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2023-08-21

「歴史を知ることは大事」手に汗握る展開に目が離せない!史実に基づく一級のエンタテインメント 映画『福田村事件』森達也監督に名古屋でインタビュー


 

9月1日(金)より全国公開される映画『福田村事件』は、1923年9月1日の関東大震災直撃後に千葉県福田村で起きた虐殺事件を題材にしたドラマで、『A』シリーズ、『i-新聞記者ドキュメント-』など日常に潜む闇に光を当ててきた森達也監督による初の劇映画です。地震後の混乱の中、香川県から来た行商人のうち9人が福田村の村人たちに虐殺されるまでの過程と、その後が描かれています。人間本来の営み、情愛といった普遍的な内容と、大正期の社会的背景、これまで明らかにされていなかったことが織り込まれた一級のエンターテイメント映画『福田村事件』。関東大震災から100年が経過した2023年9月1日に公開されるというのは運命的な何かを感じさせます。

主演は井浦新さんと田中麗奈さんが務め、共演には永山瑛太さん、東出昌大さん、コムアイさん、ピエール瀧さん、水道橋博士さん、豊原功補さん、柄本明さんなど多様なキャストが集結しています。公開前に森達也監督が名古屋でインタビューに応えてくれました。映画の企画から製作までの経緯、初めてのチーム・劇画撮影で得たこと、歴史から学ぶことの大切さなどを話しました。(取材日:2023年8月10日)

20年越しの題材”福田村事件”「ドキュメンタリーでは無理だけどドラマならできるのではないか」

映画『福田村事件』は1923年の関東大震災6日後に起こった事件を元にして描かれた物語です。震災後の混乱もあいまって、福田村の村人(自警団含む100人以上)が、ある誤解から香川から来た行商団、幼児や妊婦を含む9人を殺害するまでの過程が描かれています。ドラマでありながらドキュメンタリーのようなタッチで、登場人物の立場の違いによって、見える景色がまったく変わる万華鏡のような作品です。

この題材を扱おうとしたきっかけを尋ねると「2001年か2002年に小さな新聞記事で千葉県野田市に慰霊碑を作る予定だというのを見つけました。朝鮮人虐殺に関わっているらしいのですが、よく分からなくて逆に興味を持ちました。現地に行ってみたら、皆が口を閉ざすし資料も全然ありませんでした。でもアウトラインだけは分かり、当時テレビの仕事もしていたので、テレビにできないかと思ったんですがダメだった。それでwebに書いて、引き出しに仕舞ったつもりでした」と森監督は20数年前から気になっていた題材だったと述べました。そして「『FAKE』(2016年)を発表した辺りで、自分にどんな企画があるかと考えたときに福田村事件はドキュメンタリーでは無理だけど、ドラマならできるのではないかと思って映画会社に企画書を持って行きました…でもダメでした」と再び企画が通らなかったと明かしました。

ある映画賞の授賞式の控室で荒井晴彦さんと会って”福田村事件を映画にしたいと聞いたけど、本当?”と聞かれて本当だと答えたら”じゃあ、一緒にやろう”と。そこから始まりました」と語りました。企画から約20年。公開まで運べたのは時代的・社会的な変化があったためかと質問すると「この映画は規模は大きいけれど、自主映画なんです。荒井さんたちと組んで座組が出来て、目処はつかないけど、集まってからスタートしようという感じでした。だから全然、時代として20年前と何か違うかというと、僕はそういう意味では何も変わっていないと思います」と話しました。

「力量がある俳優が集まって、とても頼もしかった」井浦新さん・田中麗奈さん・永山瑛太さん、柄本明さんなど痺れるキャストが集結!

映画『福田村事件』では、加害者・被害者・周辺の人々が暮らす日常と、人間が狂気に向かう過程が映し出されています。また思いもよらぬ展開が見られるなど、とても見ごたえのある作品です。時代に翻弄される市井の人々の群像劇…その世界観を体現するのは魅力的なキャスト陣です。主演は井浦新さんと田中麗奈さんが務め、共演には永山瑛太さん、東出昌大さん、コムアイさん、木竜麻生さん、松浦祐也さん、向里祐香さん、杉田雷麟さん、カトウシンスケさん、ピエール瀧さん、水道橋博士さん、豊原功補さん、柄本明さんなど世代、活動のフィールドが多様な痺れるキャストが集結しました。

森監督は「皆さん、素晴らしい演技をされたと思います。京都でほぼ撮影したのですが、京都に来る前に慰霊碑に行って手を合わせて来てくれたらしくて…こちらは何も(お参りなどを)要求していなかったんです」と驚きと感謝の気持ちを明かしました。そして「みなさん、しっかり下調べや役作りをして臨んでくれました。あれだけの力量がある俳優が集まって、さらに役作りしてくれたのでもう完璧なものになりますよね。とても頼もしかったです」と称賛しました。監督が語るように、俳優たちがそれぞれの役を好演し、物語に深みを与えています。

森監督は「群像劇ですから、どこに自分がいるか”ウォーリーを探せ”みたいにね。ああ、あそこに自分がいるみたいに観てくれたら嬉しいです」と自分に似たキャラクターに投影して鑑賞する楽しみを提案してくれました。そして「僕は村長かな」と話しました。

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手に汗握る展開に目が離せない怒涛のラスト40分 チームでの映画作り 熱いディスカッションで生まれた脚本

脚本について森監督は、「絶対に必要だと思ったのは、加害者側つまり福田村の住民たちの日常をしっかり描くということでした。それ抜きでいきなり虐殺したらモンスターですからね。普通の生活をしている人でも、ある条件が整えば虐殺みたいなことをやってしまう、というのをしっかり描こうというのが脚本部との共有認識でした」と言いました。ドキュメンタリー作家である森監督が初めて取り組んだ劇映画である本作について「劇映画ってのはチームだなと本当に実感したんですよ。この作品は時代劇ですから、美術部や演出、照明など皆で作り上げましたね。一人では出来なかったです。誰かのアドバイスに”なるほど”と言うものがたくさんありました」と述べました。さらに森監督は「これまでほとんど一人で撮っていて、自分の主観で作ってきましたが、今回はそうもいかず…。まあ御大も多いわけですよね」とニヤリ。「(企画・脚本の)荒井(晴彦)さんも含めて井上(淳一)さんもそうですが、いろんなこと言うんです。かなりの圧で僕が屈した部分もあるし、そういう意味ではプラスマイナス0」と砕けた調子で話しました。

様々な登場人物たちが繰り広げるストーリーには意外性がいっぱいです。集落内の人間模様、行商人たちの出自、男女関係、通りすがりの関係のはずが…とドキッとする展開に驚かされます。特にラスト40分は、映像・音響・芝居すべてに釘付けとなる展開です。手に汗を握る人、呻き声を漏らす人もいるかもしれません。また、ラストカットは監督から観る人への宿題のようにも感じさせます。一人一人がどのような宿題を受け取ったのか、上映後に誰かと話したくなる作品です。物語の思いもよらぬ展開について森監督は「僕は、いろんな感情を動かされたり揺さぶられたり全部含めてエンタメだと思っています。だから、これを観に来て”やられた”っていう風にしたいんです」と言い、「映画って観客を裏切るものだと思っているんです。そういう映画になったんじゃないかなと思っています」と穏やかな口調ながら自信を見せました。

「歴史を知ることは大事」「人間は失敗とか挫折とかで成長する」次回作は〇〇映画を作りたい?!

劇中の世界は今から100年前の大正時代。軍国主義に浸かる人と反発する人・朝鮮人・部落出身者・プロレタリア演劇を志す人など様々な人たちが生きていた時代です。そんな当時と現代を比べて感じることについて森監督は「この種の話が得意な人に」と、同席していた小林三四郎プロデューサーに答えを求めました。小林プロデューサーは「劇中の時代のベースになることを皆で共有しようと言うことは話していたんです。日本ではあまり馴染みがないんですが三一独立運動とか五四運動(韓国や中国で広がった民衆運動。日本からの独立を目指したり、干渉を厭うもの)が起こったり、朝鮮の弾圧で名をはせた一味が日本に帰ってきた。そしてスペイン風邪。第一次世界大戦後の不況のなか、政権は外敵を作り、マスコミを総動員して国内の批判から逃れるという今と同じ状況もありました」と説明し、「100年経って今と非常に酷似しているのがスペイン風邪とコロナです」と述べた後、現在の中国の台湾への干渉や、北朝鮮のミサイル発射の例をあげて「”敵が攻めてくるかもしれないぞ”という外敵に目を向ける意味で言えば、これは自分たちの物語です。だから100年の間、いろんなものが便利になり、知識や失敗を積み重ねながらも変わらないっていうのはどういうことか…。森さんがよく言う”歴史を学ぶっていうのは失敗しないためだ”とその意味で言うと、日本人は都合が悪いことは目に蓋っていう状態を続けていてこのザマだよと。そこに対して、私たちは光を当てようと。森さんは、どこかでそういうことを考えていたと思いますし、そこに僕は共鳴しています」と語りました。

森監督は「歴史を学ぶ意味は、やはり失敗を学ぶことだと思います。でも今、自虐的史観だと言って軽視どころか無かったことのように本気で言う人がいて、ダメだろうと思います」と表情を曇らせました。「人間は失敗とか挫折とかで成長するわけですが、そういうことを忘れて成功体験ばかり記憶している奴なんて酒も飲みたくないし、口も聞きたくないです。今、そうなっちゃっているんじゃないかな」と指摘しました。本作のテーマの一つである集団心理について森監督は「僕にとって原点に近いのがオウム真理教のドキュメンタリーなんです。信者たちは穏やかで本当に善良でビックリしたんですよ。でも同時に彼らも指示が下ればおそらく…。加害者側が本当に凶暴で冷血だったかというとそんなはずはない。人は集団になったときに一人でやれなかったことが出来てしまう。集団に主語を預けた時にとんでもない失敗をするのは日本だけでなく、昔から世界中であることです。人類の負の属性だと思います」と言いました。

そして「人はなぜ群れるのかと言うと弱いから…恐怖を持っているからですよね。だから恐怖は集団化を促進する大きな要素になります。これはもう昔から繰り返している、世界中で起きていることです。でも歴史を知れば多分、同じ過ちは犯さないはずだと思うんです。変わりますよ」と話しました。変化の例として「ドイツがウクライナに戦車を供与する時に、国内で凄い議論があったんです。西側世界の圧力で結局供与しましたが、議論するだけでも随分変化しています。自分たちが何故ナチスという政党を支持したのかということをずっと考え、歴史を知っています」と述べました。「映画に置き換えても同様で、ナチスとかホロコーストなどの映画が年間何十本も世界中で作られています。あるいはアメリカでは黒人差別や暴動の作品やネイティブアメリカンを殺戮した話などが作られています。自分たちの負の歴史をエンタメという形にしながら、しっかり皆と記憶する。何も変わってないじゃんと言いたくなるけれど、変わっているんです」と声に力を込めました。「スティーブン・ピンカーという教授が発表していますが、実は15世紀に比べると今、戦争とか殺人事件は減っているんです。人は不安に弱いから実感できないかもしれないけれど、少しずつ良くなっているんです。だからその良くなる傾向を加速するうえで、歴史を知ることは大事だと思いますし、ちょっとは変わります」と未来に期待を寄せました。また「知るために、こういうエンタメとして形にできればいいのですが、なかなか日本では…。日本の映画もだらしないんですよ。換言すれば社会が求めないから、ずっと負の相互作用が続いています。少しは変わってくれればいいなと思います」とまとめました。

森監督に次回作の構想を聞くと「撮影現場では、南京虐殺やろうかなんて話していました。つい数日前はホラー映画撮りたいなと。今は恋愛映画かなぁ、ドキュメンタリーかもしれないし、自分の中にはジャンルの仕切りはないです。でもホラー映画は結構本気なんです。キューブリックの『シャイニング』みたいな」と微笑み、「僕は、テレビのドキュメンタリーでも超能力者を撮っているし、全然、社会派じゃない」と意外な言葉を残しました。森達也監督の初劇画作品、映画『福田村事件』を是非劇場でご覧ください。

作品概要

映画『福田村事件』

9月1日(金) テアトル新宿、ユーロスペースほか全国公開

※愛知県内の公開は以下※

9月1日(金)~シネマスコーレ、刈谷日劇

9月8日(金)~ミッドランドシネマ名古屋空港

9月24日(日)~伏見ミリオン座

監督:森達也

脚本:佐伯俊道、井上淳一、荒井晴彦

出演:井浦新、田中麗奈、永山瑛太、東出昌大、コムアイ、木竜麻生、松浦祐也、向里祐香、杉田雷麟、カトウシンスケ、ピエール瀧、水道橋博士、豊原功補、柄本明

©「福田村事件」プロジェクト2023

HP https://www.fukudamura1923.jp/

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