toggle
2024-03-25

映画『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』シネマスコーレで井上淳一監督、芋生悠さん舞台挨拶&ティーチイン


 

3月16日からシネマスコーレで公開されている映画『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』は、名駅西にあるミニシアター「シネマスコーレ」開館期の青春群像劇で、故・若松孝二監督が代表を務めた若松プロダクションの黎明期を描いた映画『止められるか、俺たちを』の続編です。1983年、映画監督がまだ誰も映画館を持つなどと考えもしなかった時に、若松孝二監督が名古屋にミニシアターを作り、支配人やそこに集まってきた若者たち各々が葛藤を抱えながらも前に進んでいく様子が描かれた人間ドラマです。
上映後、作品の舞台となったシネマスコーレに、前作・本作の脚本執筆、本作のメガホンを執った井上淳一監督と、芋生悠さんが大きな拍手に迎えられて登壇しました。舞台挨拶の後には40名限定のティーチインが行われました。井上監督が、芋生さんに惹きつけられたきっかけ、撮影秘話など興味深い話を聞くことができました。(取材日:2024年3月20日)

井上淳一監督「38年後、こんな風になっています。仮タイトルは『止められるか、木全を』でした」 芋生悠さん「ひたすら楽しかったです!」と語る

映画『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』は、自分の作品を上映できるミニシアターを名古屋に作った若松孝二監督(井浦新さん)と、支配人として抜擢された当時ビデオカメラのセールスマンをしていた木全純治氏(東出昌弘さん)がお互いの譲れない部分に折り合いをつけながらミニシアターを経営していく姿や、映画を愛し、映画監督を目指す井上少年(杉田雷麟さん)と女学生:金本(芋生さん)を始めとする若者たちの葛藤、映画製作の現場などが描かれた熱い青春映画です。

映画の舞台であるシネマスコーレでの上映後、井上淳一監督と芋生悠さんが登場すると大きな拍手が鳴り響きました。杉田雷麟さんが演じる井上少年のイメージが残る観客に向かって井上監督は「38年後、こんな風になっています」とニッコリして観客の笑いを誘い「この映画を満員のシネマスコーレで上映できて光栄です」と挨拶しました。続いて芋生さんは「シネマスコーレを舞台にした映画なので、皆さんにお届けできて本当に嬉しいです」と話しました。井上監督は企画の経緯について「コロナ禍に『シネマスコーレを解剖する。コロナなんかぶっ飛ばせ』というドキュメンタリーのパンフレットの原稿を頼まれたのが始まりです。この映画を見た方なら分かると思いますが、木全さんってとても自由なんです」と言うと客席からクスクス。「当時『止められるか、俺たちを2』を作るのかどうかと聞かれたけど、『止め俺1』の時代に勝るものがないからできないと思っていました。でもシネマスコーレの黎明期ならできると閃きました。タイトルを『止められるか、木全を』と冗談で書いたんですよ」と述べました。

劇中、唯一のフィクションの登場人物:金本を演じた芋生さんについて井上監督は「映画『37セカンズ』でワンシーンだけ出てくるのですが、ちょっとビックリするくらい良かった。映画館を出た瞬間に検索して、いつか仕事がしたいと」と熱のこもった声で話すと、芋生さんは照れたような表情を見せました。芋生さんは「金本は役柄的にも、他の人物とは違う立ち位置で、葛藤を抱えた女の子。自分も共感できる部分があって、是非演じてみたいと思いました」と話しました。現場について芋生さんは「井上さんはじめ、スタッフさん、先輩方が本当に映画研究会かなと思うほど映画作りに没頭していて、私も吸収できることがたくさんありました。ひたすら楽しかったです!」と振り返りました。そして屋上でのシーンは雪が降った日に撮影したそうで「ひたすら寒かったです」とこぼしました。井上監督は「屋上ではベンチコートを脱いで”寒くない寒くない”って気合入れてやっていたもんね。で、次の日に熱を出して病院に行くという…」と明かしました。

〈関連記事〉

「最もやりたくない役であり、決して他の俳優にはやらせたくない役」『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』井上淳一監督、井浦新さん、杉田雷麟さんに名古屋でインタビュー

木全は“ゆるキャラ”?!木全さん「ラストシーンは結構僕だな」と認める東出さんの演技に注目

本作の舞台挨拶で日本各地を回っている井上監督と芋生さん。ミニシアターのイメージを聞かれた芋生さんは「ミニシアターの支配人は癖が強い、というか面白い方が多いですが特に木全さんはナンバーワンですよ」と言い切り、井上監督も大きく頷きます。井上監督は「この作品、木全さんメインで作ろうと思っていました。でも木全さんと若松監督との対立や葛藤を描くのは難しくて苦肉の策で僕を出したんです」と話し「いざ脚本で木全さんを書いてみると…“ゆるキャラ”みたいだなと感じます」と率直な感想を述べました。芋生さんは「そう、一見“ゆるキャラ”ですよね。でも木全さん役の東出さんは、”心に鬼を飼っている”と言っていました」と木全さんの別の一面も含ませました。

リアル木全さんと、木全さん演じる東出さんがいるという独特な現場を過ごしてきた芋生さんは「お二人がどんどん似てきて、動きもシンクロして」と微笑むと、木全さんは「全然違うぞって思っていたんですが、ラストシーンは結構僕だなって」と太鼓判をおしました。井上監督は「東出さんが、明らかに振り切った瞬間があって、木全さんに『(東出さんが)木全さんになったでしょ』って聞きに言ったんですよ。そしたら『いやいや、僕はあんなに大げさじゃない』って言いながらのジャスチャーがそっくりで…」とリアル木全さんと、東出さんが演じる木全が重なっていたと絶賛しました。

芋生悠さんの監督作があいち国際女性映画祭に!?

シネマスコーレでの舞台挨拶の後、2階にある「スコーレインディースペース」で40名限定のティーチインが行われました。改めて登場した井上さんと芋生さんは笑顔で皆さんに挨拶した後、早速質問コーナーへと進んでいきました。「実存する人ばかりの物語のなか、唯一の架空の人物を演じるためにどんな役作りをしましたか」という質問にまず井上監督が「芋生さんだけが架空の人物なんですよ。さすがに当時交際していた子を実名で出すわけにいかないし」と話すと大きな笑いが起こり、会場内がフランクな雰囲気に変わりました。「当時はママゴト恋愛で面白くない。だから金本のところが脚本として唯一仕事をした部分かも」と話しました。加えて井上監督は「もう多分、木全さんも芋生さんも分かっていると思いますが、井上少年と金本は”合わせ鏡”なんです。金本が言う台詞は僕の中のツッコミが言わせているものです」と明かしました。

芋生さんは「金本は監督志望だけど、当時は女性監督がいなかったり、才能の無さを自覚していたりなど葛藤を抱えています。私も似たような気持ちを感じたことがあるし、皆さんも共感できる役柄ではないかと思います。金本は井上少年や木全さん、若松監督と関わり合いながら成長するので、金本個人ではなく対する相手との間に生まれる感情を大事にしていました。井上さん、役者さんたちを信頼して決めこまずに演じました」と語りました。井上監督が「芋生さんは18歳位から役者をしていてキャリアがあるわけですが、何者でもない金本のどういうところに共感したの」と問いかけると、芋生さんは「私は小さいときからずっと自分の存在ってなんだろうと考えるタイプで、考えているうちに自分の存在を必要とされていないのではないかという怒りが沸いてきて。その怒りをエネルギーにして役者を始めた部分があります。役者を始めた当初、なかなか上手くいかなくて、誰にも必要とされていないというもどかしい思い…そんな部分で凄く共感しました」と答えました。

観客から芋生さんに「監督を目指す女性を演じ、実際に監督になりたいと思った瞬間はありましたか」という質問に対して芋生さんは「この間、初監督作品を撮りまして、只今編集中です」とにやり。会場はどっと沸き、木全さんも興味津々の表情を見せ「何分くらいの作品なの?」と食いつきました。井上監督は「新幹線の中で、配給宣伝費について聞かれました」と本格的に進んでいることを示しました。木全さんが「“あいち国際女性映画祭”っていうのがあるんですよ。私、ディレクターなんです。招待作品という枠があるんです」と話すと、客席から応援の拍手が起こりました。井上監督が「高い下駄、履かせてもらえるかも」と期待顔。木全さんは「とにかく作品を見せてください。4月末まで、ラフでいいよ」と話し「これは9月に行われる女性を応援する映画祭なので良いですよ」とあいち国際女性映画祭のアピールも忘れませんでした。すかさず井上監督は「いい質問をしてくださって、ありがとう」と質問者に感謝の言葉を送り、芋生さんも「素敵な機会に繋がりました」と嬉しそうでした。

〈関連記事〉

4年ぶりに海外からのゲストも来場!9/15より開幕「あいち国際女性映画祭2023」合同記者会見

「あいち国際女性映画祭2023」国内外からゲストが来場ミッドランドスクエア シネマでの上映も多数!!

杉田雷麟さんと芋生さんをバチバチの関係にしたのは〇〇さん

キャストから学んだことや現場のエピソードを尋ねられた芋生さんは、「(若松監督役の)井浦さんは、撮影が始まるまでずっと井浦さんなんです。撮影が始まった瞬間にポっと魔法みたいに若松さんが現れて…不思議でした。肩の力が抜けていて、でも映画作りが好きという想いが根底にあるので、役者としてだけでなく、やりやすい環境を作ってくれました」と振り返りました。印象的なエピソードとして「井浦さんに『この映画は君にかかっているからね』とプレッシャーをかけられて、(井上少年役の)杉田さんに勝たなければって、かなりバチバチしました。実は井浦さんは、杉田さんと私に同じことを各々に言っていて…本当に二人はバチバチでしたね」と明かしました。

東出さんについて芋生さんは「お芝居の話を聞くことが多かったです。屋上のシーンで体が上手く動かなかった時にアドバイスを貰って、その通りにしてみたらまるで違う景色が見えてきたんです」と話しました。屋上のシーンについて井上監督も「すごく説得力のあるものが撮れました」と補足しました。そしてもう一つのエピソードとして「実際に撮影中にシネマスコーレの電話がなって、でもカットが掛からなくて焦っていたら東出さんが普通に店員として電話を取って『こういう時は、芝居の流れで取っちゃえばいいんだよ』って教えてくれました」と懐かしそう話しました。「凄くいい先輩方に恵まれた環境でした」と芋生さんは述懐しました。東出さんについて井上監督は「普段の東出さんはオーラ全開でカッコいい。でも撮影中はずっと木全さんの佇まいでした。本物と一緒にいるとまさに“ダブル木全”なんですけど、この前、一日支配人でシネマスコーレに来たときは(東出さんの)オーラ全開で来ているから、“ダブル木全”には見えなかった。役者は凄いと思いましたね」舌を巻きました。

〈関連記事〉

東出昌大さんが1日支配人に就任!映画『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』名古屋でインタビュー

芋生さん「シネマスコーレに来ると、映画がつなぐ人との繋がりを大切にしたいと感じます」

井上監督にシネマスコーレの第一印象を聞かれた芋生さんは「好きって思いました」と即答し、「黄色い看板とか見た目が可愛いし、こぢんまりとしたスペース、スタッフの人の良さ。本当に大好きでした」と言いました。井上監督が「リアル木全と会ったときはどうでした?シナリオで読んでいた木全が、目の前にいるというのはどんな感じですか」とたずねると芋生さんは「以前のマネージャーにすごく似ていて、本当に癖が強くて面白い人だったんですけど、始めましてじゃない気持ちでした」と微笑みました。そして「私は東出さんとのシーンが多くて、シネマスコーレを守るためにいろんな葛藤などを何十年も乗り越えてきたというのを、東出さん演じる木全さんから感じるものがたくさんありました。そして映画館が好きっていう、好きの強さに胸が熱くなります。シネマスコーレに来ると、映画がつなぐ人との繋がりを大切にしたいなと改めて感じます」とまとめました。

井上監督は最後に「舞台挨拶は監督や俳優部が登壇しますが、映画はそれだけじゃできないんです。ボランティアスタッフがいるし、今回はロケでお世話になった同朋大学の先生のような協力者など本当に献身的な努力があって、重層的にできています。パンフレットにはシナリオがついていますし、映画に関わるスタッフの座談会など見どころたくさんですので、是非お買い求めください」とアピールしました。また「青春ジャックのTシャツは、井浦新さんデザインです」とちゃっかり宣伝しました。

結びに芋生さんは「井上さんの物語ですが、金本みたいに主役になり切れない人もいて、何かをやり遂げたいけどなかなか上手くいかないとか、夢を追えないとかそういうのも物語になると思います。悩んで劣等感を感じていても、進もうとしているだけで主人公として生きている証だと思うので、一緒にできることを頑張っていきましょう」と力強く述べました。芋生さんが熱くメッセージを伝える中…パンフレットの包みを開く紙のガサガサ音を立てる木全さん。井上監督に「こういうところなんですよ、木全さん。芋生さんが喋っているでしょ」と木全さんの憎めない“ゆるキャラ”のような姿を弄ると会場内が笑いで包まれました。アッという間のティーチインも皆の笑顔で大団円を迎えました。

〈関連記事〉

濱口竜介監督と深田晃司監督が語る「ミニシアターの思い出」シネマスコーレの伝説的なエピソードに驚きと笑顔

40周年を迎えた名古屋のミニシアター・シネマスコーレ 坪井篤史さんが支配人に就任 木全純治さんは代表に

シネマスコーレ2階にオープンした「スコーレインディースペース」待合利用やトークイベント会場に

作品概要

映画『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』

2024年3月15日(金) テアトル新宿、アップリンク吉祥寺、シネマスコーレ、シネ・リーブル梅田ほか全国順次公開

シネマスコーレでは3月16日(土)から公開

監督・脚本:井上淳一

出演:井浦新 東出昌大 芋生悠 杉田雷麟 コムアイ 田中俊介 向里祐香 成田浬 吉岡睦雄 大西信満 タモト清嵐 山崎竜太郎 田中偉登 髙橋雄祐 碧木愛莉 笹岡ひなり 有森也実 田中要次 田口トモロヲ 門脇麦 田中麗奈 竹中直人

配給:若松プロダクション

©️若松プロダクション


関連記事