toggle
2021-03-18

ドキュメンタリー映画『生きろ 島田叡―戦中最後の沖縄県知事』佐古忠彦監督に名古屋でインタビュー


 

3月20日に公開となる映画『生きろ 島田叡―戦中最後の沖縄県知事』は沖縄戦で生き残った人々や遺族への取材を通じて、“玉砕こそが美徳”という当時の考えに抗い、多くの命を救うために奔走した戦中最後の沖縄県知事・島田叡(しまだあきら)の姿に迫ったドキュメンタリー作品です。語りを山根元世さん、佐々木蔵之介さん、津嘉山正種さんが担当し、作品に深みを与え、小椋佳さんが本作のために書き下ろした主題歌がエンディングをドラマティックに盛り上げます。本作の監督をつとめたのは「筑紫哲也NEWS23」や「Nスタ」などでキャスターをつとめていた佐古忠彦さんです。戦後の米軍支配に立ち向かった政治家・瀬長亀次郎さんを描き、2017年に公開されたドキュメンタリー映画『米軍が最も恐れた男 その名は、カメジロー』の監督もつとめており、キャスター時代から長年に渡って精力的に沖縄取材に取り組んでいます。佐古監督が名古屋でインタビューに応じてくれました。本作の制作のいきさつや語りを担当した佐々木蔵之介さんの表現力の豊かさ、小椋佳さんが書き書き下ろした主題歌についてなどを語りました。(取材日2021年3月10日)

「時間をかけたからこそ」戦後75年 新たな証言も

太平洋戦争末期、米軍による大空襲で壊滅的な打撃を受け、行政麻痺に陥っていた那覇に沖縄最後の官選知事として43歳で着任した島田叡(しまだあきら)さん。5ヶ月の任期の中で行ったのは、疎開の決行と食料を確保するための台湾米の移入、そして“官民共死”の拒絶をあらわした県庁解散でした。

佐古監督は「2013年にテレビで島田叡さんのドキュメンタリードラマを作ったとき、取材した貴重な証言を全て収容することができなかったので、何とか伝えたいという気持ちがありました」と映画化のきっかけを話し「島田さんを通して見たときに沖縄戦がどういうものだったのか、実は今日的なテーマも含まれていると思いました。組織の中で個が何をできるのかが見えてくる気がします」と語りました。そして「人間の揺れとか迷いとかを含めた人間の物語を紡ぎたいと思いました」と映画化にあたっての想いを教えてくれました。

島田叡さんをたどる取材は佐古監督の先輩記者が2008年頃からインタビューしたものもあり、12~13年の歳月をかけているそうです。佐古監督は「提供された証言テープはもっと古いものもあり、長きに渡る人々の話を今回の作品に入れることができました」と自信を見せました。取材当初は“島田さんのことなら”と証言する方がいた反面、口を閉じる方もいたそうです。佐古監督は「連絡をずっと取りあって、お付き合いをしていただいて・・・長くね」と実感をこめて語るほど、証言をしてくださった方々と長い時間をかけて関係を結んできたことを明かし、“今まで話していなかったけど・・・。”と映画化にあたり新たな証言も得られたことも教えてくれました。

佐古監督は「島田さんを英雄視するのでなくて、人間の迷いも全部含めて、生きた人間としての姿を描きたい」という監督の思いに応える、その新たな証言には驚きの事実がありました。戦時中、島田さんと対立関係にあった牛島満(うしじまみつる)第32司令官のお孫さんが証言した内容は大変印象深いものです。

映画『生きろ 島田叡―戦中最後の沖縄県知事』はヒューマンドラマとしても、当時の国のありようが見える戦争の資料としてもすばらしい作品です。戦後75年を経た現在、佐古監督は「時間をかけたからこそ語れる証言があり、時間をかけたからこそ製作者としてもいろんなものが見えてきました」と話しました。

「佐々木蔵之介さんのおかげ」証言と語りで人物像を浮かび上がらせる挑戦

戦時中、最後の沖縄県知事・島田叡さんは激しい沖縄戦のなか多くの命を救おうとした“官僚の鑑”と後に呼ばれる人物ですが、彼の動く姿や音声の記録はなく、写真も数枚しか残っていません。佐古監督は「証言と写真2~3枚しかない人だけれど、人々の証言と語りでどれだけ人物像を浮かび上がらせるか、自分にとっても挑戦でした」と話しました。

本作で佐々木蔵之介さんは「島田叡」としての語りを担当しています。佐古監督は佐々木さんの朗読劇を鑑賞した際に「表現の豊かさに惹かれて、自分の中ではスっと蔵之介さんと島田さんが結びつきました」と話しました。また「島田叡さんは兵庫県出身。蔵之介さんも関西出身なので、あえて関西弁で喋ってもらうところを作りました」と教えてくれました。既に先行公開されている沖縄では“島田叡のイメージとぴったりだった”と佐々木さんの声が大好評だったそうです。

語りの収録時に佐々木さんが佐古監督によるデモ版とは間逆に演じたことを話し「思わず卓から身を乗りだして、すごい!!蔵之介さん、これ頂きます!」と佐々木さんの考えに考えぬかれた表現に圧倒されたエピソードを語りました。「人間・島田叡が出せたのは、蔵之介さんのおかげです。引っ張っていただいたな、彼で本当に良かったと思います。」と感謝の面持ちで述べました。

「最後までメッセージが貫けた」小椋佳さん書きおろした主題歌

本作の主題歌は小椋佳さんが本作の為に書き下ろした「生きろ」です。佐古監督は「実は私は小椋佳さんの大ファンで、幼い頃からずっと聞き続けているんですよ。詩の世界も‟ただ生きるのでなく、いかに生きるのか”というテーマが通底(=共通)しています」と嬉しそうに話してくれました。主題歌の相談したとき小椋さんはラストアルバムの製作中で、あと2曲書きたいというタイミングであり、映画の主旨に賛同して快諾されたそうです。主題歌を初めて聞いた時の気持ちを聞くと「証言してくれた人たちの顔がフラッシュバックのようによみがえってきて涙が出ました。島田さんの“生きろ”というメッセージが小椋さんにそのまま移って、最後までメッセージが貫けたかなと思いました」と熱い口調で話しました。

導かれるように繋がった佐古監督、島田叡さん、小椋佳さん。“命が大事だよ、生きろ”といった島田さんの言葉、“耳をそばだて、聞こう命の声”と歌詞にした小椋さん、映画にまとめ上げた佐古監督の思い、エンドロールまで「生きろ」というメッセージが何度も畳み掛け、私たちの心を震わせます。ぜひスクリーンで味わってください!

作品詳細

ドキュメンタリー映画『生きろ 島田叡―戦中最後の沖縄県知事』

2021年3月20日(土)伏見ミリオン座ほか全国順次公開

監督:佐古忠彦

語り:山根元世 津嘉山正種 佐々木蔵之介

主題歌:『生きろ』小椋佳(ユニバーサルミュージック)

制作:「生きろ 島田叡」制作委員会

配給:アーク・フィルムズ


関連記事