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2021-08-30

カンヌ国際映画祭脚本賞受賞 映画『ドライブ・マイ・カー』濱口竜介監督にインタビュー


 

8月20日に公開した映画『ドライブ・マイ・カー』は村上春樹さんが2013年に発表した短編小説「ドライブ・マイ・カー」を2018年公開の映画『寝ても覚めても』などで知られる濱口竜介監督が映画化した作品です。

西島秀俊さん演じる舞台俳優で演出家の主人公が妻を失った喪失感と後悔を抱えながら、三浦透子さん演じるぶっきらぼうで無口な運転手を含む、演劇祭の仕事で訪れた広島で出会った人々や出来事によって再生していく物語です。第74回カンヌ国際映画祭で日本映画として史上初となる脚本賞を受賞したことで大きな話題となっています。

原作の精神に即して作り上げたという作品について、2時間59分という上映時間になった経緯、コロナ禍の影響を受けて劇中の演劇祭の場所が広島になったことなどを濱口監督にインタビューしました。

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2時間59分の上映時間 長さを感じずに作品の世界に浸る

映画『ドライブ・マイ・カー』は村上春樹さんの短編小説「ドライブ・マイ・カー」のストーリーが中心ですが、単行本「女のいない男たち」に収められた「シェエラザード」と「木野」の要素も取り入れられていて、上映時間2時間59分というボリュームの作品になっています。

濱口監督は「脚本を書いているときに2時間半にはなるなと思っていました」と話し、役者さんの演じやすさを核にしていたことを教えてくれました。「一番最初に編集したものは3時間20分くらいあって、ちょっと青ざめてしまいました。そこからなんとか絞り込んで、3時間のものをプロデューサーたちに観ていただいたときに、この形が極めて力強いものだと感じてもらえました」と答えました。2時間59分という長めの上映時間の作品が出来上がったことについて濱口監督は「プロデューサーたちの肝が据わっているというか、背中を押してくださって、ありがたかったです」と感謝の気持ちを述べました。

カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞したことについて濱口監督は「一般のお客様の中には(上映時間が長くて)観に行くかどうか迷う方もいると思うのですが、(脚本賞を取ったことで)話は面白いんだという印象を持っていただけると思うので、作品にとっていいことだと思います」と話しました。

2時間59分という上映時間に鑑賞を躊躇う方もいるかもしれませんが、あっという間に終わるというよりも、作品の世界にどっぷりと浸ることができる幸せな時間を過ごすことができた感じでした。その理由をたずねてみると「(長さを感じないといわれるのは)なんでなんだろうと思うんですけど、ひとつの流れができているから。リハーサルの場面についても、その中で育っていく感情や関係性があって、重層性というか、表面上見えていることと、底のほうで起きていることが常にあるようになっているので、それを見ていると自然と時間が過ぎていくのだと思います」と教えてくれました。

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「ある種の希望までたどり着きたいと感じました」

濱口監督は映画化の許諾を得るために、村上さんに詳細なプロットと手紙を書いたと話し「何か月か経ってポンっと許可が下りまして、それ以降は何も言われず、ご自由というスタンスを感じていました」と教えてくれました。

村上春樹さんの原作を脚本にする際に意識していたこととして「文章でできることと映像でできることは全然違うので、文章を単に映像で再現することはしませんでした。原作の精神に即して、自分が受け取ったものを映像で、役者さんの行動や言動で組み立てなおすことを考えました」と答えました。

映画『ドライブ・マイ・カー』では、主人公の家福が広島の演劇祭で運転手のみさきと出会って交流を深めていく過程とともに、アントン・チェーホフの戯曲『ワーニャ伯父さん』を上演するまでを丁寧に描いています。濱口監督は「原作では『ワーニャ伯父さん』の扱いは大きくないのですが、家福とみさき、ワーニャ伯父さんとソーニャが対比するように書いてあると感じたんです」とその理由を答えました。また感動的なラストシーンについて「原作の短編は起承転結の転ぐらいで終わっている印象があるのですが、だとすれば村上さんが長編でやっているような、ある種の希望までたどり着きたいと感じました」と話してくれました。

カンヌ映画祭で海外のメディアからの反応を振り返り、濱口監督は「村上春樹ファンの人たちの期待にも応えられたのではないかという手ごたえがありました」と話し、原作ファンに対して「別の形に翻案されたものを観て原作を読み直す。作品とかかわる時間を増やすと、作品と強いつながりが生まれるかもしれません」と原作ファンにも映画を観てほしいと語りました。

劇中の演劇祭の場所が広島になった理由として「2020年3月に撮り始めて、8か月くらい中断して再開しました。コロナ禍の影響はかなり受けました。広島で撮影している部分は、元々は韓国の釜山で撮影予定でした」と教えてくれました。広島のロケーションに物語が求めているものがあったと話し「広島は自然も街並みも美しいのですが、その背景には原爆による破壊の歴史があって、平和都市を作るという理念による美しさだと思います。そのことはどこか、この物語とも通じるものがあると思いました」と当初の予定ではなかったものの広島で撮影を行ったことについて「広島の名前を入れることには覚悟がいりました」と答えました。

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作品概要

映画『ドライブ・マイ・カー』

8月20日(金)より伏見ミリオン座ほか公開中

出演:西島秀俊 三浦透子 霧島れいか/岡田将生

監督:濱口竜介

原作:村上春樹「ドライブ・マイ・カー」 (短編小説集「女のいない男たち」所収/文春文庫刊

配給:ビターズ・エンド

(C)2021 『ドライブ・マイ・カー』製作委員会


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