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2025-01-26

「芝居が上手い人は殺陣も上手いんです」大泉洋さんの秘密の特訓とは?映画『室町無頼』入江悠監督にインタビュー

 

1月17日(金)から公開中の映画『室町無頼』は垣根涼介さんの同名歴史小説が原作で、主演の大泉洋さん演じる主人公の蓮田兵衛は日本史上初めて武士階級として一揆を起こした実在の人物です。室町時代末期の京都を舞台に腐りきった政治と世の中を叩き直すため命がけの戦いに挑んでいく“無頼”たちの姿が描かれていて、兵衛に出会って心身共に成長していく青年、才蔵役になにわ男子の長尾謙杜さん、幕府から京の治安維持と取り締まりを任される悪党一味の首領、骨皮道賢役の堤真一さんなど魅力的なキャストも出演しています。

脚本・監督をつとめた入江悠さんが公開2日目に名古屋を訪れ、インタビューに応じてくれました。10年近くの時間をかけて完成させた本作について、企画段階での苦労や脚本作業で大切にしたこと、大泉さんや長尾さんらの殺陣やアクションへの取り組み、時代劇映画への思いなどを語ってくれました。(取材日:2025年1月18日)

「師弟モノの成長物語に加えて、経済小説としての面白さがあるんです」

映画『室町無頼』は直木賞を受賞した垣根涼介さんの史実に基づく歴史小説を映画化した作品で、東映による大型アクション時代劇となります。室町時代末期の京都を舞台に、腐りきった政治と世の中を叩き直すため命がけの戦いに挑んでいく“無頼”たちの姿が描かれています。

入江監督は「映画監督を目指す時にいろんな時代劇の名作を浴びるように観ていて、好きだった時代劇の記憶を本作の中に取り入れようとしました」と話し、多くの時代劇映画を観直しながら脚本を書いたり、撮影を進めていたこと教えてくれました。また、大泉さんに観てもらった作品として黒澤明監督の『用心棒』や『隠し砦の三悪人』などを挙げました。10年近く前に立ち上がったという本作ですが、初期の段階で「室町時代の京都を再現できる場所が日本になかった」という理由で企画がストップしたことを振り返り「京都の撮影所の中にオープンセットを組んで撮影ができることになり、大枠ができてからは楽しんで作れるようになりました」と話しました。

長編の原作小説の映画化は内容を凝縮する必要があるのですが、入江監督は「原作は師弟モノの成長物語に加えて、経済小説としての面白さがあるんです」と話し「割符(さいふ)と言われる今でいう債権みたいなものや京都にモノが入ってくる仕組み、流通の描写もあります。室町時代は貨幣経済が成熟してきて金融業が発展した時代だったから、一揆勢が金貸しに突っ込んでいく、そういう要素が小説の面白さだと感じました」と映画化にあたり残すべきだと考えた原作の面白さについて語りました。大泉洋さん演じる兵衛が長尾さん演じる才蔵に伝えるセリフを紹介して「『己の頭で考えろ!』というのは今の時代に通じることだと思います」と話すように、本作は貧困や格差について考えさせる作品でもあります。

入江監督は元々、室町時代についての深い見識があったわけではないと言及し「全国各地に勉強に行く時間が取れて、博物館に行ったり、歴史書を読んだり専門の先生に話を聞きにいくなどもしました」と話しました。室町時代の風景の作りこみについて「飢饉で8万人の人が死ぬような説得力のある映像を撮るために、風や砂塵など荒廃した世界を持ち込んでみました」と答え、 撮影では大きな扇風機を5,6台も回して撮影したそうで「俳優さんはセリフがお互いに聞き取れないくらいで大変でした」と振り返りました。

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大泉洋さんの秘密の特訓と長尾謙杜さんが根性を見せた六尺棒アクション

主役の大泉洋さんが演じた蓮田兵衛は日本史上初めて武士階級として一揆を起こした実在の人物です。入江監督は「日本映画にはなかなかないタイプの主人公です。時代劇でよくある戦うための大義名分がなく、なんとなく現れて、人を魅了していく。『マカロニウエスタン』で、クリント・イーストウッドが演じた主人公に近い感じです」と話しました。さらに「大泉さんが蓮田兵衛役を引き受けてくれることになって、脚本も大泉さんに寄せて書き直した部分もあります。飄々とした役を演じられる人は日本には多くないので、大泉さんがこの役柄にほれ込んでくれたことは大きかったですね」と述べました。

大泉さんの殺陣について聞くと「殺陣ができるかどうかは未知数でした。映像での殺陣はやったことがないと言っていて、最初の頃はヤバいかもしれないと言う空気が流れました」と笑いながら振り返りました。「大泉さんが竹刀なども持ち帰り、秘密の特訓をして帰ってきたらすごく上達していました。主役としての責任感があって、努力を人に見せるのを良しとしない方ですし」と特訓の具体的な内容は入江監督も知らないそうですが「クランクインの関所を破るシーンの大泉さんの殺陣を見た時に行けるなと思いました」と見事に殺陣をやりきった大泉さんを称賛しました。大泉さんの殺陣の上達ぶりを見て、カットを割らずに一連で撮影をしたり、後半には二刀流に挑戦してもらうなどミッションを増やしていったことも教えてくれました。入江監督は「殺陣には身体能力も必要ですが、映画の殺陣は芝居とリンクしていて、芝居が上手い人は殺陣も上手いんです」と大泉さんの殺陣について話し「芝居と結びついた殺陣になっているなと思いました」と人を斬る重みが出ていたことを語りました。

兵衛に出会って心身共に成長していく青年、才蔵役のなにわ男子の長尾謙杜さんについて聞くと「大泉洋さんとの師弟モノという部分で、あまり成人の男性として完成され過ぎていても駄目で、六尺棒を使ってどんどん強くなっていくキャラクターを担える俳優」を探していたことを明かし「なかなか納得いくところにたどり着けませんでした」とキャスティングに苦労していたと話し「あるプロデューサーから(長尾謙杜さんの)名前が挙がり、この人しかいないと思いました」と答えました。長尾さんは撮影に入る数ヶ月前から六尺棒の訓練を行ったそうで「ひたすら基礎練習から初めて、弱音を吐かないんです。根性あるなと思いました」と振り返り、入江監督は最初、長尾さんの訓練に付き合ったそうですが「あまりにしんどくて」と訓練の厳しさを伝えました。

才蔵の六尺棒は原作にもあるユニークなり武器ですが「日本映画では六尺棒で戦っている登場人物はいなくて、香港映画では棒術が出てきますが、日本の棒術と大陸の棒術とは違い、手探りでした」と話しました。六尺棒のシーンについてよく香港テイストと言われるそうで、その理由について「僕も含めて、皆さんも香港映画でしか棒術を観たことがないからなのでは?」と述べました。実際に日本のフィクションで棒術や槍が描かれていることはなかったと話し「日本の棒術に近づけようとしてくれていました」とアクション監督の川澄朋章さんの働きを紹介しました。基礎訓練をしっかりとやったことで、スクリーンで見事な六尺棒アクションを披露している長尾さんについて「撮影では自分で実際にできるまでやり直して、根性を見せてくれました」とカット割りで誤魔化すことなく、リアルなアクションをやり切ってくれたことを教えてくれました。最後に入江監督は「この規模の作品で時代劇をやったからこそ、若い人に技術の継承ができたのが良かったです」と本作をやって良かったことと話し「観客にも日本の時代劇で面白いものがあるということを伝えていければと思います」と公開したばかりの本作を多くの人に観てもらいたい気持ちを伝えました。

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作品概要

映画『室町無頼』

2025年1月17日(金)よりミッドランドスクエアシネマほかで絶賛公開中

監督・脚本:入江悠

原作:垣根涼介『室町無頼』(新潮文庫刊)

出演:大泉洋、長尾謙杜、松本若菜、遠藤雄弥、前野朋哉、阿見201、般若、武田梨奈、水澤紳吾、岩永丞威、吉本実憂、土平ドンペイ、稲荷卓央、芹澤興人、中村蒼、矢島健一、三宅弘城、柄本明、北村一輝、堤真一

© 2016 垣根涼介/新潮社 ©2025『室町無頼』製作委員会

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