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2023-05-25

タイトル決定までの経緯 坂元裕二さんとのやり取りを明かす 映画『怪物』カンヌ滞在中の是枝裕和監督にインタビュー


 

6月2日(金)より公開となる映画『怪物』は『万引き家族』の是枝裕和さんが監督をつとめ、『花束みたいな恋をした』の坂元裕二さんが脚本を手掛けるオリジナル作品です。第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に正式出品され、公式上映後に9分半にもわたるスタンディングオベーションが続いたことも話題となっています。映画『怪物』は大きな湖のある町の小学校で起きた子ども同士のケンカをきっかけに、教師による体罰を疑い学校へ抗議する母親、体罰ではないという教師、教師から暴言を受けたと話す子ども、それぞれの主張が食い違う中で大きな事件へと発展していくストーリーです。息子を愛するシングルマザー役の安藤サクラさん、担任教師役の永山瑛太さん、小学校の校長役で田中裕子さんが出演していて、子役の黒川想矢さん、柊木陽太さんが2人の小学生を演じています。今年3月に亡くなった坂本龍一さんが楽曲を提供していて、2曲は書き下ろし曲となっています。

カンヌに滞在中の是枝監督にオンラインでインタビューし、『怪物』というタイトルに決まった経緯やかねてよりファンだったという坂元裕二さんについて、監督として意識していたことなどを聞きました。(取材日:2023年5月24日)

「『怪物』というタイトルに最終的に決まったのは撮影直前」「僕から提案したと思います」

映画『怪物』は『万引き家族』でカンヌ国際映画祭最高賞パルム・ドールに輝いた是枝裕和監督と『花束みたいな恋をした』『大豆田とわ子と三人の元夫』などの脚本家・坂元裕二さんのタッグによるオリジナル作品です。大きな湖のある郊外の町を舞台に、小学校で起きた子ども同士のケンカをきっかけに大人や社会、メディアを巻き込み、大きな事件に発展していく物語。息子を愛するシングルマザー・早織を安藤サクラさん、生徒思いの学校教師・保利を永山瑛太さん、小学5年生の早織の息子・湊を黒川想矢さん、湊の同級生・依里を柊木陽太さんが演じています。予告編では「怪物だーれだ」と言いながら湊と依里がインディアンポーカーで遊んでいる様子が映し出されていますが、映画は母親、教師、子供の3つの視点で描かれている三部構成で、観ていくうちに『怪物』というタイトルに込められた意味が伝わってきます。

坂元さんの書いたロングプロットを読み、監督を引き受けることを決めた是枝監督。ロングプロットの段階で完成形の三部構成は出来上がっていたそうですが「僕がもらったプロットの段階では別のタイトルがついていました。『怪物』というタイトルに最終的に決まったのは撮影直前です」と話しました。タイトルが決まった経緯を聞くと「僕の記憶では僕から提案したと思います」と脚本を完成させていく段階で坂元さんに伝えていたことを明かしました。『怪物』というタイトルについて「坂元さんの中にはちょっと躊躇があったのでは?」と慮り「脚本を書き直されるたびに違うタイトルがついてきて、みんなビックリしていたんです」と撮影直前まで『怪物(仮)』だったことも話し「坂元さんが“怪物だーれだ”っていうインディアンポーカーの掛け声をタイトルの提案の後で書いてきてくれているので、結果的に僕らの提案を受け止めて、それがしっくりくるようなディテールの書き込みをしてくれました」とタイトル決定までの詳しい経緯を教えてくれました。

 

「組織の中や母親の心の中などに立ち現れる“怪物”を描くという意識はありました」

かねてより「脚本家と組んで映画を作るなら?」と聞かれると「坂元裕二」と答えてきたという是枝監督。坂元さんが脚本をつとめた1990年代のラブストーリーも観ていたと答えながら、菅野美穂さんが弁護士を演じ、公立中学校を舞台にいじめなどの学校が抱えるさまざまな問題を描いたドラマ『わたしたちの教科書』(2007年放送)や永山瑛太さんと満島ひかりさんが出演し、ある悲劇を背負った男女の魂の触れ合いや崩壊した家族が再生していく姿を描いたドラマ『それでも生きていく』(2011年放送)が決定的だと言い「そこからは(坂元さんが)作られるものを追いかけていたただのファンです」と話しました。映画『怪物』の坂元さんの脚本についての感想を聞くと「先へ先へと引っ張ってくストーリーラインが非常に強くて、魅力的なんだと感じました」と述べ、「僕は基本的に何かが起きた後のアフターを書くのですが、今回はビフォアなんです。何かが起きそうだっていう時間を描いていて、それがずっと不穏なまま続いてくのが面白くて勉強になりました。次に自分で書くときには、このテクニックを使おうと思っています」と笑いながら話していました。

映画『怪物』は学校内で起きたトラブルに対して親と学校が対立する様子が描かれていて、特に安藤さん演じる早織に対する学校側の対応や教師の発言は異様に感じるシーンもあります。是枝監督は「最初にいただいたプロットの段階でこれは相当攻めているなと思ったので、逃げずに向き合うことにしました」と話し「誠実に向き合きあうために、いろいろ調査をしたり、勉強会も開きました」と様々な準備をしていたと伝えました。

また、学校や教師の描き方について「早織から見た時に“なんだ?この人!”って思われながら、ギリギリあり得るかなっていうところを探っていきました」と話し、教師役の永山瑛太さんについて「瑛太さんも“やりすぎていたら言ってください”っていうことでしたが、坂元さんの脚本の咀嚼力、理解力がとても高いので、テイクは重ねていないです。坂元さんも瑛太さんの芝居を予測しながら脚本を書いているし、瑛太さんも“僕が求められているのはこういう芝居だな”とつかんで現場に入っている感じでした」と撮影現場の様子を語りました。本作の内容について「学校で起きる事件だけれど、学校批判ではなく、組織が持つ個人に対する抑圧や暴力性を描写しようと思っていました。組織の中やひとりの母親の心の中など、いろんなところに立ち現れる“怪物”を描くという意識はありました」と監督として意識していた点を話しました。

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作品概要

映画『怪物』

2023年6月2日(金)全国ロードショー

キャスト:安藤サクラ 永山瑛太 黒川想矢 柊木陽太 / 高畑充希 角田晃広 中村獅童 / 田中裕子

監督・編集:是枝裕和

脚本:坂元裕二

音楽:坂本龍一

配給:東宝 ギャガ

©2023「怪物」製作委員会


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