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2020-08-17

富山から全国へ!不正による辞職ドミノ、地方市議会の闇に切り込んだドキュメンタリー映画『はりぼて』 砂沢智史監督、服部寿人プロデューサーに名古屋でインタビュー


 

8月22日から名演小劇場で公開となる映画『はりぼて』は 自民党員の割合が10年連続で日本一という“保守王国“の富山で、2016年に“市議会のドン”といわれた自民党会派の会長が政務活動費の不正を認めて辞職したことを発端に、8か月で14人もの市議が辞職した前代未聞の辞職ドミノの事態とその後の市議会を2020年まで追いかけたドキュメンタリー映画です。富山のローカル局「チューリップテレビ」が全国に発信するために制作されたドキュメンタリー映画『はりぼて』は報道映像をまとめただけでなく、疑惑を追及されたり、逮捕される政治家の姿が人間くさく滑稽に映る部分もあり、喜劇のようにも感じられる作品です。地方からこの国のあり方を考えるきっかけになって欲しいという強い思いを持っている砂沢智史監督と服部寿人プロデューサーに名古屋でインタビューしました。(取材日2020年8月3日)

「皮肉を含めたコメディータッチ」思わず笑みがこぼれる滑稽な描写も

映画『はりぼて』は富山のローカル局「チューリップテレビ」が富山市議の政務活動費不正受給問題や8ヶ月で14人の議員が立て続けに辞職した辞職ドミノ、その後の市議や市議会の様子を3年間にわたって取材したドキュメンタリ―映画です。「チューリップテレビ」は2016年の政務活動費不正受給問題の報道で日本記者クラブ特別賞、日本ジャーナリスト会議(JCJ)賞、民間放送連盟優秀賞(テレビ番組報道部門)、菊池寛賞などを受賞しています。一連の報道で、市政担当の記者だった砂沢智史さんと一緒に、記者・キャスターとして関わってきた五百旗頭幸男さんがもう一人の監督として編集や構成を担当しています。次々と市議の不正が暴かれていく展開に思わず笑みがこぼれてしまう演出について砂沢監督は「(五百旗頭監督が)エンターテイメントというか皮肉を含めたコメディなタッチで見てほしいと考え、音楽や編集にもこだわっていました」と教えてくれました。

報道カメラの前で疑惑を向けられた市議が言い逃れをする姿や疑惑が暴かれて豹変する姿、情報漏洩をした市役所の担当者の対応や忖度、不正が発覚した市議の土下座やそれを見つめる支援者たちの様子など滑稽に見える描写もあり、地方政治の問題を扱いながら保身に走る人間の姿を映し出している作品です。

映画の中でカラスの鳴き声や姿も印象的に使われていて、砂沢監督は「カラスを議員に見立てて擬人化していて、市民が(議会や議員)を見ていれば、そんなに悪さができないだろうという意味を重ね合わせています」と話しました。

「先が見えなかった」地道な作業の繰り返しで見つけた不正 記者の意気込みと辛さ

富山市は2016年当時、G7環境大臣会合が開かれるなどスマートシティを推進する環境都市として脚光を浴びていました。その業績を盾に市議たちが議員報酬を月に10万円引き上げようとしたことが発端となり、「なぜそんなにお金が必要なのか」という疑問が記者や市民に広がりました。砂沢監督が取り組んだ政務活動費の調査ついて「添付されている領収書などは出している業者が結託したりしているので、見た目ではまったく分からない」と話しました。「資料を全部見ながら想像して、この筆跡がどの議員の筆跡と一致しているか、議員になったときに市に提出する書類の筆跡と照らし合わせて、やっと分かった感じです。でも、分かってみれば単純な仕掛けでした」と不正を暴いた当時のことを振り返りました。実際に大量の資料を調べ上げた砂沢監督は「先が見えなかったです」と語り、その表情からたいへんな苦労がうかがえました。また、砂沢監督は報道機関として疑惑を厳しく追求することに関して「議員本人は実際に不正をしているため苦痛ではなかったが、協力させられた業者や議員の家族という弱い立場のかたに取材に行くときは気持ちが辛かった」と不正の裏を取るために必要だった取材活動の厳しさを話しました。

砂沢監督は森雅志富山市長について「森市長はすごい手腕で、市の職員の政策能力も高く、2016年には富山市自体が脚光を浴びていました」と話し「一方で議会改革はすごく遅れていて、富山市と富山市議会はアンバランスな状況でした」と市政記者として感じていたことを教えてくれました。映画の中では市議会の問題に対して全く意見を口にしない森市長の姿が何度も映し出されていますが、これは砂沢監督が「僕も富山市民の感覚でも、森市長のあのスタイルには納得がいかなくて」とこだわった部分だそうです。

「国の政治と同じ構造」 今後の富山市とチューリップテレビの行方

富山市議会は14人もの辞職者を出し、半分の議員が補欠選挙や本来の選挙によって入れ替わりました。砂沢監督は「これまで立候補者が少なくかったのに、市議会議員の定数38人に対して58人が立候補したことから“変えていかなきゃならない”と思った人は多かったのだと思います。でも投票率は47%と前より低かったんです」と話しました。市民の反応について質問が及ぶと「不正がたくさん続いて全国的なニュースになった頃から、富山市民であることが恥ずかしいという声も聞くようになり、富山市議会に対する関心や期待が下がってしまったのではないかと感じています」と答え、「映画公開をきっかけに、もっと議会に注目しなければいけないなと思っています」と話しました。

また映画『はりぼて』制作の理由として、その後の様子を伝える必要があったと述べた服部プロデューサーは「富山だけでなく劇場や配信で全国に世界に伝えられる形になると思いました。ローカルで取材するものでも普遍性があって、全国にも通じるものがある。国の政治を見ると同じ構図になっているんじゃないかと感じます」と他の地方政治や国政にも通じる点があると話しました。

またチューリップテレビの今後の展望としてドキュメンタリー映画作成への意欲を表しました「“正々報道”というスローガンのもと進めてきた報道番組のようにこれからもあきらめず作っていきたいという宣言でもあります」と熱い気持ちを伝え、気になる次回作の制作も進んでいることをうかがわせました。記念すべき第一弾のチューリップテレビ発の映画『はりぼて』は富山市議会で起きた問題を振り返り、その後の市議会の様子を確認し、地方政治の在り方や国政について、有権者の役割について今一度考えるきっかけになる作品です。様々な議論を重ねてきた結果、意図をもって入れる事にしたというラストシーンにもぜひご注目ください。

8月22日に砂沢智史監督、五百旗頭幸男監督によるリモート舞台挨拶開催

名古屋での公開初日となる8月22日に、砂沢智史監督と五百旗頭幸男監督が、富山からリモートで舞台挨拶に参加されます。本編にも記者として何度も登場する砂沢監督、記者・キャスターとして登場していた五百旗頭監督のお話を直接聞くことができるチャンスです。ぜひこの機会に、名演小劇場で映画『はりぼて』をご覧ください。

日時:2020年8月22日(土)10:00~の回

場所:名演小劇場(3階)

登壇者:砂沢智史監督、五百旗頭幸男監督(富山からリモートにて参加となります)

 

作品概要

映画『はりぼて』

8月22日より名演小劇場で公開

市議会での「政務活動費」の不正問題をローカル局「チューリップテレビ」がスクープ報道をしたことから次々と発覚する不正と14人もの辞職ドミノに見舞われた富山市。
その反省をもとに政務活動費について厳しい条例を出したものの、3年半が過ぎると不正をした議員が辞職せず居直るようになっていた。テレビ番組放送後の議会のその後を追った政治ドキュメンタリー。

監督:五百旗頭幸男、砂沢智史

プロデューサー:服部寿人

語り:山根基世

テーマ音楽:「はりぼてのテーマ~愛すべき人間の性~」作曲・田淵夏海

音楽:田淵夏海

配給:彩プロ

Ⓒチューリップテレビ

http://haribote.ayapro.ne.jp/


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