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2025-07-07

熊本県人吉を舞台にした映画『囁きの河』故郷での撮影を語る中原丈雄さん 名古屋でインタビュー


7月11日(金)から全国順次公開(7月18日(金)より伏見ミリオン座で公開)となる映画『囁きの河』は、2020年7月に起こった熊本豪雨により球磨川が氾濫し破壊的な被害を受けた人吉隈球磨地域が舞台となっています。変わりはてた故郷に戻った一人の男:孝之を中心に、その地域で生きる人々の希望と再生が描かれていて、熊本県人吉市の出身の中原丈雄さんが主演を務めます。
共演は清水美砂さん、三浦浩一さん、渡辺裕太さん、元AKB48の篠崎彩奈さん、不破万作さん、宮崎美子さんなど味わいのあるキャストが揃っています。未だ災害の傷跡が残る現地での取材を重ねながら復興の歩みを見つめ、脚本と演出を担ったのはNHK朝の連続テレビ小説『おしん』やドラマ『家裁の人』など人気作を手がけてきた大木一史監督です。
公開前に名古屋で主演の中原丈雄さんがインタビューに応え、名古屋の印象や故郷について、役作り秘話、共演者さんたちとの思い出などを話してくれました。(取材日:2025年6月13日)

意外?!大須が好きな中原丈雄さん「好きな楽器屋さんや古着屋さんがある」

映画『囁きの河』は母の訃報を受けた孝之(中原丈雄さん)が22年ぶりに帰郷するものの、変わり果てた故郷の中でどのように生きていくのか、長らく疎遠だった息子(渡辺裕太さん)との関係修復の模様、また災害のせいで夫婦の間に亀裂が入った孝之の幼馴染夫妻(清水美砂さん、三浦浩一さん)、隣家の夫婦(不破万作さん、宮崎美子さん)のあり方など、河と共に生きてきた人々が、それぞれの歩み方で明日へ進もうとする姿が描かれる作品です。
中原丈雄さんに名古屋の印象を聞くと、「名古屋には好きな街があって…楽器屋さんや古着屋さんがある大須。そこをブラブラして一杯(お酒を)飲んで歩きたいですね」と、大須好きであることを教えてくれました。物腰のやわらかなお人柄なのでスッと街に溶け込んでしまいそうな雰囲気です。中原さんが出演しているテレビ熊本の番組(「中原丈雄の味わいの刻」)で、名古屋コーチンを召し上がっていた回の放送を拝見したと話すと「あの番組も、もう11年目に入りました。月に1,2回熊本に行って撮影していますよ」と話し、故郷の熊本との縁の深さが伺えました。
本作には企画段階から関わっていたのかと質問すると「熊本で映画を撮るという話は耳にしていました。それからずいぶん経ってから新たに別の企画として脚本を頂いて、読ませてもらいました。熊本で発生した豪雨による被害をベースに、主人公の孝之の存在や生き方、球磨川とそこに住む人たちの話で良い(脚)本だと思いました。(脚本・監督の)大木さんと初めて仕事をさせていただきましたが、骨の太い部分が見えました」と振り返りました。また、スタッフ・キャストの顔合わせの時に、大木監督が自分と同い年と知り「親近感を持ちました。」と笑顔を見せました。

中原丈雄さん「脇を演じるときと、主演では見え方が違う」故郷での撮影で自ら方言指導も

映画『囁きの河』で主演する中原丈雄さんはこれまでNHK大河ドラマ『真田丸』(2016年)、NHK連続テレビ小説『なつぞら』(2019年)、最近ではドラマ『あなたを奪ったその日から』などに出演したり、また映画『おしゃべりな写真館』(2024年公開)では主演を務めたりとこれまで多くの作品に携わってきました。本作『囁きの河』は中原さんの故郷の熊本県人吉を舞台にした作品であり、故郷を背負う覚悟と共に、寡黙で無骨な男の秘めた情熱を体現しています。中原さんは「主演というのはやっぱり俳優はチャンスがあれば受ける…と思います。何本か主演をさせて頂きましたが、脇でやる時の芝居と、頭(主演)でやる時では見え方が違うんです。具体的には、周りの動きのことがいつも以上に分かるし、自分がどのような責任を持つべきなのかを感じるんです。幾つになっても役者は勉強です。」と力を込めました。
地元熊本での撮影中の様子を尋ねると「渡辺裕太くんとは、親子役として互いに心が開いていないといけないから、早い段階から『裕太』と呼び捨てにして撮影に入る前から飲みに行きました」とニッコリと父親の顔を見せました。「今回の現場は少人数ですし、自分が故郷でやっていることと、(この地で作る映画の)主演であることに責任みたいなものを常に感じていました」と話しました。人吉地方の言葉を話す役柄ということで中原さんは「僕は故郷だから、(方言を覚える)苦労はなかったので、他の共演者さんたちには僕が教えました。また方言指導の先生には、なるべく短い言葉になるように台詞を直すことなどの提案をしたんですよ」と明かしました。意外にも熊本出身の(宮崎)美子さんは同じ熊本でも、鹿児島に近いから言葉が少し違うといった裏話が聞け、中原さんの「方言指導」が生きた作品であることがわかりました。

「櫓を船に乗せるだけでも精一杯」船頭役のために猛練習した中原さんと渡辺裕太さんに注目

主人公の孝之は22年前は、船頭だった雰囲気が漂う男です。そして22年ぶりに再会した息子:文則は船頭を目指す青年です。中原さんは主人公の孝之について「長らく船から離れていたけれど故郷に戻って、この男だったら体に染みついた勘で船を扱うことができるのではないかと思った」と話し、孝之を演じるために船を漕ぐ練習に励んだと述べました。
練習の様子を尋ねると「もう、大変ですよ」と笑い、「船を漕ぐ櫓が長くて、ものすごく重いんですよ。それを船に乗せるだけでも難しいうえに、乗せる所のくぼみが5ミリくらいの深さしかないんです」と言い、「はじめの10日くらいは、櫓を乗せるだけで精一杯でした」とこぼしました。球磨川は最上川・富士川に並ぶ日本三大急流の一つ。船に櫓を乗せるくぼみが浅いのは、急流で操縦ができないときに船と櫓が外れないと危険だからだと聞いたそうです。「それでも毎日少しずつ漕げるようになって、10mから20mとできるようになりました」と話しました。
一緒に練習した息子役の渡辺裕太さんについて伺うと「裕太は覚えるのが早かったね。僕が教える側の役なのに、彼の方が上達が早くて・・・」と笑顔を見せました。練習から数か月空いての撮影で、漕げるか心配だったそうですが「体で覚えてしまうと案外できるものですね。本物の船頭さんは大体、半年くらい練習して練習して船頭になっていくらしいのですが、私たちの練習期間は2週間でね」と猛練習したことを明かしました。ベテラン船頭の風格漂う中原丈雄さんと船頭を目指す息子役の渡辺裕太さんの姿、そして球磨川の美しさにご注目下さい。

「球磨川だけでない」河や自然と共に生きる人々の覚悟を描く

22年間も故郷に戻らず、息子にも一度も会いに行かなかった孝之という人物を演じるにあたり中原さんは「借金が原因でいなくなったということしか台本になかったんです。だから自分で(書かれていないことを)埋めていく」と人物像を振り下げていったと語りました。具体的には「彼の生き方を考えると、耐えられないほどのことがあって故郷から出たのだろうし、よほどの気持ち、覚悟で帰ってきたと思う」と心を寄せました。そして劇中で畑を耕す孝之について「ここに根を下ろして生きていきたいという気持ちがあるかもしれない」と孝之の心の変化や彼にとっての再生を体現していったと話しました。
映画のタイトルは『囁きの河』。中原さんは「河の苦しみを分かって、その”囁き”に耳を傾けるということですね」と言いました。また、「洪水で家が流されて今も仮設住宅にいらっしゃる方がいます。でも彼らは誰も球磨川に文句を言わないんです。川があって自分たちがいると考えていて…私も子供のころからそう思っていますよ」と川辺に住む人の気持ちに共感を示しました。加えてタイトルの「河」という字について中原さんは「それは(脚本・監督の)大木さんのこだわりです。球磨川だから”川”ではないかと言われますが、”川”だと海に流れ着いてしまう」と話しました。”川”は海に流れつくので、新たな未来が見えているイメージだと補足し、「流れて行っちゃ駄目なんですよ。本作は、未来が見えない…常にどこか戻って来るような風に大木さんは考えていたと思います」と監督の気持ちを代弁しました。そして「河」にすることで、球磨川に限定せず、どこの川でも起こりうるという普遍性も加えているのではないかと話しました。
中原さんは「実は川だけでなく、山でも土砂崩れが原因で集落から立ち退かなきゃならないところも描かれています。鐘を付くシーンがありますが、あの場所はもう誰も住んでいないところなんです」と劇中と現状が重なっていると教えてくれました。印象深いエピソードとして「夕方になると今はだれも住んでいないところに『早くおうちに帰りましょう』と子供の声のアナウンスが流れるんです。かつてそのアナウンスを聞いて生活していた年配の方たちにとって仮設住宅が最後の住まいになるのかと思うと、何とも言えない気持ちになりましたよ」と振り返りました。
中原さんに映画の完成版を見た時の感想を尋ねると「僕はヨーロッパの小さい映画が好きなんですが、そういうふうな心(=憧憬)のある映画ができたなと、すごくホッとしました。音楽もいいんですよ」と答え、故郷が舞台かつ、主演という作品に満足な表情を浮かべました。日本は山や川・海と自然に恵まれるとともに災害にも見舞われやすい国です。映画『囁きの河』は熊本県人吉を舞台にしていますが、日本各地で災害に遭ったみなさんと同様に「もう一度がんばろう」という人の背中を押してくれる物語です。映像も美しいのでぜひスクリーンでご覧ください。

作品概要

映画『囁きの河』

7月11日(金)より全国順次公開
(愛知県内:7月11日(金)よりイオンシネマ豊川、7月18日(金)より伏見ミリオン座で公開)
令和2年7月豪雨の被災地である熊本県球磨川を舞台に
失くした居場所を自分で取り戻すまでを描く
2020年、熊本を襲った豪雨から半年。母の訃報を受けた孝之(中原丈雄)は22年ぶりに帰郷するが、仮設住宅で暮らす息子の文則(渡辺裕太)は、かつて自分を捨てた父に心を開こうとしない。幼馴染の宏一(三浦浩一)が営む旅館「三日月荘」もまた半壊の痛手を負っていた。女将の雪子(清水美砂)が再建を願う一方、父を土砂で亡くした宏一は前を向けず、災害は夫婦の間にも亀裂を生む。その頃、球磨川くだりの再開を信じて船頭を志す文則は、かつての同級生・樹里(篠崎彩奈)と再会。隣人の直彦(不破万作)と妻のさとみ(宮崎美子)は仮設から自宅に戻ることを決め、孝之も水害で荒れた田畑の開墾に希望を見出していく。「居場所ばなくしたら、自分で取り戻すしかなか」河とともに生きてきた人々は、それぞれの歩み方で明日へ進もうとしていた──。
監督・脚本:大木一史
出演:中原丈雄 清水美砂 三浦浩一 渡辺裕太 篠崎彩奈 カジ 輝有子 木口耀 宮﨑三枝 永田政司 堀尾嘉恵 福永和子 白砂昌一 足達英明 寺田路恵 不破万作 宮崎美子
配給会社:渋谷プロダクション
©Misty Film

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