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2025-09-26

村上春樹さんの傑作短編連作を基に映像化 映画『アフター・ザ・クエイク』井上剛監督にインタビュー 別々の時代・場所に生きる4人の物語が時空を超えて未来へ繋がってゆく


 

10月3日(金)から公開される映画『アフター・ザ・クエイク』は、村上春樹氏の短編集『神の子どもたちはみな踊る』(新潮文庫刊)に収録された4つの短編篇を基に描く人間ドラマで、1995年から2025年にかけて4つの時代と場所で生きる4人の物語が時空を超えて未来へ繋がっていく様が独創的に描かれています。監督を務めるのは映画『その街のこども 劇場版』、連続テレビ小説「あまちゃん」、大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」などを手がけてきた井上剛さんです。出演者は岡田将生さん、鳴海唯さん、渡辺大知さん、佐藤浩市さんのほか、唐田えりかさん、吹越満さん、堤真一さんなど豪華なラインナップで、橋本愛さん・のんさんの「あまちゃん」コンビが重要な役を担うという点も見逃せません。


本作はギャラクシー賞を受賞したNHK土曜ドラマ「地震のあとで」(2025年4月放送)と物語を共有しつつ、4つの時代を結ぶ新たなシーンが加わり、30年という時代のうねりを映し出した1本の映画として届けられます。映画『アフター・ザ・クエイク』公開前に名古屋で井上剛監督がインタビューに応じ、製作の経緯、震災を描くことについて、作中の<地下>の意味や地下鉄撮影の裏話などをについてお聞きしました。(取材日:2025年8月28日)

1995年の阪神・淡路大震災から30年 「定点のようなものとして発信したい」

井上剛監督は映画『アフター・ザ・クエイク』のTシャツ姿で「よろしくお願いします」と軽やかに現れました。まず、NHK土曜ドラマ「地震のあとで」が劇場版になったきっかけを尋ねると井上監督は「今年2025年は阪神・淡路大震災が起きて30年で、震災をテーマに何か作りたいという思いがありました。テレビドラマは広く多くの方に観て頂けるので日常の中で必要なものだと思っています。一方、映画は長く残るので良いな(=残していきたい)と思って作りました」と答えました。

そして、阪神・淡路大震災15年特集ドラマが劇場版となった『その街のこども 劇場版』(2010年について触れ、「15年前のこの作品が今も毎年神戸で上映していただけていて、何回か観た人たちの感じ方が年々変わっていく様子をみたり、新たに観る人がいたりなど、そこに映画の力を感じました。また、鑑賞した方が『この作品は、定点みたいなものだ』と言ってくださって、これに続くような作品を自分で発信したいと。実現するか分かりませんでしたが、ドラマ・映画の両方で作りたいと企画の段階から考えていました」と思いの丈を述べました。

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「その街のこども」の製作時に村上春樹さんの『神の子どもたちはみな踊る』を参考にしていたという井上監督は『アフター・ザ・クエイク』企画立案まで、この本の存在をすっかり忘れていたそうです。「山本晃久プロデューサーがハルキストで、村上氏と地元が近いということで“この作品でやろう”となって思い出した感じです」と笑い、15年前と今とが時間を超えて繋がる感覚が本作と似ていると感じたそうです。劇中では1995年、2011年、2020年、2025年に点在する人々が描かれます。また、人々の悲しみや不幸を食べ続けた”みみずくん”が再び地中で蠢きだしたとき、現代に帰ってきた“かえるくん”が、どのように人類を救うのかという村上春樹さんらしい文学的なストーリーです。この観念的な物語をどのように映像化するのか興味が尽きません。

井上監督に村上作品を映像に落とし込むうえで工夫したことや挑戦したことについて質問すると「全部ですね!」と即答。「特に村上作品の独特の文体・台詞が醸す読後感を損なわずに、生身の役者さんがどう繰り出せるかを皆と一緒に苦しんで考えました」と話しました。スタッフ、キャストとのイメージの共有について井上監督は「いろんな会話をしたし、各章撮影する中で…例えば3話章を撮影しているときに、曲がる廊下を思いついたり、2章の焚火のところは長回しなのですが、焚火がその章の鍵なので“焚火台本”を助監督が作ってくれて撮影したりと、村上春樹の世界にどっぷり入って試行錯誤していきしました」と教えてくれました。

そして井上監督は「村上さん独特の《意識下》の描写をどのように表すか、観ている人をどのように引きずり込むかというところに苦心しました」と述べました。具体的には、物理的な地下と・地震の巣のイメージと・人間の心のアンダーグラウンドを一緒に描き、潜っていく感じを出したかったと話しました。監督は「地下鉄も、曲がる廊下も地震の巣の“みみずくん”の腹の中のイメージです。物語が分からなくても、直感的に伝わるといいなと考えました」と映像的な工夫を明かしました。

地下鉄の撮影について井上監督は「実際の地下鉄で撮影していますが、それ以外にも模型やトンネル、鉄道が走るコースなどを鉄道ファンの方の協力をいただいて作って撮りました。不思議な生き物のような、でも作り物のようなファンタジックな映像が撮れたんではないかと思います」と自信を見せました。また曲がる廊下内の撮影は実際の廊下は曲がらないため、岡田将生さんに夢遊病者のような動きを演出し、みんなで創造していく現場だったと振り返りました。出来上がった映像を見て橋本愛さんは「思った通り!」と歓喜したそうで、井上監督は「なぜ分かったの?」と驚いたと明かしました。

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リアルとファンタジーが絶妙に混在した演出 “かえるくん”がいる第4章はウキウキしながら

物語の流れを見ていくと、1章で「からっぽ」というテーマを与えられて、2章に引き継がれ、3章も自分のルーツが分からず「自分は何者なのか」と揺れまくっている人たちの話です。4章になると唯一ブレない“かえるくん”が登場し、地下で暴れる“みみずくん”から東京を救うんだと片桐(佐藤浩市さん)と一緒に、地下に飛び込む様子が描かれます。リアルとファンタジーが絶妙に混在した演出は井上監督らしさを感じさせます。

井上監督は「4章のパートは“かえるくん”がいるので跳ねていいんだって、自分でもウキウキして撮りました」と明かし、“かえるくん”の造形は全部計算されたものでなく、現場で手探りで作っていったことも教えてくれました。のんさんの声を“かえるくん”に当てた理由を伺うと井上監督は「善なるものの象徴の“かえるくん”にはイノセントな声が欲しかったんです。のんちゃんの声は少年のようにも聞こえるし、何かを気づかせてくれないかなと思いました」と答えました。“みみずくん”と戦うために地下に飛び込んだ片桐と“かえるくん”の結末は…劇場でお確かめください。

改めて井上監督に、震災に対する認識の変化を尋ねると「映画『その街のこども』を作った時もその後も自分が被災していないので部外者のような感覚がありました。でも2011年に東日本大震災があって、2016年に僕の出身地で熊本地震が起きました。当時、僕は東京にいましたが両親が地震を経験して…だんだん震災がもたらす非日常的なものが身近な感じに思えてきました。震災だけでなく毎年のように水害があるし、災害級の暑さは数年続いているし、何らかの影響や被害を受けています、そんな状況に我々は徐々に慣れて麻痺して、想像することをどこかでやめてしまったのではないか」と述べました。

井上監督は「村上春樹さんが自分の故郷が被災したから物語を書き、地震の揺れが人の心を揺らしたと書いてありました。もう一つ、人間の暴力が地下鉄サリン事件として起きて、阪神・淡路大震災と同年に共通して<地下>で起きたことを作家はグッととらえて小説という形にしたんです。現在、天災だけでなく人の分断や戦争、生きづらい感じがとても似ていると思います」と指摘。そして本作『アフター・ザ・クエイク』は我々に近づいてくる“何か”についてや、私たちが置き忘れたもの、想像しなくなっている私たちを映し出すものとして「今やった方がいい」と企画が進んだと明かしました。加えて「『アフター・ザ・クエイク』って言っていますが、一つひとつが何かの《ビフォア》に見えて来るように…そういう構造で作ってみました」と作品をアピールしました。

作品概要

『アフター・ザ・クエイク』

10月3日(金)より、テアトル新宿、シネスイッチ銀座ほかにて全国ロードショー!

<STORY>
1995 年、妻が姿を消し、失意の中訪れた釧路で UFO の不思議な話を聞く小村。2011 年、焚き火が趣味の男と
交流を重ねる家出少女・順子。2020 年、“神の子ども”として育てられ、不在の父の存在に疑問を抱く善也。2025
年、漫画喫茶で暮らしながら東京でゴミ拾いを続ける警備員・片桐。世界が大きく変わった 30 年、人々の悲しみや
不幸を食べ続けたみみずくんが再び地中で蠢きだした時、人類を救うため“かえるくん”が現代に帰ってくる―。

出演:岡田将生 鳴海 唯 渡辺大知 / 佐藤浩市 橋本 愛 唐田えりか 吹越満 黒崎煌代 黒川想矢 津田寛治 井川 遥 渋川清彦 のん 錦戸 亮 / 堤 真一

監督:井上 剛 脚本:大江崇允 音楽:大友良英

プロデューサー:山本晃久 訓覇圭

アソシエイトプロデューサー:京田光広 中川聡子

原作:村上春樹『神の子どもたちはみな踊る』(新潮文庫刊)より

製作:キアロスクロ、NHK、NHK エンタープライズ 制作会社:キアロスクロ

配給・宣伝:ビターズ・エンド

©2025 Chiaroscuro / NHK / NHK エンタープライズ

公式 X:@ATQ_movie #アフター・ザ・クエイク

https://www.bitters.co.jp/ATQ/


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