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2023-10-31

どれも美味しそう!映画『鯨のレストラン』”食”と”科学”としてのクジラを贅沢に語り尽くすドキュメンタリー八木景子監督に名古屋でインタビュー


 

11月3日(金・祝)から9日(木)まで、名古屋駅前のミッドランドスクエアシネマで公開される映画『鯨のレストラン』はクジラ料理の魅力だけでなく、SDGsの観点にも触れ、科学的な見地から現代に置けるヴィーガンブームがもたらす森林伐採を含めた「タンパク質」のバランスの問題にも向きあう”食”としてのクジラと”科学”としてのクジラを語りつくしたドキュメンタリー作品です。自然資源のルールを決める国際会議とは無縁の「クジラ専門店」の大将や、国際会議の主要人物や、捕鯨に関わる人々の言葉が散りばめられ、地球の生態系や食資源をどのように守っていけば良いかを考えるきっかけになる作品です。

『ビハインド・ザ・コーヴ~捕鯨問題の謎に迫る~』から8年、最新作『鯨のレストラン』の名古屋公開前に、八木景子監督にインタビュー。クジラ料理の魅力、現在の鯨漁、SDGsについてお聞きしました。(取材日2023年10月23日)

11/3(金・祝)ミッドランドスクエアシネマで『鯨のレストラン』 八木景子 監督トークイベント付き上映会

運命に導かれてクジラを撮ることに?!クジラの映画を撮り、クジラのスカーフを巻いてキャンペーンしていることが不思議と微笑む八木景子監督

 映画『鯨のレストラン』は国際会議の主要人物や、研究者達からインタビューして得た科学的な観点を縦糸に、東京でクジラ料理を提供する「一ノ谷」の大将、大将のお店で料理を楽しむお客さま、鯨漁に携わる人から率直に発せられた言葉を横色に織り込まれたドキュメンタリーです。八木景子監督は、2015年に『ビハインド・ザ・コーヴ~捕鯨問題の謎に迫る~』で監督デビューし、2018年ロンドン・フィルムメーカー国際映画祭で長編ドキュメンタリーベスト監督賞を受賞。前作『ビハインド・ザ・コーブ~捕鯨問題の謎に迫る~』から8年、最新作の映画『鯨のレストラン』のキャンペーンのために名古屋を訪れ、インタビューに応えてくれました。

八木監督にお会いしてすぐ目に入ったのは、監督の首にふわっと掛かるスカーフでした。黒地のシックなものですが、よく見ると歌川国芳が描いたクジラの図柄だったのです。スカーフについてお聞きすると「映画業界って黒というイメージがありますよね。オードリーの春日さんじゃないけど、何か一つポイントがあったほうがいいかなと鯨のスカーフを巻いてきました」と包み込むような笑顔で話しました。作品の中で様々な方のインタビューをし、時にはギリギリの話まで引き出したのは、八木監督のこのチャーミングな雰囲気が多分にあるなと納得させられました。

クジラ料理について八木監督は「クジラの問題に関わってから頻繁に(クジラ料理店に)行くようになったんですけど、懐かしの給食ぐらいでいつのまにか消えた食材だったんですよね」と言いました。なぜクジラの映画を撮ることになったか伺うと「神様が降りてきて作りなさいって…一言でいうとそんな感じです」と八木監督はいたずらっぽく述べ、「なんで私がクジラの映画の監督をやっているのかな、クジラのスカーフ巻いているのかなと不思議なんですよね」と微笑みました。

クジラに運命を感じたことについて詳しく聞くと「前職がハリウッドの配給会社の社員だったんです。映画を作りたくて入社したのに、会社が日本から撤退となってしまって行き場を失って…それで自分で映画会社を立ち上げました」と自身の経歴を話し、「2014年に日本がオーストラリアに捕鯨について訴えられて国際裁判で負けたんですよ。なんで負けたのかなと思ったら、日本が調査したクジラの肉を食べたからだと知りました。条約違反でないのに、おかしいなと思って色んな関係者に聞いてみました。普通ならそこで終わるのですが、あまりに理不尽な話が多くて撮るべき対象に辿り着いてしまったという感じなんです。行きついた所に偶然、活動家が来ていたとか。だからコーブを作ろうと微塵も思っていないところでスタートしたんです。何かに導かれた感じです」と振り返りました。

多彩なクジラ料理と、クジラ料理を食べる人の幸せいっぱいの顔 大将の魅力的な人柄がスクリーンに映し出される

 この映画の魅力は何といっても、美味しそうなクジラ料理の数々です。日本ではかつて給食で大和煮が出たり、家庭では刺身、ベーコンなどが食卓に並んだりしていました。現在では日常的になかなか目にすることはありません。クジラを扱う料理店について八木監督は「ワシントン条約で厳しく統制されてクジラが輸出できないため、ホエール・レストランは日本独特のものです」と定義しました。そしてクジラ専門の料理店を世界的に見たらどう感じるのか、について「ドッグ・レストランとかキャット・レストランみたいになるのでは」と例をあげて、きっと愛護すべき動物の肉を扱うレストランのイメージを持つだろうことを示唆しました。

劇中でクジラ料理を作るのは東京・神田にあるクジラ料理専門店「一乃谷」の大将・谷光男さんです。元は懐石料理の料理人ですが、ラーメンやステーキなど多彩なクジラ料理を提供し、日本各地のクジラ店から尊敬を集めています。谷大将との出会いを、八木監督は「前作の『ビハインド・ザ・コーブ~捕鯨問題の謎に迫る~』が上映されて、メディアに取り上げて頂きました。その時に料理メディアの方に”クジラ料理は、どこが一番おいしいですか”と聞いたら「一乃谷」だと教えていただいて、そこから頻繁に行くようになりました」と言いました。

谷大将の料理人を目指したきっかけや、大将の家族とのやり取り、大将が仙台から東京の神田に店を出す経緯などが作中で描かれるのですが、料理の腕だけでない、大将の温かい人柄が映し出されている部分も見どころの一つです。八木監督も「みんなに愛されているんですよ。仕込んでないのに、奥さんに100点満点と言われちゃって、息子さんにも尊敬していると言われて、お孫さんにも好かれています。初対面の人も大将のファンみたいになるんですよ」と太鼓判。そんな大将が作った料理を食べるお客様の表情も幸せいっぱいでホッコリします。「一乃谷」の常連客の中には映画『シン・ゴジラ』の樋口真嗣監督が!ゴジラとクジラの繋がりについて語っています。

大将は、日本料理だけでなく鯨肉を使ったペペロンチーノまで作りあげます。スクリーン上には美味しそうな赤身ステーキ、ハンバーグ、竜田揚げなどが登場。客席で思わずのどをゴクリと飲み込む人もいるのではないでしょうか。八木監督にお好きなクジラ料理をたずねると「ステーキとかローストが美味しいです。バター醤油がかかっていて、牛肉みたいな感じです。劇中の樋口監督のほうが、上手く伝えられるかも」と笑い、「東京では『鯨のレストラン』が公開されていて、鑑賞後に大将のお店に向かう人がいるんですよ」と教えてくれました。

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「クジラの問題は環境問題と、国の衰退と深く関わる」

 映画『鯨のレストラン』はクジラ料理や料理人の大将の姿や、将来が不明瞭な捕鯨産業を親から継ぐことを決意した鮎川捕鯨の社長の思いが映し出されたヒューマンドラマの側面と、「クジラの研究データ」など科学的な面から見た”鯨の問題”を幅広く展開する構成になっています。八木監督は「鯨料理を食べていた時に、たまたまビーガンの話をしているなとか、ワシントン条約の事務局長がビーガンに反論していたなとか、家畜の話をしていた時に東京大学の教授が海の汚染の話をしていたなとかカルタのように合わせていきました。SDGsの映画だとも思っています」と語りました。

本作は、クジラ漁やクジラ食、環境問題について考える最初の教材としても期待できます。日本人は縄文時代から鯨をとり、食料としてだけでなく骨をすり鉢にしたり腰巻にして使っていた歴史があります。時代とともに様々な工芸品が生まれ、日本人の暮らしに密着していたことを映画から初めて知る人もいるのかもしれません。1962年の日本では肉の消費量の1位は鯨肉、2位は豚肉、3位が鶏肉だったとデータが表しています。10年後1972年のストックホルム国連人間環境会議で”商業捕鯨の停止”の提案がなされ、欧米諸国が捕鯨から撤退し、海外の不買運動のため日本の捕鯨も縮小せざるを得なくなった経緯やその後が描かれます。

八木監督は「鯨について語り出すと、その国の利権など難しい話がいっぱい出てくると思います」と話しました。前作の『ビハインド・ザ・コーブ』を発表したとき、様々な雑音があったとこぼし、当時のことを「サーバー攻撃とか…世界中から狙われていましたから」と振り返り「今回は大丈夫みたいです。ただ、日本のクジラ協会が閉鎖的なので、取材自体がちょっと…」と胸の内を明かしました。またクジラの問題は”環境問題”と”国の衰退”と深い関係があると加えました。

劇中で、鯨料理店「一乃谷」の対象が訪れた外国のお客様にクジラの栄養素を一生懸命説明している場面があります。映画完成後の大将の様子を八木監督は「大将は自然体であまり難しいことを考えないで美味しいものを食えばいいんだって言っていたのに、映画を見て感化されて、”環境問題が”とか言い出したんです。何か違うスイッチが入っちゃったみたい」と教えてくれました。愛すべき大将と大将が作る鯨料理を是非スクリーンでご堪能ください。クジラを”食”と”科学”の面から学べる映画『鯨のレストラン』をぜひご覧ください。

作品概要

映画『鯨のレストラン』

2023年9月2日(土)新宿K’s cinemaにてロードショー

11月3日(金)よりミッドランドスクエアシネマにて公開

監督・プロデューサー:八木景子

出演:谷光男、ユージン・ラポワント、ジェネビエーヴ・デスポーテス、加藤秀弘、八木信行、伊藤信之、サンドラ・へフェリン、冨田香里、ユーコ・ジャクソン、樋口真嗣

Whale Restaurat @ 2023YAGI Film Inc.

 

 


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