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2024-03-07

「最もやりたくない役であり、決して他の俳優にはやらせたくない役」『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』井上淳一監督、井浦新さん、杉田雷麟さんに名古屋でインタビュー


 

3月15日(金)全国順次公開(名古屋のシネマスコーレでは3月16日公開)となる映画『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』は若松孝二監督が作った名古屋のミニシアター「シネマスコーレ」が舞台の青春群像劇です。若松プロダクションの黎明期を描いた前作『止められるか、俺たちを』に続いて、井浦新さんが若松孝二役を演じ、シネマスコーレの木全役を東出昌大さんが演じています。監督・脚本は前作で脚本を担当した井上淳一さんで、井上さん自身がシネマスコーレで若松監督と出会い、映画監督になるまでの物語も描かれていて、井上役は杉田雷麟さんが演じています。

公開3か月前にシネマスコーレで先行上映が行われ、初日舞台挨拶に登壇した井上淳一監督、井浦新さん、杉田雷麟さんが名古屋でインタビューに応じました。(取材日:2023年12月9日)

シネマスコーレの創成期を描く『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』

映画『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』は映画『止められるか、俺たちを』の10年後を描いた作品で、若松孝二監督が名古屋で「シネマスコーレ」を立ち上げ、支配人として奮闘する木全純治さんの姿やシネマスコーレで若松監督に出会って映画監督を志す若き日の井上少年や映画館で働く若者たちが映画を諦め切れずに奮闘する姿を描いています。若松監督役は井浦新さんが前作から引き続き演じ、木全支配人役は東出昌大さんが、若き日の井上少年は杉田雷麟さんが演じています。

監督・脚本をつとめた井上淳一さんは前作『止められるか、俺たちを』の脚本を担当していて、続編を作るならシネマスコーレの創成期を題材に『止められるか、木全を!』というタイトルで」と「当初は全くの冗談でした」と明かしました。井上監督は木全さんを追いかけたドキュメンタリー映画『シネマスコーレを解剖する』(2022年7月公開)の宣伝を手伝っていて「取材同行で木全さんのインタビューを聞いていたら、映画にできるかもと思いました」と話しました。また自身の少年時代を描いていることについて、当初からの予定でなかったと言い「シネマスコーレに集う人の群像劇にしようと思っていました」と木全さん以外のキャラクターも登場させようと考えている中で「自分を出すのは副次的だったけれど、幸運だったと思います」「最初から自分の話をやるのであれば構えしまったと思うけど、仕方なくという感じが自分の距離にあっています」と少し照れたように話しました。

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実在の人物、実際のエピソードが多くある中で「一番の大きな嘘は・・・」

映画『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』は若松監督や木全支配人、井上少年など、実在の人物が多く登場し、実際のエピソードが多く盛り込まれていますが、全てが実話ではありません。井上監督は「虚実が入り混じることをやりたいと思っていました」と言い「脚本を書いているときは必死なのでどこまでがリアルで、どこまでがついていい嘘かという問題は微妙なんです。最初から1個はフィクションを入れなければいけないと思っていました」と話しました。シネマスコーレでの上映作品の時期や組み合わせなど細かな部分のフィクションはあるものの「一番の大きな嘘は芋生悠さんが演じた金本法子というキャラクターです」と教えてくれました。

芋生さん演じる金本はシネマスコーレでアルバイトをする女性で、まだ女性監督のほとんどいなかった時代に「自分には撮りたいものなんか何もない」と言いながら、映画から離れられないというキャラクターです。当時のシネマスコーレには女性のアルバイトスタッフはいなかったそうですが、映画で描いた時代から10年ほど後に在日コリアンの女性が働いていたことが金本というキャラクターに繋がり、「(在日の方に対して)当時の僕がどこかで思っていたことが彼女に投影されたのかもしれない」と話しました。また井上監督は「自分たちが無自覚で男性である事で下駄を履いていることに気が付かずに来てしまった」と映画監督を志す女性を描くことになった心のうちを明かしました。

若松孝二監督を演じた井浦新さん「最もやりたくない役であり、決して他の俳優にはやらせたくない役」

前作に引き続き若松監督を演じた井浦新さんは「1と2を繋げるのは、若松孝二監督だけ。『止め俺』の世界観を繋げているのは、若松監督だけなので、その責任感はありました」と口にしました。「俳優・井浦新の大切な恩師」と公言している若松監督を演じるにあたっての気持ちを聞くと、井浦さんは「自分の中にある若松孝二監督を漏らさず出していきました。自分だけが大切にしている若松監督とのすべての思い出をこの映画に焼き付けていきました。やりながら思い出すこともありますし、その瞬間は内側から出てくるものなので、僕は決して似ていると思って演じているわけではありません」と話しました。

井浦さんは「若松監督と過ごした若松組の俳優部や若松プロの井上監督や白石監督、他のスタッフの皆さんから『若松監督にしか見えない』と言ってもらえるのを手掛かりにしてやりました」「結果的に似ていたねとか物まねが成功していたと言われたらヨシとしていて、似て見えているならよかったなという感じです」と若松監督を演じた前作、今作での心境を口にし「僕も共犯者なので、みんなあっちに行ったら確実に怒られるんですよ。とことんやって、やりきって怒られなきゃいけないので」とも話し、特別な思いをもって取り組んでいたことも仄めかしました。さらに井浦さんは「僕が演じている若松監督役は役でしかありません。自分の中では若松監督の人間力には1ミリも届いていなくて常に必死です。余裕で演じられている感じでもなくて、未だに最もやりたくない役であり、決して他の俳優にはやらせたくない役でもあります」とプレッシャーを感じながらも、大切な役であることを教えてくれました。そして新さんは「“『止められるか』の続編があるかもよ”という話が立ち上がるたびに嫌な気分にもなります」と冗談っぽく話しました。

井浦さんに若松監督を演じる中で印象に残っているシーンやセリフについて聞くと「どのシーンも大事だし、どのセリフも大切で思い入れのあるものです」と答え、脚本を書いた井上監督も「さりげなく吐いているセリフが、それぞれの心に刺さっておる言葉だったりします」と重ねました。井浦さんは「僕らは若松監督が好きなんで、若松監督からもらった言葉を、自分たちなりに大事にしているだけです」と恩師への熱い思いを伝えてくれました。

井浦さんは2012年に若松監督が亡くなった直後の心境を「もし当時、“止め俺”をすぐにやろう!ってなっていたら、僕はひっくり返していると思うんです」と話し「時間が経って、みんなで若松監督の話を笑いながらできるようになったり、(若松監督と関わった人たちと)一緒に酒を飲んだり、話を聞けるようになったりという変化がありました」と教えてくれました。映画『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』のあるシーンの撮影では俳優として特別な体験をしたと言い「映画は夢があってすごいし、未だに驚きが起きるなと思いました」と様々な出来事を振り返っていました。

「シネマスコーレは出会ったことのない映画に出会える映画館」

井上監督の目の前で、監督の若い頃である井上役を演じた杉田さんは緊張感はあったと言いながらも「新さんが自由に演じられているので、僕も硬くなり過ぎずに後半は肩の力を抜いて演じられたと思います」と答えました。杉田さんにシネマスコーレでの撮影中のエピソードを聞くと「映画館の外で口説くシーンでは、僕自身もダメージを喰らいました。相手が聞いてもいないのに博識ぶって、かっこつけたりする部分は僕にもあって、脚本がリアルに描いていたので、やっていて恥ずかしかったです」と教えてくれました。井上家のシーンは愛知県犬山市にある井上監督の実際の実家で撮影が行われました。杉田さんは「井上監督が過ごしていた部屋を見られたのはとても良かったです」と話し「昔の演出している時の写真、バンダナを巻いている姿とかを見られてイメージが作りやすかったです」と振り返りました。

本作の撮影で初めてシネマスコーレを訪れたという杉田さんは「こんな変な映画館があるのか」と思ったと言い「知れてよかった」と話しました。シネマスコーレの立ち上げから40年間に渡って支配人をしてきた木全さんについて「温かいし、優しいし、空回りして怒られてて、面白くてかわいくて、本当にいい人、なかなかいないキャラクターです」と感想を教えてくれました。杉田さんはシネマスコーレについて「僕が名古屋で学生をやっていたら、毎日、映画を見に来ているんじゃないかなと思います」と答えてくれました。

映画『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』では、若松監督がシネマスコーレで舞台挨拶を行っているシーンもあり、そこで井上少年が若松監督と出会い、映画監督を志し若松プロの門を叩くという実話に基づくエピソードが描かれています。井浦さんは「シネマスコーレで井上少年が若松監督と出会ったのは、30年前の80年代だから起きたことではなくて、そういう機会が今でもあるんです。木全代表も坪井支配人も作り手を呼んで舞台挨拶をするという形を続けていることがすごいことだと思います」と熱く話しました。

独自のラインナップで作品を上映しているシネマスコーレについて井浦さんは「こんなに偏った映画館は東京に住んでいてもなかなか出会えないです。変な映画館ですけど、映画館はそれくらい偏っていて個性があることが貴重で、それが映画館であり、文化であると思います」と語りました。名古屋の人でもシネマスコーレの存在を知らない人と出会うことがあるという井浦さんは「シネマスコーレは出会ったことのない映画に出会える映画館だと伝えています」と名古屋の映画文化の大きな宝であるシネマスコーレへの愛を感じる話をたくさんしてくれました。創成期のシネマスコーレやそこに集う人々が映画と関わる姿が観られる映画『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』をぜひ、名古屋のシネマスコーレでご覧ください!!

作品概要

映画『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』

2024年3月15日(金) テアトル新宿、アップリンク吉祥寺、シネマスコーレ、シネ・リーブル梅田ほか全国順次公開

シネマスコーレでは3月16日(土)から公開

監督・脚本:井上淳一

出演:井浦新 東出昌大 芋生悠 杉田雷麟 コムアイ 田中俊介 向里祐香 成田浬 吉岡睦雄 大西信満 タモト清嵐 山崎竜太郎 田中偉登 髙橋雄祐 碧木愛莉 笹岡ひなり 有森也実 田中要次 田口トモロヲ 門脇麦 田中麗奈 竹中直人

配給:若松プロダクション

©️若松プロダクション

 


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