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2022-02-16

佐々部清監督への想いも語る 映画『北風アウトサイダー』ある4兄妹の物語 監督・脚本・主演を務めた崔哲浩さんが来名!


 

2月25日(金)から名演小劇場で公開となる映画『北風アウトサイダー』は、俳優であり劇団主宰者でもある崔哲浩(さい てつひろ)さんが自ら監督・脚本・主演を務め、その意思を汲んだ演劇人が結集して作られた熱い作品です。大阪府生野のコリアンタウンが舞台となっており、偏見や貧しさに悩みながらも笑いと励ましを忘れない4兄妹が、次々と襲いかかる人生の不条理と戦う姿がドラマチックに描かれています。

公開を前に崔監督が名古屋でのインタビューに応え、実体験について、撮影秘話などを語り、師匠のように思っている佐々部清監督への想い、俳優を志したきっかけ、映画『ホタル』に出演した際の高倉健さんに纏わるエピソードも話してくれました。(取材日:2022年2月1日)

「80パーセントくらいが本当の話です」 リアルへのこだわり

映画『北風アウトサイダー』は在日コリアンの町が舞台で、リアルな生活風景のなかに描かれる4兄妹を中心とした人間模様や、ヤクザや某組織との関わりがドラマチックに映し出された人情物語です。崔監督に『北風アウトサイダー』を手がけたきっかけを伺うと、「師匠のように思っている佐々部清監督が2020年に亡くなって・・・。『日はまた昇る』(2002)で僕が出演していた時、佐々部さんは41歳でした。そして僕も41歳になりました。師匠と同じ年齢になったことで追悼の気持ちと、映画を作りたいという気持ちの箍が取れて映画を作ろうという決意となりました。舞台で2回公演した作品でもあります」と述べました。

映画化に向けての脚本は「脚本家さんに原作を見せて書いてもらいました。でも、分かりやすいんですけど、まとまりすぎているように感じて・・・僕が作る映画は現場で生まれたものも切り抜いていきたいと言うか・・・」と崔監督自身で書いた経緯を明かし、「テーマを“人間とは・愛とは・時代の継承・血脈”の4つにして何十回も書き直しました。僕が書けるリアルは在日コリアンの世界だけです。在日コリアンがどうこう言いたいのではなく“人”が描きたかっただけなんです」ときっぱりと語りました。

自叙伝的な内容ですかと尋ねると「80パーセントくらいが本当の話で、僕の体験談と在日コリアンの親族、ご近所の話を取り入れていています。例えば、僕が朝鮮学校でなく日本の小学校に入ろうとしたときに総連の人が説得に来たことがあって、その体験を映画の中に入れ込みました」と話しました。続けて「20パーセントがエンタメ要素で、在日統一連合会っていうのが出てきますが、映画ではデフォルメして、ドキドキさせるために物凄く悪く描きました」とニヤリ。日常の家族の姿、入り組んだ人間模様、“アウトレイジ”なシーンなど、いろいろな見所でいっぱいです。

崔監督は、「リアルとは、ここで楽しく話していたら急に地震が起こるとか、幸せの絶好調の裏で最悪なことが起こっていることだと考えています」と述べました。だからこそハッピーな場面で、唐突に拉致問題などの負の要素をちりばめたことを明かし、「デコボコした映画になりました」と、こだわりのリアルな描写に満足した表情を見せました。

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映画館にかかる作品を作りたい・・・やってみたら予想の10倍大変だった?!

 崔監督は「18歳から役者をやってきて、今は配信などが中心の時代になっていますが、僕は映画に救われた幼少期だったんです。だから映画がなくなってはいけないし、映画館でかかる作品を作りたいと思いました」と声を強くしました。幼少期に見た作品について「治安のあまり良くない地元、生野というのは不良の集まりの場所なんで・・・そのなかで中学時代のホームルームの時間に『潤(ゆん)の街』(1989年、金祐宣監督作品)や、地方劇団の「青春デンデケデケデケ」を見ることがあって、そこから未来への希望を見出して俳優になろうと思ったんです」と振り返りました。加えて「役者をやっていく中でも、35ミリフィルムの時代からデジタルに変わってきて、便利になっているけど大事な何かが忘れられていくというかね。映画館とは体温を感じて皆とスクリーンで夢を見る場だと思っているので、配信を否定しませんが、やはり何かが足りないと思うときがありました。人と人が希薄になっていく時代だからこそ映画を作りたいのです」と監督作品第一作目の熱気を感じさせました。また、「画面に映るざらつきや、映画1本を通して見える作品のテイストを考えて、現代の設定だけど昭和に見えて懐かしいという撮りかたをわざとしています」と崔監督こだわりの映像の風合いをアピールしました。

本作『北風アウトサイダー』では監督・脚本・主演を担当した崔哲浩さん。151分の作品のなかで役者としても出ずっぱりです。撮影中の話になると「かなり覚悟して撮影にのぞみましたが、何度も音を上げそうになりました。考えていたより10倍大変でした」とこぼし、「スタッフの凄さが分かりました。今まで関わってきた監督が“俳優は最後に咲く花だから、スタッフの思いを汲んで、人の10倍上手くなれ”と教えてくれましたが、その意味がよく分かりました」と実感こめて語りました。主人公・ヨンギの役作りについて伺うと「まず10キロ太りました。精神疾患をかかえて、どん底のところがスタートだったので、病院で目線の合わせ方や挙動、行動のリズムのずらし方を見学させてもらいました」と教えてくれました。15年前に失踪して、やっと帰ってきた兄:ヨンギの変わり果てた姿に弟妹たちが衝撃を受けるシーンがありますが、スクリーンで映し出されるその姿に役者・崔哲浩さんの凄みを感じる方も多いのではないでしょうか。

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「エンタメの力って凄い」 高倉健さんの偉大さ

 崔監督は21歳のとき役者として映画『ホタル』(2001年)に出演したそうです。当時について「僕、北朝鮮籍で何回も領事館で国籍を韓国に変えて欲しいと足を運んでいたんですが、家族が総連の幹部だったので“お前、スパイがしたいのか”と国籍を変えてくれなかったんですよ」と余談として口火を切りました。「6回目に領事館に行ったら、“なぜ韓国に行くんだ”と聞かれて、“高倉健さんと一緒の映画に出演します”と答えたら領事館のスタッフがざわついて、一番えらい人まで飛んで来て国籍を変えてくれたんですよ」と驚きの出来事を教えてくれました。「ちょうど『鉄道員(ぽっぽや)』が韓国で大ヒットしていた時期で、21歳の僕としたらカルチャーショックでした。高倉健さん凄い!エンタメの力って凄いんだなと、国籍すら変えられるんだと思って」と興奮気味に語りました。幼少期・青年期を支えてくれた映画の世界に、今も魅せられ続ける崔哲浩監督が作った映画『北風アウトサイダー』をぜひ、劇場でご覧ください。

作品概要

映画『北風アウトサイダー』

2月25日(金)より名演小劇場にて公開

監督・脚本:崔哲浩

出演:崔哲浩 櫂作真帆 伊藤航 上田和光

浦川奈津子 遠藤綱幸 佐野いずみ 新宮里奈 梅津翔

田中あいみ 秋宮はるか 千賀多佳乃 福本翔 玉木惣一郎

松田俊大 杉浦豪 大原広基 黒田焦子 藤代麻美 永田もえ

永倉大輔 松浦健城 竜崎祐優識 並樹史朗 岡崎二朗

助監督:上田 和光 制作:田中 あいみ / 秋宮 はるか 編集:松原 雅人

音楽:Les.R yuka / 野島健太郎

主題歌:「あなたへ〜北風に乗せて〜」Les.R yuka

制作:ワールドムービーアソシエーション

配給:渋谷プロダクション

©︎2021ワールドムービーアソシエーション


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