました。舞台挨拶後に行われた金子監督によるサイン会も大盛況でした。

〈関連記事〉

映画『麻希のいる世界』名古屋シネマテークで舞台挨拶&インタビュー 塩田明彦監督、新谷ゆづみさん、日髙麻鈴さん

映画『佐々木、イン、マイマイン』名古屋センチュリーシネマ舞台挨拶に細川岳さん、萩原みのりさん、森優作さん、内山拓也監督が登壇

真魚さんも登壇 豊橋→名古屋の新幹線移動に感激!!映画『カメラを止めるな!』キャスト登壇の舞台挨拶in名古屋

「大丈夫だよ!と伝えたい」「揺らいでいる人たちを描きたい」若杉凩さん出演の映画『ミューズは溺れない』淺雄望監督にインタビュー

作品概要

映画『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』

4月14日(金)よりセンチュリーシネマほかで公開

出演:細田佳央太 駒井蓮 新谷ゆづみ 細川岳 真魚 上大迫祐希 若杉凩  ほか

原作:大前粟生「ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい」(河出書房新社 刊)

監督:金子由里奈

脚本:金子鈴幸 金子由里奈

撮影:平見優子

録音:五十嵐猛吏

編集:大川景子

スチール:北田瑞絵

音楽:ジョンのサン

主題歌:わがつま「本当のこと」(NEWFOLK)

製作・配給:イハフィルムズ

[2022|109分|16:9|ステレオ|カラー|日本]

 


関連記事