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2023-03-26

伏見ミリオン座の”TBSドキュメンタリー映画祭2023” 余命20歳と診断された舟橋一男さんのやったぜ!な人生 『やったぜ!じいちゃん』舞台挨拶


 

3月24日から4月6日まで伏見ミリオン座で開催されている”TBSドキュメンタリー映画祭2023”は、歴史的な事件や今起きている出来事、市井の人々の日常を追い続け、テレビやSNSでは伝えきれない事実や声をドキュメンタリー映画として世の中に発信する企画です。今年は全12作品が日替わりで上映されています。名古屋の伏見ミリオン座限定で上映となる映画『やったぜ!じいちゃん』は、生まれつき脳性マヒで身体が不自由な舟橋一男さんと妻・瑞枝さんの日常をCBCが50年前に撮影した映像を交えながら描いたドキュメンタリー作品です。

お二人は愛知県一宮市で印刷所を営み、お出かけを楽しむご夫婦です。当初は仲尾義晴監督のみ登壇の舞台挨拶の予定でしたが、公開初日を迎えた本作に出演者の舟橋一男さん、妻の瑞枝さんが鑑賞していたことから、瑞枝さんが舞台挨拶に参加することになりました。(取材日:2023年3月24日)

2022年日本民間放送連盟賞で準グランプリ 夫婦円満の秘訣は晩酌?! 一男さんの”やったぜ”ポーズに会場が沸く

映画『やったぜ!じいちゃん』は、昨年5月にCBCテレビで製作・放映され、2022年日本民間放送連盟賞準グランプリに輝いたドキュメンタリーに再取材を加えて映画化した作品です。愛知県一宮市で印刷所を営む舟橋一男さんは、生まれつき脳性マヒで余命20歳と言われてきたそうですが、現在75歳になり妻の瑞枝さんを中心としたご家族と穏やかな生活を送っています。

本作は妻の瑞枝さんやご家族との日常と、50年前に仲間と旅行に出かけた一男さんの映像が盛り込まれ、一男さんと瑞枝さんの歴史を見守るようなタッチで描かれています。また、塩見三省さんのナレーションがいい味を醸しています。上映後、「各局、キー局がいる中で、名古屋のCBCが準グランプリを受賞した作品です!」と拍手とともに迎えられた仲尾義晴監督は「テレビのドキュメンタリーを映画化するということでお声がけいただき、追加の撮影をしました」と話し、「普段私はテレビでディレクターをやっておりますが、映画監督と言われる機会を作ってくれたのが今日いらっしゃっている舟橋一男さん・瑞枝さんです」と会場にいた舟橋ご夫妻を観客に紹介しました。恥ずかし気に微笑む瑞枝さんと、嬉しそうに笑顔を向ける一男さんに観客から大きな拍手がおくられました。そこで急遽、舟橋瑞枝さんが登壇することになり、「こんな大きな画面に自分たちが映っていることが不思議な感じです」と鑑賞後の率直な感想を述べました。

映画内の夕飯シーンについて瑞枝さんは「うちは印刷所をやっているので、日常生活が(一般の方と)半日ズレるんです。だから夕飯は夜中になるんですよ」と明かしました。深夜に串カツを揚げ、二人でビールで晩酌する場面に話題がうつると「ビールははじめは苦くていらないって思っていたんですが、一男さんは一人で飲むのは寂しいですよね。いつしか一緒に飲むようになりました」と瑞枝さん。仲尾監督は「一男さんが串カツを揚げる瑞枝さんをじっと見つめて、一緒に食べたいんだろうなという姿をみて、すごい仲が良いな、ほれ込んでいるなと感じました」と撮影中の印象を語りました。すかさず一男さんが大きく腕を振りかざした”やったぜ”ポーズをすると、会場が沸き、笑顔で溢れました。

「お二人で声を上げて戦ってきた歴史があると思います」と仲尾監督夫婦で原発反対デモに参加

仲尾監督は「一男さんは小さい頃に20歳まで生きられるかどうかと言われて、それから瑞枝さんと結婚されて、娘さんが二人とお孫さんまで生まれて、”奇跡”っていう言葉で表現されることがありますが、僕はちょっと違うなと。お二人で声を上げて戦ってきたという歴史があると思います」と厳かに話し、「いま、いろんなことに無関心な世の中になりましたが、様々なことに関心を持って声を上げることが大事だと思うんです」と言葉を重ねました。

瑞枝さんは仲尾監督に同調し、身近な例として、公園や歩道のブロックタイルが細かくて車椅子を押す際にガタガタしてしまう不便さを挙げました。地域によってタイルの規格が異なる事情を理解しながらも、改善に向けて声を上げていきたいとも述べました。日常の問題点を丁寧にひも解き、ときには声を上げる瑞枝さんの姿勢に、共感し頷く人が多く見られました。

作中で一男さんと瑞枝さんが原発反対デモに参加する場面があります。デモに参加したきっかけについて瑞枝さんは「私たちに孫が生まれて嬉しかったんです。でも、原発などの問題があり、この孫はどのような世界を生きていくのだろうとショックを受けました。それで、原発反対運動で集まっていると聞いて”じゃあ、行こう”と毎週二人で出かけました」と話し、「一男さんがもう、家にじっとしているより、表に出ていきたいという風なんです」と微笑みました。瑞枝さんが発する「一男さん」という響きは優しさに満ち、これまで夫婦として支え合ってきた年輪を感じさせます。

そんな一男さん・瑞枝さんのお孫さんが、映画『やったぜ!じいちゃん』で一男さんとバンテリンドームで中日ドラゴンズの試合を観戦するシーンで登場しています。車椅子を押して祖父とドームの通路を歩く姿、一緒にゲームを楽しむ姿が映し出されています。この初日も祖父母と一緒に、映画を鑑賞。ドラゴンズファンのお孫さんは「WBCで優勝した日本代表チームに唯一勝利した、世界で1番強いチームですね」と言われると思わずニコリ。観客もご当地名古屋のチームを拍手で称えました。

最後に仲尾監督は「TBSドキュメンタリー映画祭2023のなかで、この作品は静かな日常を描いたもので、特別なことを何もしていない作品だと思います。だからこそ一般の広いみなさんに見て頂けるとありがたいと思います」とアピールしました。瑞枝さんは「私たちの日常を取材していただいて、ドキュメンタリーでテレビ放送します、今度は映画になりますと言われて、恐縮しています。この映画で、年齢をかさねて障がいも重くなって外に出られない方は、若い頃を思い出して貰えると良いなと思います。ぜひ障がいがある方にも見ていただきたいと思います」と結びました。そして、交流が途切れていた人からお便りがあったことや、娘さんたちの知り合いから映画を見に来ると言ってもらえたことに感謝しました。フォトセッションでは、扉前に一男さんと瑞枝さん、仲尾監督の3人でポーズ。客席からシャッター音が鳴り響く盛況ぶりでした。舞台挨拶後は仲尾監督がパンフレットにサインをし、舟橋夫妻との交流もありました。

映画『やったぜ!じいちゃん』は伏見ミリオン座で、3月24日(金)、26日(日)、4月1日(土)、6()に上映されます。ぜひ劇場までお越しください。

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作品概要

『やったぜ!じいちゃん』

3月24日(金)、26日(日)、4月1日(土) 、6()伏見ミリオン座限定上映(TBSドキュメンタリー映画祭2023)

生まれつきの脳性マヒで身体が不自由な舟橋一男さん・75歳。子供の頃には「20歳までは生きられない」と診断された。しかし、75歳の今も元気、結婚し、二人の娘さんをもうけ、更に孫まで。今も印刷の仕事をし、積極的に外出もしている。今から50年前。CBCのカメラが舟橋さんを撮影していた。障がい者4人だけで北陸の温泉に旅する様子を記録したもの。その映像を交えながら、舟橋さんが感じることや暮らしぶりを静かに描く。

TBSドキュメンタリー映画祭2023

3月24日(金)~4月6日(木)期間限定 名古屋・伏見ミリオン座にて開催

<上映作品全12作>※日替わり上映

➀ アフガン・ドラッグトレイル➁ それでも中国で闘う理由 ~人権派弁護士家族の7年~➂ オートレーサー森且行 約束のオーバルへ➃ カリスマ ~国葬・拳銃・宗教~➄ 東京SWAN 1946 〜戦後の奇跡『白鳥の湖』全幕日本初演~➅ War Bride 91歳の戦争花嫁➆ ダリエン・ルート “死のジャングル”に向かう子どもたち➇ 魂の殺人 ~家庭内・父からの性虐待~⑨ サステナ・ファーム  トキと1%➉ KUNI 語り継がれるマスク伝説 ~謎の日本人ギタリストの半生~⑪ 通信簿の少女を探して 〜小さな引き揚げ者 戦後77年あなたは今〜⑫ やったぜ!じいちゃん 【伏見ミリオン座限定上映】

当日料金:一般/1,500円 シネクラブ会員・大学生・シニア/1,100円 18歳以下:800円

上映、舞台挨拶スケジュールはこちら

 


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