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2022-10-05

20年ぶりに再会した板谷由夏さんに「人間として信用できます」 映画『夜明けまでバス停で』高橋伴明監督に名古屋でインタビュー


 

10月8日(土)からイオンシネマ岡崎、10月14日(金)から伏見ミリオン座で公開される映画『夜明けまでバス停で』は2020年冬、バス停で寝泊りするホームレス女性が、突然襲われた事件をモチーフにした作品です。コロナ禍で更に不安定な就労状況に置かれた危機的な状態にもかかわらず、「自尊心」がゆえに助けを求められず、ホームレスになってしまった主人公を板谷由夏さんが好演しています。“もしかしたら明日、誰しもが置かれるかもしれない社会的孤独”が痛いほど身近に感じられる作品で、大西礼芳さん、三浦貴大さん、根岸季衣さん、柄本明さんなど魅力的なキャストが脇を固めています。

映画の公開前に高橋伴明監督が名古屋でインタビューに答えてくれました。女優・板谷由夏さんの人柄、魅力的なキャストについて、映画化に向けての経緯など笑顔を交えて話してくれました。(取材日:2022年9月26日)

20年ぶりに再会した板谷由夏さん「壁も溝もなかった」「人としてブレなかった」

映画『夜明けまでバス停で』は、非正規雇用や年齢を起因とする不安定な就労状況に加えて、突然のコロナ禍で仕事と家を同時に失ってしまった主人公と彼女を取り巻く人間模様が描かれた物語です。昼間はアクセサリー作家、夜は焼き鳥店で住み込みのパートとして働いて、なんとか暮らせていたけれど、コロナ禍で突然の解雇と住宅からの退去を命じられホームレスになった主人公を板谷由夏さんが体当たりで演じています。板谷さんは本作で、生活苦とともに痩せていく姿を表すために減量もしたそうです。

高橋伴明監督は20年前に映画『光の雨』(2001年)で板谷さんに出演してもらって以降は特に交流がなかったものの「彼女がどんな仕事をしているのかは見ていました」と心に留めていたそうです。そんな中、「数年前に『光の雨』の同窓会をやろうかとなったとき、板谷から“行けない”って電話がありました。ブランクを感じさせなかったですね」と笑顔で話しました。「今回も20年ぶりの再会だけど、ぜんぜん壁も溝もなかった。彼女自身が生き方として人としてブレなかったんだと思いますよ。人間として信用できます。20年前と今と印象が全く変わらない」と板谷さんの人柄を称賛しました。

主人公・三知子のキャラクターは高橋監督が細かく注文したのでなく、板谷さんが脚本を解釈して演じた佇まいをそのまま映し出したと教えてくれました。高橋監督は「彼女は余計なことはつけない、飾らない」と評すとおり、板谷さんの正直で率直、真面目で思いやりがあるイメージが主人公の三智子と重なります。人に助けを求められない不器用さも透けて見えてくるようです。

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魅力的なキャストに注目!大西礼芳さんには「受験生のころから目をつけていました」

映画『夜明けまでバス停で』は現実に起きた事件を基にしながら、高橋監督が「もっと破綻した話にしたかった」と語るようにエンタメ要素も散りばめられたストーリーが展開されます。ベテラン俳優の柄本明さん、根岸季衣さんはホームレスの先輩格として登場します。役の過去やキャラクターが個性的なのは、演じるご本人を参考にしたのかしら…と思えるようなハマリ具合です。柄本さん演じるホームレスの男性が脚本に出現したときに、ストーリーの流れが“現実の事件の結末とは違った道”へと変わっていったと高橋監督が明かし、「脈々と続く政権・政治に、ちょっと後ろ足で引っ掛けてやれるかなという思いが湧いてきました」といたずらっぽく笑いました。高橋監督は根岸さんについて「何年も飲み屋なんかでは知り合いなんだけど、今回が初めての仕事です。やっとできたみたいな感じで、お互いに楽しみました」とニッコリ。現場では「弾んでましたね、はしゃいでた」と振り返りました。

本作に出演している若手の俳優も魅力的です。主人公の三智子と友情を育む、焼き鳥店店長役を大西礼芳さんが演じています。実は大西さんは高橋監督の教え子なんだとか。高橋監督が京都造形芸術大学(現:京都芸術大学)映画科で教鞭をとっている関係で入試の面接に立ち会ったそうです。「面接のときから大西のことを知っています。受験生のころから目をつけていました」と言い、当時の印象を「法隆寺の仏像のような顔だなと。演技的には未知だけど、自分にはインパクトがありました」と振り返りました。本作での彼女の様子・成長について尋ねると「まぁまぁまぁ。(笑)立場上、僕に反抗できなかったんじゃない?でも言いたいことはちょっと言うようになったね」と目を細めました。主人公との関係性が一筋の光になる大切な役を愛弟子に委ねる高橋監督の信頼を感じさせる瞬間でした。

三浦貴大さんは、好青年のイメージを覆す“嫌ぁな感じ”をスクリーンにぶつけています。高橋監督は「役者だから何でもやれないとね」と飄々と語り、クズ男を演じる三浦さんの演技にほとんど口を挟まなかったと語りました。実力派の魅力あるキャストが、たくさん登場する映画『夜明けまでバス停で』あなたはどの人物に共感するでしょうか。

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誰もが被害者になる可能性がある話 社会的孤立とどう向き合って、どう立ち上がるか

高橋伴明監督は、2020年冬に起こったホームレス女性がバス停で引きこもりの男に襲われた事件について「事件が起こると興味を持つほうだけど、被害者・加害者の情報も少なかったし、う~ん共感できなかった」と率直に話しました。事件のあとに“彼女は私だ”のような運動が起こったことがきっかけで「待てよと。誰もが被害者になる可能性がある話だなと。誰しもがなり得ることを主として描けばいいと発想が変わってきて、映画にしてみようと思いました」と企画が進んだ経緯を述べました。

最初の脚本は事件をまとめた感じだったそうで「ライター(脚本家)が書いて来てくれたが、自分には面白くなかった。もっと破綻した話にしたかった」と話しました。「私は現場でコロコロ変えちゃうのでライターに嫌われるのです。だから嫌われないように今回は事前に丁寧にやり取りをしました」と語り、脚本を改訂する中で「ライターの知り合いに事件の当事者がいると聞いて、その話を書きなよと促してあの(先述の柄本明さん演じる)ホームレスの役ができました。そこからストーリーや設定が決まりました」と明かしました。

撮影のため高橋監督は東京の街で過ごすホームレスの方たちを観察したそうです。「見てすぐわかるようなホームレスの人は、東京では少ない。若い人もいるし、シャワーも浴びてるし、子連れもいます」と自身の目で見たことを教えてくれました。「ホームレスという言葉が出始めたころ(1980年代後半)に、新聞の特派員のバイトの仕事でホームレスの人と2・3日生活したことがあるんです。そのころの汚さ、みすぼらしさとは全く違いますね」と過去と現在の違いを話し、貧困やその人の危機が現在は見えにくくなっていることを危惧していました。本作には「ナプキン問題」「住み込みの仕事の危うさ」「外国人労働者の立場」などの切実な問題も織り交ぜて描かれており、監督の現代社会や政治への怒りが伝わってきます。最後に高橋監督は「社会的孤立だけ描いたわけではありません。社会的孤立とどう向き合って、どう立ち上がるかを考えて欲しい」と結びました。映画『夜明けまでバス停で』、最後まで見届けてください。

作品概要

映画『夜明けまでバス停で』

出演:板谷由夏 大西礼芳 三浦貴大 松浦祐也 ルビー・モレノ 片岡礼子 土井志央梨 あめくみちこ 幕雄仁 鈴木秀人 長尾和宏 福地展成 小倉早貴 柄本佑 下元史朗 筒井真理子 根岸季衣 柄本明

監督:高橋伴明

脚本:梶原阿貴

音楽:吉川清之

主題歌:Tielle 「CRY」(ワーナーミュージック・ジャパン)

配給:渋谷プロダクション

制作会社:G・カンパニー

(C)2022「夜明けまでバス停で」製作委員会

2022/JAPAN/ビスタ/5・1ch/ DCP/ 91min


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