toggle
2022-11-01

稲垣吾郎さんが魅せる静かに悩む大人のラブストーリー 映画『窓辺にて』今泉力哉監督にインタビュー


 

11月4日(金)に公開となる映画『窓辺にて』は『愛がなんだ』『街の上で』などの今泉力哉さんによる完全オリジナル作品で、稲垣吾郎さんが妻の浮気を知っても怒りがわかない主人公を演じる大人のラブストーリーです。売れっ子小説家と浮気している編集者の妻を中村ゆりさんが演じ、玉城ティナさんが主人公が出会う高校生作家を演じています。

主人公夫婦の関係性だけでなく、様々な年代の恋愛や浮気、創作をしている人の苦悩や葛藤も描かれている本作の企画のスタートから脚本執筆、撮影中の稲垣さんの様子やワンカットでの撮影となった山場となる夫婦の会話シーンについてなど、映画をより楽しんでもらえる様々なエピソードを今泉監督が話してくれました。(取材日:2022年10月13日)

稲垣吾郎さん主演・今泉力哉監督の経験をふんだんに盛り込んだ脚本

映画『窓辺にて』は今泉力哉監督による完全オリジナル作品です。企画の始まりについて今泉監督は「稲垣吾郎さん主演で好きに書いてくださいという企画」と話し、「妻が浮気したときに当たり前のように怒りが湧くのか、ちゃんと怒れるのかと考えたことがありました」と今から10年ほど前、自身の結婚後に考えていたことが本作の題材になったと話しました。「稲垣さんには喜怒哀楽が激しいイメージがなくて、浮気に対して心が動かないことが愛情がないことになるのかどうか、奥さんと別れたほうがいいのかなどを悩むこのキャラクターを理解してくれるんじゃないかと思いました」と元々持っていた題材と稲垣さんのイメージを組み合わせて誕生した作品であることを教えてくれました。

オリジナル脚本の完成までを聞くと「時間はけっこうかかって、悩みました」と今泉監督。2019年にプロットを作り、2020年秋頃に脚本を書いていた時点では、“完成したものよりも暗い物語”になっていたそうで「コロナにかかり、自分の具合の悪さが脚本に反映されちゃって」と紆余曲折あって、今の形になったことを明かしました。また本作における浮気や不倫の描き方について「(浮気や不倫が)決して楽しい時間ではなくて、罪悪感を感じていたり、(浮気や不倫を)止めようとしていたり、そこにある本当の時間を描きたい」と話しました。「それぞれがいろいろな気持ちで悩んでいて、誰も楽しんでいなくて、幸せじゃない」と語り、本作の浮気や不倫の描き方には今泉監督ならではの視点が活かされていると感じられました。

そして、オリジナル脚本だからこそ、自身の経験もふんだんに盛り込まれていると話し「名古屋市立大学時代の彼女との別れ話をした時のことや、片想いしていた時の自分の心情なども使っています」と教えてくれました。想像だにしないようなセリフや面白過ぎるシチュエーションも自身の体験が元になっているというのが、今泉脚本の大きな魅力なのだと思います。脚本には実体験をそのままではなくアレンジして使っているそうで、あまり詳細には書けないのですがあるシーンについて今泉監督が「米津玄師の“Lemon”じゃなくて(実体験では)ポルノグラフィティの“アポロ”でした」と教えてくれたことが衝撃的でした。

〈関連記事〉

若葉竜也さんの朝ドラ出演を予言? 映画『街の上で』名古屋舞台挨拶に今泉力哉監督が登壇

原作にはない「今」という視点にこだわった 映画『アイネクライネナハトムジーク』今泉力哉監督に名古屋でインタビュー

「電撃引退はやめてくださいね(笑)」映画『愛がなんだ』岸井ゆきのさん、今泉力哉監督 名古屋での公開初日舞台挨拶&インタビュー

稲垣吾郎さんに「ちょっとカッコよくなっちゃいましたね」

映画『窓辺にて』で稲垣吾郎さんが演じる主人公・市川茂巳は過去に1冊だけ小説を出版したことのあるフリーライターという役どころです。俳優としての稲垣さんの印象について「決して器用な人ではないし、凄いテクニカルに芝居をする人ではありませんでした」と話し「可愛らしさ、チャーミングさがあります」と語りました。

普段っぽいお芝居を希望する今泉監督の意向をよく理解してくれていたそうで「声を張らないこと、(トーンを)落とすことをわかってくれていました」と撮影時の様子も教えてくれました。ふとした瞬間に稲垣さんの仕草が決まりすぎてしまったときに今泉監督は「ちょっとカッコよくなっちゃいましたね」と声をかけることもあったそうです。「思っている以上に声がよくて、途中からは何度も『カッコよくなっちゃった』と言い過ぎていたかも」と笑いながら教えてくれました。

小説に関わる仕事でも、表に出る人ではない主人公は「相手の話に寄り添うキャラクター」で、静かで落ち着いた物言いが魅力的です。今泉監督も「うんちくを語らせるところも自然で、嫌みがないですよね」と見た目や仕草などのわかりやすい色気ではなく、人物としての魅力を感じさせてくれます。また「物を作ったり、書いたりしている人の面倒くささや繊細さ、特有の時間や物の考え方を主人公に持たせたい」と考えたことも明かしました。

〈関連記事〉

三重県・伊勢志摩が舞台の映画『半世界』阪本順治監督&主演の稲垣吾郎さんに名古屋でインタビュー

「玄関に伊勢の備長炭を飾っています」映画『半世界』名古屋舞台挨拶に稲垣吾郎さんと阪本順治監督が登壇

玉城ティナさんが体現する「創作をしている人の苦悩や葛藤」

映画『窓辺にて』では玉城ティナさん演じる高校生作家・久保留亜や編集者である主人公の妻が担当する人気小説家・荒川円などを通じて、小説家という職業が描かれています。今泉監督は「浮気や不倫だけでなく、創作をしている人の苦悩や葛藤を描きたかったんです」と話しました。

久保留亜、荒川円はともに美男美女で、作品よりも作者の人となりに注目が集まってしまう描写があります。今泉監督は「ビジュアルや若い女性ということがセンセーショナルに扱われ、小説の中身を捉えてもらえなかったり、本人がいいと思っていないものが世間から評価されるというのはきっとつらいと思う」と話し、今泉監督も「まずは自分が納得したものを作りたいと思っています」と創作者としての考えも投影されていることを語りました。

劇中に登場する久保留亜が文学賞を授賞した「ラ・フランス」は「“手放す”ことを否定的に描かない小説」です。劇中では小説の一部がナレーションで読み上げられるのですが、この文章も今泉監督が執筆したそうで「世の中に認められた小説を書くのは大変でした。受賞作ですからね(笑)」と話しました。

映画の中でも“手放す”“別れる””辞める”ということが描かれていて「一般的にはネガティブなイメージがあるけれど“手に入れる””続ける”ことと同じくらいエネルギーがいることなので、マイナスだと捉えられたくない」と今泉監督の考えを語り、小説のテーマと映画のメッセージが繋がっていくことに面白さも感じられました。

〈関連記事〉

名古屋は一番熱量が高い!玉城ティナさんと小関裕太さん 映画『わたしに××しなさい!』舞台挨拶

夫婦の会話はワンカットで「あのシーンは自分で観てもグッとくる」

映画『窓辺にて』の山場で、稲垣吾郎さんと中村ゆりさんが演じる夫婦が長い会話をするシーンがあります。ワンカットで撮影していることについて聞くと「テストの後にカット割りを考える予定でしたが、さまざまなカットを繋いだ編集では見せることができないくらい芝居の緊張感も感情も成り立っていました」と言い、急遽、カメラマンの四宮秀俊さんと相談してワンカットで撮影を行ったそうです。またテストの時よりも少し中村さんに感情的になったもらったと話し「稲垣さんもそれに反応して感情が出て、セリフも二言、三言、増えているんですよ!」と振り返りました。そのことを取材中に稲垣さんに確認したら「そうでした?」と無自覚だったそうで「言葉にも縛られずに向き合って、自分の気持ちを真摯に相手に伝えようとしていただけなんだと思います」と話しました。

今泉監督は「あのシーンは自分で観てもグッとくるし、いいシーンになりました」と満足のいく仕上がりになっていると自信をのぞかせました。カメラマンの四宮さんは『ドライブ・マイ・カー』の撮影を担当していて「あのシーンが撮れたので、もうこの映画は大丈夫じゃないですか」と言葉をかけてもらえたことを嬉しそうに話しました。「長回しでなければ、稲垣さんの自分の言葉も出てこなかったと思います」とワンカットで撮った甲斐があったことを確信している様子でした。

作品概要

映画『窓辺にて』

2022年11月4日(金) 全国ロードショー

〈映画『窓辺にて』あらすじ〉

フリーライターの市川茂巳(稲垣吾郎)は、編集者である妻・紗衣(中村ゆり)が担当している売れっ子小説家と浮気しているのを知っている。しかし、それを妻には言えずにいた。また、浮気を知った時に自分の中に芽生えたある感情についても悩んでいた。

ある日、とある文学賞の授賞式で出会った高校生作家・久保留亜(玉城ティナ)の受賞作「ラ・フランス」の内容に惹かれた市川は、久保にその小説にはモデルがいるのかと尋ねる。いるのであれば会わせてほしい、と…。

出演:稲垣吾郎、中村ゆり、玉城ティナ、若葉竜也、志田未来、倉悠貴、穂志もえか、佐々木詩音、斉藤陽一郎、松金よね子

監督・脚本:今泉力哉

©2022「窓辺にて」製作委員会


関連記事