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2024-12-10

授業参観では見られない児童や先生の姿 ドキュメンタリー映画『小学校~それは小さな社会~』山崎エマ監督にインタビュー


 

12月13日(金)より伏見ミリオン座ほかにて全国順次公開となる映画『小学校~それは小さな社会~』は日本の公立小学校に通う1年生と6年生の子供たちの日常を1年間に渡って描いたドキュメンタリー作品です。『モンキービジネス おさるのジョージ著者の大冒険』『甲子園:フィールド・オブ・ドリームス』などを手掛けてきた山崎エマ監督が長い時間をかけて完成させた最新作です。

入学式、運動会、遠足などの学校行事やその準備、毎日の給食や教室の掃除、児童や先生方とのやり取りをつぶさに観ることができ、1年間の子供たちの変化や成長、先生方が思い悩む姿なども映し出されています。本作はカメラと被写体である児童や先生との距離感がとても近く、登場人物の心情がしっかりと伝わってくるドラマティックな部分もあり、学校という環境で撮影したとは思えないほど映像や音声のクオリティが高いことにも驚かされます。

公開を前に山崎エマ監督が名古屋でインタビューに応じました。企画から取材に至る過程や取材時の工夫やこだわり、本作を通じて伝えたいことなどを話してくれました。(取材日:2024年11月29日)

普段の小学校 児童と先生のやり取り ありのままの日常を観る

映画『小学校~それは小さな社会~』は2021年4月から1年間に渡って、東京都世田谷区の公立小学校にカメラを入れ、入学したての1年生と卒業を控えた6年生に焦点を絞って、彼らの学校生活を追ったドキュメンタリー作品です。公立小学校を舞台に繰り広げられる日常の様々な出来事が描かれていて、特に授業以外の活動である給食の配膳や掃除、委員会活動などは日本人の私たちから見ると当たり前の光景ですが、海外では珍しく「日本特有の教育である」と大きな反響を呼んでいます。

監督の山崎エマさんはイギリス人の父と日本人の母を持ち、大阪の公立小学校を卒業後、中高はインターナショナル・スクールに通いました。その後、アメリカの大学へ進学し、ニューヨークで映像制作を学び、2017年に映画『モンキービジネス おさるのジョージ著者の大冒険』を発表後、2020年に日本でも公開されたドキュメンタリー映画『甲子園:フィールド・オブ・ドリームス』では「夏の甲子園」第100回記念大会へ挑む高校球児とその指導者へ1年間に渡る長期取材を敢行しました。

山崎監督は海外での反響について「小さい子供に責任を与えるやり方、掃除や給食の配膳などを任せるということが画期的」と日本式教育について語りました。クラスや学年、委員会や係などを例に挙げ「(役割を)楽しみに学校に来る子もいて、学校の中での役割が面倒なことや罰ではなく、子供たちのやりたい事に仕向けていっています」と日本の小学校の特徴を説明し「日本では自分が属している集団の中で、自分がどう役に立つのかを覚えていきます。アメリカでは逆で、隣の人と違うことを考えて個性を伸ばす。ユニークさを競い合うことが先で、協力することや集団の在り方を学ぶのは後になります」と違いについて話しました。

小学校で我が子がどのように過ごしているのかは、多くの保護者にとって大きな関心事です。授業参観へ行けば小学校での子供の様子を見ることもできますが、それはごく一部です。本作では小学校の普段のありのままの日常を覗き見している感覚になります。児童と先生とのやり取り、児童同士の会話や交流、学校という空間の中で与えられた役割を子供なりに全うしようとする懸命な姿は心を打つもので、1年間という時間の経過と共に子供の変化や成長を感じることができます。

また本作では子供たちと向き合う先生方が葛藤する様子もつぶさに映し出されています。山崎監督は「先生方は悩みながら正解のない日々を過ごしていて、去年は上手くいっても、今年は上手くいかないことも。議論をしながらクラス運営、学校運営をしています」と話し「日本の教育はネガティブなことが話題になることが多いのですが、海外から見ると日本の先生たちの素晴らしいところはたくさんあります」と取材を通じて感じたことを語りました。日本での公開にあたり「日本の小学校の先生たちのやっていることの凄さに気が付いてもらえれば」と想いを伝えました。

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「伝わらなければ意味がありません」近い距離での撮影や音にこだわって撮影

2021年の東京の小学校の1年間を取材した本作、マスクを着用しての登下校や授業、給食時のパーテーションや黙食、野外学習の中止や分散登校、オンライン授業の様子など、コロナ禍での小学校がどのように日々の活動を行っていたのかも映し出されています。山崎監督はコロナ禍前から小学校の取材を行おうと企画を進め、取材先を探していたそうで「1クラスだけ、1人の先生だけではなく、学校全体を撮りたい」という点にこだわっていたと話し、受け入れてくれる小学校を見つけることが難しく、企画から取材開始までには長い時間がかかったそうです。

世田谷区の協力を得て、取材をすることが決まった公立小学校は6学年の全校生徒が1000人程の規模の学校です。1年生と6年生の1年間を撮影するにあたり、本格的な撮影がスタートするのは4月でしたが、前年の3学期から学校に入って次年度に6年生になる5年生の児童と交流を図り、1年生として入学する予定の児童の家庭にも取材に行くなど、撮影に慣れてもらうようにしたそうです。

またどの生徒やどの先生をメインに据えるかは決めずに撮影をスタートしたそうで「誰が輝くかわからないので、当初は幅広く撮影していました」と話しました。その結果、撮影は150日、700時間に及び、4000時間を現場で過ごした山崎監督は「毎日、毎日、学校では素敵なことがたくさん起きていました。私が目で見ていても、カメラに収められなかったものもたくさんあります」と振り返りました。子供同士の助け合いもたくさん見ていたそうで「似たような状況や光景を何度も見てきたから、一番美しく映像と音で撮れたものを使っています」と伝えました。さらに「700時間撮っているけれど、99分の映像にするのにギリギリ足りました」と付け加え、映像や音声のクオリティにもこだわり、映像の統一感なども考えて編集を行ったことも教えてくれました。

被写体との距離が近いことについて「遠くからと近くからの映像は、全然伝わり方が違います」と話し、「伝わらなければ意味がありません」と視聴者に伝わる映像を撮る事が使命だという考えを述べました。また「手持ちの小型のカメラを首から下げて撮影をすることで、子供の目線で撮影できるように考えました。カメラマンを見失うくらい、教室に溶け込んでくれて、いい映像を撮ってくれていました」と話しました。

また本作で使われている音は取材時に収録した音声と登場人物の声、少しのBGMだけでナレーションは入っていません。メインに据えた登場人物にはピンマイクを付けてもらったことも明かし、ニューヨークで映画の作り方を学んだ山崎監督にとっては「当たり前」のことだったと話しました。「海外では被写体の声が聞こえないと話にならない、音は映像と同じくらい大事」というこだわりを持ち、劇映画の音声スタッフに入ってもらったことも教えてくれました。

小学校で長い時間をかけて取材をした山崎監督は子供たちから「エマさん」と呼ばれ、教室にカメラマンやスタッフが居ることがごく自然になっていたそうです。「なんでもない時間も撮り続ける。何かあった時に撮り続けられる関係性を先生や保護者とも作り続けていく」と取材中に意識していたことを伝えてくれました。

日本人であれば多くの人が経験してきた小学校での6年間。現在の小学校の様子を改めてスクリーンで観ることで、日本の教育について考え、子供の保護者としてどうあるべきか、様々な気付きを得るきっかけになるのではないでしょうか?

作品概要

『小学校〜それは小さな社会〜』

12月13日(金)より伏見ミリオン座ほか全国順次公開

監督・編集:山崎エマ

プロデューサー:エリック・ニアリ

撮影監督:加倉井和希

製作・制作:シネリック・クリエイティブ

国際共同製作:NHK

共同制作:Pystymetsä Point du Jour YLE France Télévisions

製作協力:鈍牛俱楽部

配給:ハピネットファントム・スタジオ

宣伝:ミラクルヴォイス

2023年/日本・アメリカ・フィンランド・フランス/カラー/99分/5.1ch

©Cineric Creative / NHK / Pystymetsä / Point du Jour

公式サイト:shogakko-film.com

公式X(旧Twitter):https://x.com/shogakko_film

公式Instagram:https://www.instagram.com/shogakko.film


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