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2020-08-08

格差と貧困にあえぐコロナ禍の日本 リーマンショックによる「派遣切り」と闘った労働者の映画『時の行路』神山征二郎監督に名古屋でインタビュー


 

8月15日から名演小劇場で公開となる映画『時の行路』は世界的な不景気を引き起こした2008年のリーマンショックの影響を受け、派遣切りにという契約期間内の解雇に直面した主人公が仲間と共に労働組合に入って会社と闘うヒューマンドラマです。現在のコロナ禍でも問題となっている「派遣切り」とも通じる点もあり、当時の派遣労働者と大企業との闘いや司法の判決の在り方を描き、格差と貧困にあえぐ日本社会をあぶり出している作品です。派遣労働者として静岡県・三島で大手自動車メーカーの工場で働き、妻子が暮らす青森に仕送りをする主人公・五味洋介を石黒賢さんが演じ、不当な解雇に抗って会社と闘う一方、家族の温かさも描かれる「闘いと愛情の物語」です。

これまで、『ハチ公物語』や『大河の一滴』など大ヒット映画をいくつも撮ってこられた神山征二郎監督に名古屋でインタビューしました。(取材日:2020年7月27日)

映画『時の行路』を上映する名古屋の名演小劇場の感染予防対策を取材しました

「作り話じゃないんですよ」実話をもとにした苦難に翻弄されながらも必死に生きる家族の物語

映画『時の行路』は石黒賢さんが主演をつとめ、理不尽な「派遣切り」に直面する五味洋介を演じています。この映画は田島一さんの同名小説を原作としていて「実際にモデルのある話」で、仲間と一緒に労働組合に加入し会社と闘う非正規労働者という立場のやるせなさ、家族を支えきれない自分へのふがいなさに苦しむなか小さな希望を見つけていくという物語です。また、夫を献身的に支える妻を中山忍さんが演じています。

神山監督は当時の不景気がじわじわ及んでいたこと、青森など全国から派遣工などの非正規労働者が増えていたこともお話されました。神山監督の語り口は静かながら「今の日本は一見、結構栄えた国で悪くは見えないけど、みんながそんなに幸せに見えない。この物語は、今自分が生きている時代のことを描けるなと内心思ったんですよね」と映画『時の航路』の監督を引き受けた経緯を教えてくださいました。スタッフやキャストも「どうもいかんぞ、世の中が。」という思いを持っていたようで現場の流れがとてもよかったと神山監督は手ごたえを感じられたようでした。

また、ご自身の経験から「経済というものは恐ろしいものだ」とも感じていたようで「この思いが映画に反映されている」と唇を引き結ばれる姿が印象的でした。

夫婦役の石黒賢さんと中山忍さんの 「やります」という反応で映画が一気に進んだ企画

田島一さんの小説「時の行路」が発行された2011年頃より映画化を希望する動きはあったもののなかなか実現しなかった企画で、プロデューサーが神山監督に「何とか作りたい!」と相談を持ちかけ、脚本を手直しすることを条件に監督を引き受けられました。「夫婦の愛情と苦しみに焦点を合わせ、お客さんがごく自然に物語に気持ちが入っていけるようにする」という考えから、「夫婦役の俳優は大切なパート」と監督はお話されました。石黒賢さんは1990年公開の『白い手』、中山忍さんは1996年公開の『宮沢賢治 その愛』と神山監督作品への出演経験のあり、50歳前後という年齢設定にぴったりで、俳優としての実力を見込んでオファーしたそうです。お二人とも早い段階で「やります」と反応され、キャストが決定したことで、映画制作が大きく進みだしました。「二人がいい仕事をしているからリアリティーがあるし、本当の夫婦に見える。」と神山監督もベテランのお二人に感謝していました。

闘いに挑む夫を献身的に支える妻、病魔に侵された妻を仲間から寄せられたカンパを持って見舞う夫。その姿の尊さは、監督がパンフレットで語っていた「私たちの足元で巨大な危機が渦巻いています。そんな時代を生きている私たちの、しかし希望は失わないぞ、という心の糧を作りたいと思い続けてきました。」という言葉を形にしたシーンの一つではないでしょうか。

第30回 神山征二郎監督作品『時の行路』18歳から現在79歳までの長きにわたる映画人生 監督の仕事とは?

神山征二郎監督は岐阜県の農家の次男として誕生され、高校卒業後、日本大学芸術学部映画学科で学び始めたことが映画人生のスタートとなりました。当時の日本映画の華やかさ、そして絶好調だった日本映画界が下降していったときの心もとなさ、映画の道を断念して“やめる記念”に書いたシナリオで監督デビューしたことなど約50年間のご自身の監督としての軌跡を悲喜こもごも語られました。

また『ハチ公物語』を海外で上映した時の、あたたかなもてなしについて笑顔いっぱいにお話いただきました。神山監督は「監督とは方針をきめて、その方針にそって撮影し、チェックする。それを朝から晩まで繰り返す仕事」だと定義されました。ご自身の病気のアクシデントを乗り越えながら製作した第30回作品『時の行路』にご期待ください。

映画『時の行路』を上映する名古屋の名演小劇場の感染予防対策を取材しました

作品概要

映画『時の行路』

8月15日(土)より名演小劇場にて上映

石黒賢主演、リーマンショックに端を発した非正規労働者の大量首切りに見舞われた主人公の五味洋介一家の物語を軸に、労働組合とのかかわりを通して弱者が強者に向かっていく連帯のすばらしさを描き出すヒューマンドラマ。

出演:・石黒賢、中山忍、川上麻衣子、綿引勝彦、渡辺大ほか 日色ともゑ(ナレーター)

監督:神山征二郎

共同監督・土井拓郎

脚本:土屋保文、神山征二郎

原作:田島 一

音楽:池辺晋一郎

製作・配給・宣伝:『時の行路』映画製作・上映有限責任事業組合

http://www.tokinokouro.kyodo-eiga.co.jp/

©映画「時の行路」製作委員会


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