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2023-09-20

伏見ミリオン座にフランスの巨匠:アルノー・デプレシャン監督が来館 映画『私の大嫌いな弟へ ブラザー&シスター』舞台挨拶


 

9月15日(金)から公開されている映画『私の大嫌いな弟へ ブラザー&シスター』はある時から互いに憎み合い絶縁状態だった姉のアリスと弟のルイが両親の交通事故をきっかけに再会し、姉弟の激情のぶつかり合いだけでなく、一筋縄ではいかない家族間の心の襞が描かれた物語です。舞台俳優の姉アリスをマリオン・コティヤールさん、詩人の弟ルイをメルヴィル・プポーさんが演じ、長年に渡って憎しみあってきた二人のヒリヒリする緊張感や時折、垣間見せる滑稽さをアクセントに加えて好演しています。

脚本・監督を務めたのはフランスの巨匠アルノー・デプレシャン氏です。名古屋の伏見ミリオン座での映画上映後の舞台挨拶に登壇。観客からの質問に答えたりプレゼント抽選会をしたりと、ファンとの交流が行われました。観客からの質問に笑顔で頷き、丁寧に答える姿からアルノー・デプレシャン監督の人柄が感じられ、シアター全体が温かな雰囲気に包まれていた様子をレポートします。(取材日:2023年9月18日)

『私の大嫌いな弟へ ブラザー&シスター』制作のきっかけは自身の経験 「私が見てきた映画が、私を作りました」映画愛を語る

映画『私の大嫌いな弟へ ブラザー&シスター』は、『エディット・ピアフ 愛の讃歌』『アネット』のマリオン・コティヤールさんと、『わたしはロランス』『それでも私は生きていく』のメルヴィル・プポーさんが主演の家族ドラマで、長年憎み合い、顔を合わせることも無かった姉弟が両親の事故をきっかけに再会し、姉弟の子供時代から過去の出来事、そこから新たな出発を迎えるストーリーが展開されています。

映画の上映後のスクリーンの前に、観客からの大きな拍手の中でアルノー・デプレシャン監督が登壇しました。やや緊張気味だとのことでしたが、にこやかに「名古屋は初めてです。先ほど雨が強かったですよね。それなのに、たくさんの方に来ていただけて本当に嬉しいです」と感謝を述べました。そして「雨の中、来ていただいたのに、本作は自分が制作した中で一番、憎しみについて描かれた映画なので(晴れやかな気分にさせられず)申し訳ないような気がして、困っています」と茶目っ気たっぷりに話しました。

中年に差し掛かった姉と弟が、両親の事故をきっかけに再会するストーリーについてデプレシャン監督は「冒頭に事故のシーンがありますが、私と父が一緒にいるときに、若い女性が事故に遭うところに立ち合った経験がベースになっています。ガソリンが車道に流れていて、本当に危険で…。その経験が神様というか、運命の声に思えて制作のきっかけになりました」と話しました。劇中の事故のほうが大惨事となっていますが、このシーンが監督自身の体験が元になっていたと聞き、客席は驚いた表情を見せました。

観客からの質問タイムになると、積極的に手が挙がりました。最前列の方が「本作を見て私はウディ・アレンを想起しました。本作や、これまでの作品でウディから何か影響があったのでしょうか」と尋ねると、デプレシャン監督は「確かにウディ・アレン監督の『私の中のもうひとりの私』は、この映画を作る上で思い浮かべた映画の一つです。また、その主演はジーナ・ローランズでしたが、舞台女優のアリスについて考えると、ジーナ・ローランズが主演した『オープニング・ナイト』(1978年:ジョン・カサヴェテス監督)が思い浮ぶのではないでしょうか。それ以外の多くの傑作からの影響もあります。私が見てきた映画が私を作ったのです」と答えました。

弟のルイが、入院中の母親に会いに行く場面で印象的な演出がされていることについて質問されると、監督は「『バードマン』(2014年:アレハンドロ・G・イニャリトゥ監督)の影響かもしれませんが、病院まで飛んで行ったら良いのではないかと思いました。あとはジャン・コクトー(フランスの詩人・芸術家)の影響もあります。詩的なところがありますね」と話しました。そして「ルイを演じたメルヴィル・プポーさんの、あの演技は素晴らしかった」と称えました。また「ルイの母親はマリー=ルイーズという名前です。二人の関係は非常に悪いけれども、名前の中に“ルイ”という部分が入っているんですね。意識不明の母親を抱きしめるように寄り添うあのシーンは運命を感じさせます」と教えてくれました。観客は思いもよらない背景を知り、深く頷いていました。

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憎しみから思いもよらない出口へ…人生で大切なものとは?日本映画に対する造詣の深さに観客ビックリ

次の質問者から「監督にとって人生で大切なものは何ですか」と問われ、デプレシャン監督は「本作とも繋がりますが、憎しみや怒りや恐怖を無くすことです。ネガティブな気持ちを手放すことで自分が生きていると、やっと言えるのではないかと思います」と述べ、「アリス役のマリオンさんが、”もしかしたら姉のアリスは弟が憎いのではなくて、弟が怖いのではないか”と話していました。ネガティブな感情を持ち続けるのではなく止められるようにという意味を込めて、この映画は作られています」と補いました。

「姉弟の憎しみが赤裸々に描かれた本作を、日本の観客たちがどのように受け取ると思いますか」という質問に対してデプレシャン監督は「日本映画でも、溝口健二監督(『雨月物語』『山椒大夫』でヴェネツィア国際映画祭:銀獅子賞)はちょっと感情的で激しい見せ方があるように感じます。成瀬巳喜男監督も、黒澤明監督の暴力的な面の描写も…日本映画でも密度の高い感情が描かれた作品がたくさんありますから、日本の皆様に受け入れられると思います」と語りました。日本人映画監督の名前が次から次へと出てくることに観客は驚き、デプレシャン監督の日本映画に対する造詣の深さに圧倒されたようでした。

アリアンス・フランセーズ愛知フランス協会の館長や、生徒の方がフランス語で質問する場面もあり盛況な質問コーナーのあと、プレゼント抽選会が行われました。デプレシャン監督が箱の中から座席番号を選び、当たった方は嬉しそうにニッコリ。時間が迫り、最後にデプレシャン監督が「ありがとうございます」と日本語で挨拶して惜しまれながら会場を出ました。名古屋の舞台挨拶のあと大阪にすぐ移動ということで”名古屋めし”は新幹線の中で召し上がるとのことでした。熱心なファンの方々は、出待ちしてデプレシャン監督が乗るタクシーを見送り、監督は笑顔と手を振って応えていました。

各々の家族や友人を巻き込んだ姉弟の激しい喧嘩の行方を是非スクリーンでご覧ください。シアターの待合場にスタッフお手製の映画『私の大嫌いな弟へ ブラザー&シスター』のコーナーがあります。鑑賞前に、主人公の人間関係を予習しておくとより楽しめることでしょう。

作品概要

映画『私の大嫌いな弟へ ブラザー&シスター』

9月15日(金)より伏見ミリオン座ほかで公開中

監督:アルノー・デプレシャン

脚本:アルノー・デプレシャン、ジュリー・ペール

出演者:マリオン・コティヤール、メルヴィル・プポー、ゴルシフテ・ファラハニ、パトリック・ティムシット他

2022年製作/110分/PG12/フランス

原題:Frere et soeur

配給:ムヴィオラ

 


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