升毅さんが「すっごい好き」と話すシーンの秘話も 映画『美晴に傘を』インタビュー
1月24日(金)から東京で公開、2月7日(金)から愛知で公開される映画『美晴に傘を』は北の小さな港町を舞台にした言葉が心を紡ぐ家族再生の物語です。劇団牧羊犬を主宰し、短編映画で国内外の数々の賞を受賞してきた渋谷悠監督の長編初監督作品です。主演の升毅さんが息子を亡くし後悔に揺らぐ漁師:善次を演じ、息子の妻で娘たちを懸命に守ろうとする母:透子を田中美里さん、障害を持つ美晴を日髙麻鈴さんが繊細に演じています。その他、和田聰宏さん、宮本凛音さん、上原剛史さん、井上薫さん、阿南健治さんなど魅力的な人々が脇を固め、ぬくもりのある作品世界に命を吹き込んでいます。映画『美晴に傘を』の公開前に、升毅さんが名古屋でインタビューに応えてくれました。役作りについて、ロケ地の余市・撮影中の思い出、60年来のファンであるドラゴンズについてなど笑顔を交えて語りました。(取材日:2024年12月20日)
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名古屋はほぼホーム 竜党60年 田中幹也選手・大島洋平選手が大好き キャスティングは佐々部清監督つながり
映画『美晴に傘を』は、喧嘩別れして長らく断絶していた息子(和田聰宏さん)が癌で亡くなり、東京で行われた葬儀に出席しない善次のもとに、息子の妻と孫娘たちが四十九日を迎えようとする頃に突然訪問して…というできごとから始まる家族の喪失を乗り越えた先に光る、絆と癒しを描いたヒューマンドラマです。息子を亡くした漁師の善次役で升毅さんが主演し、息子の妻であり自閉症で聴覚過敏をもつ美晴を守ろうと懸命な母親の透子役を田中美里さん、守られてきた世界から外に踏み出したいと願いながら不安を感じると夢の中に逃げ込んでしまう美晴役を日髙麻鈴さんが演じています。三者三様の内なる声に耳を傾ける様子が北海道余市の美しい風景と人の温かさを背景に描かれ、ぬくもりに満ちた作品となっています。劇団牧羊犬を主宰し、短編映画で高い評価を得てきた渋谷悠監督の長編初監督作品としても楽しみな映画です。
映画『美晴に傘を』主演の升毅さんは、東海テレビの情報番組の出演後にインタビューに応じてくれました。中日ドラゴンズのグッズが飾られた部屋は、60年来の竜党の升さんには最高のロケーションだったようで、満面の笑顔で登場しました。升さんの今気になるドラゴンズの選手を伺うと若手の田中幹也選手、そしてベテランの大島洋平選手の名前を出してニコリ。名古屋へは仕事でもプライベートでも来ているとフランクに話しました。
映画『美晴に傘を』で渋谷悠監督、大川祥吾プロデューサーとのタッグを組んだ経緯を伺うと、升さんは「大川さんが余市出身で、いつか自身の故郷を映画で撮りたいという中で渋谷監督に出会って二人で始めたそうです。本作の撮影監督として入っている方が佐々部監督の作品で一緒に働いたことがある人で、おそらく僕の名前を出してくれたのかな」と佐々部清監督から繋がった縁だろうと話しました。脚本を読んだ時の感想を聞くと「善次は悲しい老人だな、と切なかったですね」と升さんは第一印象を語り「読み進めていくと、いろんな人に影響を与え、与えられていって少しずつ解れていく感じで素敵な作品だなと思いました」とまとめ、台詞が少ない役で難しいと感じたとも話しました。
漁師を演じるために肌を自然焼き!?現場で生まれた感情を大切に演じる
役作りについて尋ねると、升さんは茶目っ気のある表情で「漁師ということで、撮影の1か月前から東京で日の当たるところに出てって、肌の自然焼きをずっとしていました」と明かし「直前1週間、たまたま沖縄に行く予定があったので仕上げました」と加え、無精ひげを伸ばすなど準備できることはしていったと話しました。漁師の役は以前映画で経験したとのことですが、今回のウニ漁は特殊な漁法とのことです。升さんが作りあげた肌と漁師感にご期待下さい。心情面へのアプローチについて「漁港で歩いているのが普段の善次です。ある程度のイメージを自分の中に落とし込んで現場に行って、現場の空気…関係性で進めていきました。今回は時間の流れは大きくないのですが、感情の揺れが結構大きいので、その時の気持ちを大事にして体が対応していた」と善次像のベースから場面ごとに変化していったと話しました。
升さんは「佐々部監督の『八重子のハミング』では50歳から70歳ぐらいまでと年齢の幅があって、順撮りではないので50代、60代、70代とずっと年齢の使い分けを意識していました。自分で作っておかないとおかしくなっちゃう…という場合の役作りもありますね」とその年齢に合わせた姿勢を実演しながら言い、「ここ10年くらいは事前に自分という人間をできる限り落とし込んで、現場で作っていくという感じです」と役へのアプローチについて述べました。「でも、60歳近くまでは爪痕を残そうなんて考えていましたね」と軽やかに笑いました。
オール余市ロケ チーム一丸で作った空気感 升さんが「すっごい好き」と話すあのシーンの裏側
オール余市でのロケをした映画『美晴の傘』。善次が暮らす街の人々の明るさ・温かさもこの作品の魅力の一つです。善次が馴染みの居酒屋で身近な人々と交流する場面はナチュラルで、思わず仲間に入りたくなってしまいます。撮影中の様子をうかがうと升さんは「特に今回はスタッフさんの数が少ないので、役者さんは空いている日にスタッフとして自主的に参加していて、なんて素敵なんだろうと感じました」と言い「居酒屋さんのあの雰囲気。まさにあのままですね」とチーム感あふれる現場の雰囲気を伝えてくれました。
特に印象に残ったシーンについて升さんに尋ねると、居酒屋を出て(詩人を目指していた)息子の詩を吟じながら歩くシーンを「すっごい好き」と答えました。「長回しで撮りたいと言われて、望むところで”よし!”と。みんなで万全の体制を作って、周りのお店も協力してくれました」と声に力が入りました。升さん一押しの静かな道を一人歩く善次の姿は胸に刺さる名シーンです。そのシーンの撮影の舞台裏について升さんは「1回テストをして、僕が歩くのを撮るためにカメラマンさんや音声さんがバックしていくわけです。そのとき足音が大きすぎるということで、本番ではみんな靴下の状態で撮りました。自分が演じているだけじゃなくて、本当にみんなが作ってくれた花道みたいな中で撮影したので印象深いですね」と述べ、「本番オッケーになった時、目の端に一つ靴下が…カメラマンの靴下が脱げてたの」とスタッフへの親しみと感謝、作品への愛が感じさせる口調で振り返りました。
自閉症と聴覚過敏という難しい役を演じた美晴役の日髙麻鈴さんについて伺うと「東京で本読みを一度しているのですが、その時にはもうベースが出来ていました。現場では微調整するくらい。撮影していないときは、二十歳前後の、この年の女の子らしい感じでしたよ」と目を細めました。
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「余市の色を映し出している、綺麗な絵になっていた」美晴の夢のシーンを振り返る
本作には、自閉症で聴覚過敏を抱える美晴のために父が生前に描いた絵本『美晴に傘を』が登場し、美晴が失敗したり不安を感じると見る夢としても現れます。父親役の和田聰宏さんが”傘売り”として「嫌いな音を柔らかくする傘」など様々な傘を美晴に届けていく夢の場面は、特に抒情的で映像美を堪能できます。監督の絵作りについて升さんは「余市の色を映し出している。監督と撮影監督が話し合って、すごく綺麗な絵になっていました」と賞賛しました。
映画『美晴に傘を』のクライマックス、善次・透子・美晴それぞれの内心で溢れる”ある言葉”が収束していく場面も見ごたえがあります。三者三様の想いが丁寧に描かれつつ、小川が大河に流れつくような躍動感を感じる人も少なくないでしょう。升さんは「台本を読んだ時、若干ムリがあるな…という気持ちがありました。でも撮影する段階では自分のシーンを成立させることに集中しました」と率直に話しました。そして「出来上がりを見たときに不安が払拭されました。ああ、よかった。監督がやりたかったことが明確に伝わってきて、思っていたことが映像にできたんだなと、確信できました。あとはお客さんにどう見えるかだなって」と大きく頷きました。
結びに升さんは「映画に登場するみんなが小さな町で生きていて、それぞれの関係の中でちょっとずつ成長していく映画だと思います。観ていると自分に刺さる誰かがいると思うので、あまり構えずご近所さんのお話みたいな感覚で観に来ていただけたらと思います」とアピールしました。生まれかわる家族の絆の映画『美晴に傘を』、ぜひ劇場でご覧ください。
作品概要
2025年1月24日(金)よりYEBISU GARDEN CINEMAほか全国で公開
2月7日(金)より伏見ミリオン座で公開
脚本・監督:渋谷悠
出演:升毅、田中美里、日髙麻鈴 和田聰宏、宮本凜音、上原剛史、井上薫、阿南健治
配給:ギグリーボックス
©2025 牧羊犬/キアロスクーロ撮影事務所/アイスクライム