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2019-05-27

「映画の神様が降りてきた」映画『長いお別れ』中野量太監督に名古屋でインタビュー


 

5月31日に公開となる映画『長いお別れ』は認知症を患った父と家族が過ごした7年間を描いた優しさの溢れるドラマです。直木賞受賞作家・中島京子さんの同名小説が原作で、2016年に数々の映画賞を受賞した映画『湯を沸かすほどの熱い愛』の中野量太監督がメガホンをとりました。山﨑努さん、蒼井優さん、竹内結子さん、松原智恵子さんなどの豪華なキャストが「父の認知症」に向き合う家族を演じています。中野監督が名古屋でインタビューに応じてくれました。

映画完成までの道のりや撮影現場の様子、作品に込めた想いなどを聞きました。(取材日:2019年5月16日)

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初の原作モノも家族の映画

映画『長いお別れ』は70歳になった厳格な父が認知症になり、日に日に記憶を失っていく様子に戸惑いながらも向き合う家族の物語です。「認知症」「介護」と聞くと辛い、大変、悲しいなどの印象がありますが、本作の中野量太監督は「お父さんが認知症になって苦しいけれど、その中で一生懸命やってる姿が笑っちゃうところもあって、初めて原作を読んでとても面白かったし、僕だったらもっと面白くできるなと思いました」と話しました。

中島京子さんの原作小説は連作短編集なので1本の映画にするために苦労もあったそうで「父母、娘、孫の3世代と認知症の段階を4つの時間の流れに分けて描くことが決まってからは、物語をどんどん作っていけるようになりました」と語りました。原作の中島さんから「映画は自由にやっていい」と言われていたそうで、原作では3人だった娘も2人になっています。中野監督は「4人とも原作とは多少性格も変わってしまっていると思います。オリジナル要素をたくさん入れて怒られないかな?と思って(脚本を)渡したけど、大丈夫でした」と笑顔をみせました。

これまでオリジナル作品の映画を撮ってきた中野監督にとって初めてとなる原作のある映画で「認知症はこれから誰もが避けて通れないことなので、今やらなければいけないなと言う思いがありました」と話し「厳しい中で家族が一生懸命に右往左往する姿が愛おしくて滑稽でクスクス笑ってしまう映画ばかり撮ってきたので、(この作品は守備範囲内だったし)新しい挑戦もできそうだった」と原作に魅力を感じたことを伝えました。

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山﨑努さんと作りこんだ演技プラン 松原智恵子さん自身の可愛らしさを取り入れたキャラクター

中野監督は「(山﨑さんは)僕が書いた本をめちゃめちゃ気に入ってくれて、家に招待してもらいました」と話し、「山﨑さんの家で半日くらい、この映画について話して作っていく時間を持てたこと、この映画にとってとても大きかったと思います」とクランクイン前に山﨑さんと一緒にプランを練っていたことを教えてくれました。段階を経て認知症の症状が進行していく山﨑さんのお芝居が素晴らしいことについて中野監督は「これ順撮りじゃないんですよ!相当難しいと思うんですけれど、プランを表に書いて(準備をしていて)、バラバラでとっているのに間違わなかったです」と興奮気味に振り返っていました。中野監督は「記憶を失っても心は失わないというのがテーマなので」と症状が進んでも校長先生だった父は凛としていて、心に残っている想いが行動に表れる様子をシリアスになりすぎずユーモアを交えて描いたそうです。認知症の大変さよりも、知られていない面を伝えたいという想いがあったことも教えてくれました。

中野監督は脚本の段階でキャラクターを固めていることが多いそうですが、母を演じた松原智恵子さんだけは「初めての体験」をしたと話しました。中野監督は「撮影初日に(松原さんが)なんだか窮屈そうだったんですよ。松原さん自身の可愛らしさを入れたほうが絶対にいいと思いました」と脚本では淡々とした性格だったのを可愛らしいキャラクターにしたことを明かしました。

撮影現場でも松原さんは娘役の竹内結子さん、蒼井優さんと三姉妹の三女のようだったと話し「おっちょこちょいな松原さんを2人がフォローしあっているのが愛おしい感じでした」と劇中の家族の自然な雰囲気は現場で生まれた関係を大切にした結果だったようです。可愛らしい母が父への深い愛情や芯の強さをみせる姿には涙が溢れます。

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7年間の変化を描く「映画の神様が降りてきました」

映画『長いお別れ』は認知症になる父の主観ではなく関わる人々の心情を中心に描いていて、それぞれ登場人物の変化もテーマとなっています。母、長女、次女、孫が7年間にどんな変化をしていくのかをじっくりと味わうことができます。中野監督は「7年間も準備をして別れられるのは幸せとは言わないけれど、家族にとっては次に進めるチャンスがあるのではないかなと思います」と本作で描いた7年間という時間の重要性について語りました。

4つの時代に分けられた本作では、画面が回転する演出が施されています。中野監督は「時の変換点だけはちょっと動きを持ちながら、時の流れを表現しました」と話し、ポスタービジュアルにもなっているメリーゴーランドには屋根まで回転するものを探していて「昔ながらの古い雰囲気の場所がドンピシャのところが見つかった」とこだわったことを明かしました。また本作には「映画の神様が降りてきたシーンがある」と笑顔で話し「僕の映画は必ず人が死ぬんですけど、それは生を描きたいからで、残された人がどう生きるかに興味があって、今回の作品もそうなんです」と力強く語りました。



作品概要

映画『長いお別れ』

5月31日(金)全国ロードショー

出演:蒼井優 竹内結子 松原智恵子 山﨑努 北村有起哉 中村倫也 杉田雷麟 蒲田優惟人

監督:中野量太『湯を沸かすほどの熱い愛』

脚本:中野量太、大野敏哉

原作:『長いお別れ』中島京子(文春文庫 刊)

主題歌:優河「めぐる」(Pヴァイン・レコード)

配給:アスミック・エース

©2019『長いお別れ』製作委員会 ©中島京子/文藝春秋

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