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2022-10-21

愛知県の刈谷や知立で撮影の映画『わたしのお母さん』杉田真一監督に名古屋でインタビュー


 

11月11日から全国公開される映画『わたしのお母さん』は、幼いころから母親に苦手意識を抱き自分の気持ちを表すことのできない娘が、ひょんなことで夫と暮らす家で母との同居生活を始めることになり、日々やり場のない思いを溜め込んで…という母と娘の微妙な関係を描いた作品です。娘を井上真央さん、母親を石田えりさんが演じるほか、阿部純子さん、笠松将さんなどの出演者がそれぞれ好演しています。愛知の刈谷や知立で撮影したシーンがたくさんあり「この場所は…!」とロケ地を探す楽しみ方もできそうです。

映画『わたしのお母さん』公開に向け、杉田真一(すぎたまさかず)監督が名古屋でインタビューに応じてくれました。杉田監督が井上真央さんに宛てたお手紙、愛知でのロケや笠松将さんへの思い、今後について話してくれました。(取材日:2022年10月7日)

井上真央さんに手書きの手紙で熱い気持ちをぶつけた

映画『わたしのお母さん』は家族だからこそ言葉にできない、複雑で繊細な心情を丁寧に紡ぎ、ひとりの女性が葛藤を乗り越えて前へと進む道のりをスクリーン越しに静かに見守っていくようなヒューマンドラマです。母親に対して複雑な思いを抱える娘の夕子を井上真央さんが演じ、表情や仕草で夕子のやるせない胸の内を表現しています。タバコを吸うシーンでは、その行為が主人公にとってどんな意味があるのか思わず考察したくなるような佇まいを見せています。

杉田監督は「井上さんがこれまで出演した作品を拝見していて、役への向き合い方が真摯だと感じていました。今回の映画『わたしのお母さん』は主人公の言葉が少なくて、深いところのお芝居になるだろうけれども、きっと井上さんなら“そこに居そうな人”として存在してくれそうだと思いました」と井上さんに寄せる思いを語りました。「とにかく貴方に演じて欲しいという気持ちを最大限に伝えようとラブレターに近いですね…。もちろん脚本の中にもあるけれど、プラスアルファで便箋2枚くらいの手紙を正座して書きました」と熱い気持ちで監督自ら井上さんにオファーしたことを明かしました。完成した作品について杉田監督は「井上さんじゃなかったら、まったく違う映画になっていたと思います」と井上さんを絶賛しました。井上さん演じる夕子の目線、指先、佇まいから感じられる心の揺らぎは大きな見所となっています。

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実力派の二人が体現する母と娘の関係のリアル「灰色の部分を描きたい」

母娘の関係を描くことになったきっかけを杉田監督は「次の企画を考えていたときにちょうど周囲で娘と母親の関係が話題になっていて、興味を持って調べました。そして毒母(毒親)というワードを目にして、言葉が強くてシンプルなぶん白か黒しかないみたいで小さな違和感を持ちました。言葉でカテゴライズしたことで色付きのフィルターが掛かってしまい、本当に見なければいけない個々の物語や思い…本質が見えにくくなっていく。もっと無限のグラデーションがあるはずです。白や黒だけじゃない、灰色の部分を描きたいと思いました。興味と小さな違和感がこの映画の始まりです」と語ってくれました。また、自身から少し距離のある物語をどう自身の物語として掘り下げることができるか、そこへの挑戦もあったと話してくれました。

杉田監督は脚本の執筆にあたり「母親に対するモヤモヤや、親子だからこそ複雑な思いを抱いてしまうことへの後ろめたさ…このモヤモヤと後ろめたさの正体を探ることから始めました。母親を描くときに夕子からの視点だけではなく、他からの視点、関係性があった方がより人物が立体的に描けるかなと思いました」なので夕子の弟(笠松将さん)と妹(阿部純子さん)を登場させることで、主人公を長女にするアイデアが生まれたそうです。母親について杉田監督は「脚本ではもう少し分かりやすく嫌味があるキャラクターだったのですが、撮影初日の石田さんの演技が、脚本のイメージより明るくて天真爛漫だったので、キャラクターを定めるまでに少し時間が掛かりました。「悩んだ結果、脚本のイメージに合わせるより石田さんが提示してくれた母親像の方が、近くに居そうな普通の人”に感じたので、一旦イメージを捨てて石田さんの演技を活かす方向に落ち着きました」と、人物像の設定についての悩みも打ち明けてくれました。石田さん演じる「お母さん」は見る人によって好ましくも妬ましくも映る不思議な存在感を放っています。お母さんとはいったい何なのかを改めて考えるきっかけになりそうです。母親に対する主人公の繊細な心模様をぜひ劇場で見届けてください。

刈谷や知立のあちこちで撮影 名古屋出身の笠松将さんが出演「ふつうの笠松将が見たい」

映画『わたしのお母さん』の製作には刈谷日劇がクレジットされています。製作に興味を持っていた刈谷日劇の支配人と本作のスタッフが知り合いということで杉田監督と縁が繋がり、撮影も刈谷付近で行うことになったそうです。杉田監督はロケをした刈谷や知立について「映画の舞台はある地方都市という設定なので、はっきり地名をだしていませんが、そこにお住まいの方はきっとその場所がどこか分かると思います」と笑顔で話しました。主人公が住む家や主人公がパートで働くスーパー、駅前や川原など地元の人には見覚えのある場所がスクリーンに映し出されています。「すべて愛知で撮影するつもりでしたがコロナで撮影が中断になって、撮影が再開したけれど愛知で合宿して残りを撮るのは難しい時期だったので実家のシーンは東京から近い千葉で撮りました」と教えてくれました。愛知と千葉のシーンが無理なく繋がったことや、劇中に登場する回想シーンのカット割りが効果的にできたのは撮影部や編集部、スタッフのお陰ですと感謝を述べました。

主人公の弟を演じた笠松将さんの当時の印象について尋ねると「めちゃめちゃ生意気だった」といたずらっぽく微笑み「野心的でギラギラしていている印象でした。だからこそ一発で大好きになったし、笠松さんと一緒に映画をつくりたいと思いました」と語りました。撮影中の様子を聞くと「笠松さんは(演技について)振り切りたい思いがあって、でも本作では“振り切らせない”ことに注力していたから、お互いが歩み寄るのに時間を掛けた」と述べ、ディスカッションを重ねたことを教えてくれました。杉田監督は「本人がどう思うか分からないけど、笠松将の“振り切らない芝居”をもっと見てみたいし、今後も挑戦して欲しいと思います」と語りました。

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変更前のタイトルに込めた想い「(今後は)ラブストーリーに挑戦してみたい」

杉田真一監督は長編デビュー作『人の望みの喜びよ』(2015年公開)がベルリン国際映画祭ジェネレーション部門でスペシャルメンションを受賞していて、人間ドラマを描く手腕が高く評価されています。長編第二作目となる『わたしのお母さん』は言葉や説明をそぎ落としたことで生まれる余白から、登場人物の複雑な思いを観客それぞれの胸の中でじっくり考えられる作品です。完成間際まで、本作の仮タイトルは『閉じこめた吐息』だったとのこと。杉田監督は「言いたいことが吐き出せない主人公の想いを“吐息”になぞらえたタイトルでしたが、どうも少し分かりづらい。誰にも共通するテーマとして広く多くの方に届きやすいと思うので、『わたしのお母さん』として良かったと思います」と言及しました。

杉田監督の今後について伺うと「これまでの作品から一番遠いところにありそうなラブストーリーをやってみたいですね」と意外な答えが返ってきました。「恥ずかしいですが、今までやってきたことと違うステージ。自分でも驚くような、多くの人が見てくれるような作品に挑戦したいです」と目を輝かせました。

作品概要

映画『わたしのお母さん』

11月11日(金)より刈谷日劇、伏見ミリオン座にて公開、全国ロードショー

出演:井上真央 石田えり 阿部純子 笠松将 ぎぃ子 橋本一郎 宇野祥平

監督・脚本:杉田真一

製作:刈谷日劇 アン・ヌフ TCエンタテインメント 東京テアトル U-NEXT リトルモア

製作プロダクション:プラザ知立 ベストブレーン

配給:東京テアトル

©2022「わたしのお母さん」製作委員会


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