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2022-03-05

映画『麻希のいる世界』名古屋シネマテークで舞台挨拶&インタビュー 塩田明彦監督、新谷ゆづみさん、日髙麻鈴さん


 

名古屋シネマテークで2月19日から上映されている映画『麻希のいる世界』は、塩田明彦監督の最新長編監督作品です。小松菜奈さんと門脇麦さんが2人組女性ギターデュオ「ハルレオ」のメンバーを演じる青春音楽映画『さよならくちびる』(2019)で印象的な演技を見せてくれた元さくら学院の新谷ゆづみさん・日髙麻鈴さんをダブル主演に迎え、愛と衝動・怒りなどの感情を持て余すがゆえに、狂気が加速していく青春の歪みが紡がれた物語です。また窪塚愛流さん、井浦新さんは親子役で出演し、混沌とした物語世界に深みを与えています。

2月27日、好評上映を記念して塩田監督、新谷さん・日髙さんが名古屋シネマテークでの映画上映後の舞台挨拶に登壇し、インタビューにも応じてくれました。塩田監督の作品へ想い、新谷さん・日髙さんの初々しい受け答え、役と本人のギャップについて話してくれました。(取材日・2022年2月27日)

映画『さよならくちびる』名古屋キャンペーンアーティストの名古屋ギター女子部がインストアライブで「さよならくちびる」を熱唱

新谷ゆづみさん・日髙麻鈴さんを想定して書かれたオリジナル脚本 本人と真逆のキャラクターで、魅力をひきだす

映画『麻希のいる世界』は、重い持病を抱え、生きることへの希望が持てない高校2年生の由希(新谷ゆづみさん)が、破滅的な魅力と美しい歌声を持つ麻希(日髙麻鈴さん)と運命的に出会い、バンドを結成したことで一変する日常や、彼女たちに軽音部の祐介(窪塚愛流さん)が加わることでそれぞれの思いが交錯し、惹かれて近づくほどに、その関係性は脆く崩れていく模様が描かれた物語です。

立ち見が出るほどの観客が待ち構えるなか、上映後に塩田明彦監督、ダブル主演の新谷ゆづみさん・日髙麻鈴さんが登壇しました。初めに塩田監督が「こちらのシネマテークさんには20年位前に宮崎あおいさんと、蒼井優さんに出演していただいた『害虫』という作品を上映してもらいました。久しぶりに帰ってくることができて何ともいえない幸せな気分です」と感慨深そうに挨拶すると、温かな拍手がおこりました。新谷さんと日髙さんは感謝の気持ちを述べたあとに「名古屋は久しぶりなので、ひつまぶしを食べました」とご当地グルメを楽しんだことを話し、会場内を笑顔にしました。

塩田監督は「以前作った映画『さよならくちびる』でお二人が印象的なお芝居をされていて、何となく…いつか彼女たちの作品を作ろうと思っていました」と明かし、「緊急事態宣言が出て、ほかの仕事が飛んでしまったことで神様が”これ(本作)をやれ”って言っているんだなとシナリオを作りはじめました」と製作の経緯を話しました。そして脚本について「役者さんは普段かもし出している雰囲気と真逆に振ったほうが輝くことが多いので、そういう計算で主役二人のキャラクターを作りました」と教えてくれました。

脚本を初めて読んだ時の印象を聞かれると、新谷さんと日髙さんは「そうだねえ~」「うん~」と上手く表現できないもどかしさにお互い見合う一幕が見られました。初々しく、可憐なお二人の姿は作中の由希・麻希とはまったく違う表情です。塩田監督が優しくフォローすると由希役の新谷さんは「最初から最後まで笑うことがほぼなくて、暗いなと思いました」と率直に話し、「感情が表に出にくいけれど、内面に熱いモノをもっている…ずっと気持ちが高ぶっている感じで、脚本を読み終えて息切れする印象でした」と語りました。麻希役の日髙さんは「麻希のキャラクターのインパクトがすごかったです。”めっちゃ、振り回すやん”って」といたずらっぽく述べると、新谷さんと頷きあっていました。

「4度くらいリハーサルをして、すり合わせをしてから撮影に臨みました」と塩田監督が話すと、新谷さんは「監督から発せられる言葉から役を理解していく感覚が毎回あって、この作品を考えた監督は本当に天才だと思います!」と絶賛しました。大拍手が鳴り響くと塩田監督は嬉しそうな表情を浮かべました。

撮影中について新谷さんは「ずっと追いかけたくなる麻希が目の前に存在していて、自分の心の中に”麻希が好き”というリアルな気持ちが生まれました」と役と一体化した現場を振り返り、日髙さんは「いつもの私と麻希とのギャップは大きかったです。そして、普段の私たちとは違う関係性が作品の中にはありました」と新谷さんと見つめ合いました。また「自分と正反対の役だったので、撮影に入ったときは内心楽しかったです。麻希の本質にたどり着いた時、衝撃や感動がありました」と手ごたえを感じたようでした。

ちょうど先日、高校を卒業したばかりのお二人に今後チャレンジしたい役を聞かれると、新谷さんは「今まで高校生役が多かったので、大学生や社会人…大人の役を演じてみたいです」と、日髙さんは「ファンタジーや超能力・魔法の世界の役を、幼いころから憧れているのでやってみたいです」と話してくれました。塩田監督は「毎回、これくらい激しい作品を製作するのも息切れするので気楽に構えた映画も撮りたいですね。コロナで止まった仕事も動きだしています」と今後の展開を話して、舞台挨拶も盛況のうちに結びとなりました。

フォトセッションの時間になると、ポーズをとってファンサービス。鳴りやまないシャッター音から観客の熱が伝わってきました。映画『麻希のいる世界』は3月11日まで名古屋シネマテークで上映されていますので、ぜひ劇場にてご覧ください。

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映画『泣き虫しょったんの奇跡』松田龍平さんと豊田利晃監督に名古屋でインタビュー

塩田明彦監督の悪夢から想起されたシーン?!

舞台挨拶を終え、塩田監督と新谷さん、日髙さんがインタビューに応えてくれました。室内に用意されていたお菓子の中に「しるこサンド」を見つけた新谷さんと日髙さんは「うわー!初めてです」と喜んでいました。

塩田監督の作品に音楽が関わるものが多いことから音楽映画への思い入れについて聞くと塩田監督は「実は音楽映画にはこだわりがなくて…」と意外な答えを口にしました。「でも『さよならくちびる』は向井秀徳さん(塩田監督作品3作に音楽で参加)が”解散が決まっているバンドのラストツアーはきつい”と語っていたのにインスパイアされて生まれたストーリーなんですよ。本作は『さよならくちびる』が起点にあったので音楽映画の雰囲気を引きずりましたね」と明かしました。

また『麻希のいる世界』では麻希が歌唱するシーン以外は極力、BGMを加えないようにしたり、歌唱シーンにもこだわりを見せたりしたことを話しました。塩田監督は「日髙さんは澄んだ歌声の方ですが、今回はかなり激しく歌ってもらいました。”歌いっぱなし感”をそのまま使って…映画って細かい修正をするのですが、修正すると感情が消えちゃうんですよね」とこだわりを見せました。

日髙さんは歌唱やギター演奏に対して「こんなに荒ぶった歌い方をしたことがなかったので、私ってこんな声が出るのかという発見がありました。ギターはさくら学院の頃から弾いてはいましたが、撮影中は向井さんのギターをお借りして直接指導も受けました。初めはプレッシャーがありました」と語りました。監督は「向井さんは濁音で歌えと言っていたね。曲のバージョンによっても歌い方をかえて…」と懐かしそうに述べました。塩田監督が称賛する“日髙麻鈴さんの歌声”は必聴です。

新谷さんは「私はベースの練習をしていく中で、由希が楽器や音楽に触れていくことで麻希を追いかけているのではないかという気持ちが芽生えました」とベースの練習が役つくりに効果的だったと話しました。そして「(作中で)麻希にすっぽかされて、軽音楽部のライブで一人きりで弾くシーンはキツかったです…」とこぼしました。塩田監督は「実はぼく、中学の時にベースを弾きはじめて以来10年以上のうちに、ああいう場面の夢を何度も見たんですよ」と打ち明けると新谷さん、日髙さんは初耳だったようで「えー!!」とリアクションしました。塩田監督の深層心理が映し出されているのかもしれないシーンをお見逃しなく。

 

削ぎ落した表現を目指したら奇跡の瞬間が!「井浦さんのほうが新谷さんに驚いたんじゃないかな」

映画『麻希のいる世界』で塩田監督は過剰な伴奏音楽を入れないことを決めていて、映像に関しても同様に極力削ぎ落した表現で臨んだそうです。印象的な海辺の小屋のシーンが、どのように生まれたのかと尋ねると塩田監督は「2分くらい小屋だけを映して、登場人物の姿を外して音声のみ流すだけでも成立するのではないか…と思い、スタッフに提案したら大反対されました」と述べ、「でもその日、あの場面を撮る頃にはもう夕暮れ近くで中を撮る時間がない。とりあえず外のショットだけでもと思ってトライしたら、あの夕日で…完璧で。上手く行くと思いましたし、スタッフも奇跡だといいました」と会心の出来栄えに自信の笑みを浮かべました。塩田監督のこだわった映像からあなたは何を感じるでしょうか。

新谷さんに井浦さんとの共演について聞くと「同じ役者という立場で現場に居てくださったので、思い切ってぶつかることができました。言葉では表せませんが、感覚的に得るものが大きかったです」と話し、井浦さんのファンであることは言えなかったと教えてくれました。塩田監督は「井浦さんのほうが新谷さんに驚いたんじゃないかな」と反応し「こんな娘がこんなすごい眼をして芝居するのかって、井浦さんが圧倒されていたように感じたよ」と振り返りました。

ファム・ファタールとしか言い得ない麻希を日髙さんが圧倒的な歌声と佇まいで演じ、麻希への執着から狂気がほとばしる由希を新谷さんが感情すべてをぶつけて好演したパワフルな映画『麻希のいる世界』をスクリーンでお楽しみください。

作品概要

映画『麻希のいる世界』

2月19日より名古屋シネマテークで公開(~3月11日まで)

3月5日~CINEX(岐阜県岐阜市)

3月26日~伊勢新富座(三重県伊勢市)

出演:新谷ゆづみ  日髙麻鈴   窪塚愛流  鎌田らい樹  八木優希   大橋律  松浦祐也  青山倫子  井浦新

監督・脚本:塩田明彦

劇中歌:「排水管」(作詞・作曲:向井秀徳)

「ざーざー雨」(作詞・作曲:向井秀徳)

2022年/日本/89分/5・1ch/アメリカンビスタ1:1.85/DCP/英題「The World of you」

製作・配給:シマフィルム株式会社(c)SHIMAFILMS


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