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2021-12-23

翼の折れた白鳥と“おじさん”の奇跡の物語 映画『私は白鳥』槇谷茂博監督に名古屋でインタビュー


 

12月31日から伏見ミリオン座で公開となる映画『私は白鳥』は、翼が折れて北に帰れなくなった一羽の白鳥と、その白鳥に自分を投影するかのように見守り、世話をし続けるひとりの‟おじさん”の交流を、美しくも厳しい富山の大自然の中、およそ4年に渡って追い続けたドキュメンタリー作品です。2019年5月に富山のチューリップテレビで放送されアメリカ国際フィルム・ビデオ祭でゴールドカメラ、ニューヨークフェスティバルでファイナリスト等を受賞したテレビ版に、2年以上の追加取材の映像を加えて映画化。2020年に公開され、共に傑作ドキュメンタリーと話題になったTBS『三島由紀夫VS 東大全共闘』チームと、『はりぼて』のチューリップテレビがタッグを組んだ作品でもあります。

映画『私は白鳥』の名古屋での公開を前に、槇谷茂博監監督が来名し、名古屋の映画情報サイトCine@nagoya(シネアナゴヤ)の単独インタビューに応じてくれました。白鳥の世話をする澤江弘一さんのこと、“語り”を担当する女優の天海祐希さん、石崎ひゅーいさんが歌う主題歌「スワンソング」について話してくれました。(取材日:2021年12月7日)

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「もうちょっと知りたい」澤江弘一さんへのフォーカスから始まったドキュメンタリー

秋が深まると富山県にはシベリアから800羽を超える白鳥が飛来し、やがて春になると北へ帰っていきます。映画『私は白鳥』は翼が折れて北に帰れない白鳥と、その白鳥に毎日エサをやり、ビデオカメラで記録し続けてきた澤江弘一さんとの交流を写し出したドキュメンタリー作品です。雄大な立山連邦を背景にした美しい映像も圧巻の本作、メガホンを取ったのは富山で生まれ育った槇谷茂博さんです。槇谷監督が長身であることに話が及ぶと、取材に同席していた企画プロデュースの服部寿人さんが「高校時代は野球部で、北陸が生んだゴジラこと松井秀喜さんから三振を奪った投手だったんですよ」と教えてくれました。槇谷監督は「2017年に白鳥の飛来数が例年より少ないという話を聞いて、白鳥の数を把握している方として澤江さんを紹介いただきました。取材をしてみると澤江さんは白鳥の一羽一羽に名前をつけていて、しかも“自分は白鳥だ”とちょっと不思議なことをおっしゃるんです。澤江さんのことをもうちょっと知りたいと追加取材しました」と澤江さんとの出会いを教えてくれました。

「春になって翼を傷めて帰れなくなった白鳥がいることを知った澤江さんから“次の秋までその白鳥を見守りたい”とお聞きして、我々も一緒に見届けようということで密着しました。まず夏を越せるかどうか、いろんな山場がありました」と春から秋までの取材を続けたそうです。「9月末になると、時間を問わず白鳥が飛来するので、仲間の白鳥との再会場面が撮れるかどうかは未確定でしたし、澤江さんもほぼ諦めていました・・・でも撮れたんです!」と槇谷監督自身も当時を思い出したように声が大きくなりました。数社が取材に訪れていた中で澤江さんとチューリップテレビの撮影クルーだけが立ち会えた奇跡の瞬間について「カメラマンが“撮れちゃいました!”と叫んだんです」と嬉しそうに話し「驚きの・・・感動的なシーンが撮影できたので番組にしましょうと形になりました」とテレビ番組になるまでの経緯を語りました。そして、テレビ放映後さまざまな賞を受賞し、映画化へと企画が走り出したそうです。追加取材した記録にも、心震える瞬間が幾度もあり見ごたえ充分です。過酷な自然界で命を燃やし続ける白鳥と、それに自らを投影し見守りつつ懸命に暮らす男性の生き様を通してあなたは何を感じるのでしょうか。

「心の隙間がどういうわけか白鳥の形をしていたようで」一人と一羽がつむぐ命の物語

飛来する白鳥の姿を撮影して数を数えることが趣味だった澤江弘一さんと撮影スタッフとの出会いは2017年のことでした。“私は人間の形をしてますが、自分は白鳥だと思ってます”“心の隙間がどういうわけか白鳥の形をしていたようで”などと話す澤江さんの言葉を、監督の槇谷茂博さんは「僕はニュース畑でやってきたので、こういう情緒的な表現をどのようにとらえてよいのか正直分からなかったし、使えないと思っていました」と振り返りました。それでも澤江さんに心惹かれて取材を重ねていくうちに「あの言葉は、こういうことだったんだなと分かってきて、沁みるようになりました」と実感をこめて語りました。

槇谷監督は澤江さんについて「暮らしぶりや人間関係を知りたくて周辺を当たりました。でも撮影スタッフが行かないと“寂しくって”おっしゃるくらい誰もいなくて孤独な感じでした。家族で営む家業を継いで忙しくしているうちに友人との接触もだんだん途切れて、ご両親も亡くなり、気づいたら60近くなったという・・・本当に一人でしたね」と教えてくれました。そして「白鳥の世界もいろいろ厳しくて」と苦笑を浮かべ「白鳥が飛来する各々のエリアに“白鳥おじさん”がいるんです。澤江さんは趣味で外のエリアから来てみんなに分からないように餌をやって、撮影して自己満足して帰っていくという全部の場所でアウェーな存在だったんですよ」と澤江さんが置かれていた状況を述べました。

槇谷監督は「澤江さんは強がってなかなか本心をおっしゃらないんです。でもポロっとこぼれた瞬間がありました。あの時だけ澤江さんの本当の声を聞いたような気がしましたね。一押しのシーンです」と自信を見せました。加えて「演出面で“この先どうなるんだろう”と感じて欲しくてドキっとするシーンもあります」とこっそり教えてくれました。怪我で北に帰れず富山に留まった白鳥はこれまでも居たそうですが、猛暑を乗り切ったという記録はなかったそうです。本作に映し出されている澤江さんの献身が白鳥の命を繋ぎ、いくつかの奇跡を引き起こしたといえるでしょう。澤江さんが劇中で「たとえ飛べなくなっても白鳥は懸命に生きている。その命を楽しんで欲しいんです」と語りますが、自分自身を始め様々な命に向けて語っているようにも聞こえます。純粋で温かい澤江さんの生き様は私たちに元気を与えてくれるでしょう。

天海祐希さんが初めてのナレーション 石崎ひゅーいさんの「スワンソング」に涙

映画『私は白鳥』の語りを担当している天海祐希さんの声は、本作を温かく包み、深みを与えてくれます。槇谷監督は「天海さんの祖父母が富山出身ということを知っていて、TBSさんに力を頂いてオファーしました」と話しました。ナレーション撮りの際のエピソードとして「天海さんが“黒部に夏休みによく来ていて富山に思い入れがあり、懐かしいのでお仕事がしたかった”とおっしゃってくれました。風景が頭に思い描けるというのが非常によかったようで、ナレーションにおけるイメージもピタッと共有できました」と話し、感謝の気持ちを表していました。エンドロールで流れる石崎ひゅーいさんの「スワンソング」はこの作品のための書き下ろしです。槇谷監督は「歌詞を考えるたびに、映像を変えて試行錯誤の連続でした。彼の歌声が切なくて、映画を見終わってからも新たなストーリーを観るようで・・・沁みてきますよね」と楽曲の世界観を賞賛しました。

槇谷監督は最後に「澤江さんはテレビ放送や映画がきっかけで、何十年かぶりに友人から連絡が来て、再び交流が始まったそうです。今は早朝に白鳥のお世話をしてからお仕事をして、映画館に来てくれた方へのお礼を言いに行って大忙しなんですよ」と教えてくれました。

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作品概要

映画『私は白鳥』

12月31日より伏見ミリオン座で公開

語り:天海祐希

主題歌「スワンソング」石崎ひゅーい(Sony Music Labels)

監督:槇谷茂博

出演・白鳥撮影:澤江弘⼀

企画プロデュース:平野隆 服部寿人

エグゼクティブプロデューサー:大久保竜 中村成寿

プロデューサー:刀根鉄太 藤井和史

アソシエイトプロデューサー:大澤祐樹 松原由昌 諸井雄⼀

音楽プロデューサー:矢崎裕行

音楽:中村巴奈重

取材:梶谷昌吾

撮影・編集:五藤充哉

2021 年/日本/ビスタ/5.1ch/104 分

製作:映画「私は白鳥」製作委員会

配給:キグー

©2021 映画『私は白鳥』製作委員会

 


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