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2024-10-14

磯村勇斗さん、福山翔大さん、内山拓也監督が映画『若き見知らぬ者たち』名古屋公開記念舞台挨拶に登壇


 

10月11日(金)から公開中の映画『若き見知らぬ者たち』は、亡き父の借金返済や難病の母の介護に追われる家族の問題と自身の人生とのはざまで葛藤する兄と、総合格闘技の練習に明け暮れる弟が、小さな幸せをつかもうと必死に生きる様子と、彼らを取り巻く厳しい状況が描かれた群像劇です。4年前に長編映画デビューを果たし『佐々木、イン、マイマイン』で話題となった内山拓也監督が多層的な人間ドラマを作りあげ、心身ともにギリギリの生活をしながらも恋人(岸井ゆきのさん)との幸せな未来を夢見る主人公を磯村勇斗さんが体現。その弟を福山翔大さんが好演しています。共演は染谷将太さん、霧島れいかさん、滝藤賢一さん、豊原功輔さんなど骨太で確かな演技力を持つ面々が集結しています。

名古屋駅前のミッドランドスクエアシネマで行われた舞台挨拶に主演の磯村勇斗さん、弟役の福山翔大さん、内山拓也監督が登壇し、名古屋について、お互いの好きなシーン、制作秘話などを話しました。(取材日:2024年10月13日)

磯村勇斗さん「サウナ」、福山翔大さん「熱田神宮」、内山拓也監督「日本酒」それぞれの名古屋・愛知エピソード

映画『若き見知らぬ者たち』は前作の映画『佐々木、イン、マイマイン』(2020年)で高評価を得た内山拓也監督が日本、フランス、韓国、香港合作で手がけた商業長編デビュー作です。本作の原案・脚本も内山監督が手がけました。将来に希望が持てない閉塞感の中で人生に絶望することもできず、家族から逃れることもできない青年(磯村勇斗さん)が、背負ったものの重さと虚しさに飲み込まれながら必死にもがき生きる姿に加え、すぐ隣で起こっているかもしれない社会問題に対して多様な視点で見られるように紡がれたストーリーで、鑑賞後に誰かと話したくなるような作品です。

映画『若き見知らぬ者たち』上映後のミッドランドスクエアシネマ、鳴り響く大拍手に包まれて主演の磯村勇斗さん、弟役の福山翔大さん、内山拓也監督が公開記念舞台挨拶に登壇しました。名古屋や愛知について、内山監督は「4年前に『佐々木、イン、マイマイン』で名古屋に来ています。今年、『若き見知らぬ者たち』劇中で重要なアイテムにしている日本酒…敷嶋の半歩目というのですが、そちらの蔵が愛知(半田市)にありそちらに訪れてお話を伺い、自分も想いをお話ししました」と述べました。

磯村さんは「『最後まで行く』の撮影で訪れて以来です。名古屋はいいサウナが多いです」とドラマ『サ道』(2019年)の出演を機にサウナー俳優と自他ともに認める磯村さんの一面を見せてくれました。客席が笑い声で溢れる中「プライベートでもサウナに入りに来たりとか、『最後まで行く』の撮影の時も(綾野)剛さんとよく行っていました」と語りました。福山さんは「数年ぶりに名古屋にお邪魔しました。神社巡りが好きなので熱田神宮には定期的に来ています」と名古屋と浅からぬ縁をアピールしました。3人とも仕事だけでなく、趣味でも愛知・名古屋には来ていることがわかりました。

磯村さん&内山監督「世界観と作家性に惚れた」「心の窓である目がとても印象的」相思相愛初タッグ

映画の制作について内山監督は「8年前から温めていた企画です。やっと時代と脚本が寄り添ったというか、お互いが求めあったような感じです」と感慨深げに話しました。磯村さんは主人公の彩人役を引き受けたポイントについて「まずは脚本ですよね。内山監督の描く世界観と作家性に惚れました」と話し、演じる彩人の置かれている環境や必死に生きる状態に対して「彩人の目というフィルターを通して表現したいと強く思いました」と述べました。磯村さんは内山監督と一緒に作品作りをしたいと願っていたそうです。そんな磯村さんを主演に迎えた理由を尋ねると内山監督は「心の窓である目がとても印象的で、その視覚を借りたいと思ったと同時に、大きな背中から感じる小さな寂しさ…歩いてきた足跡が素敵だなあと思って、その背中を僕も見ていきたいとオファーしました」と詩的な表現で表しました。

彩人を演じるうえで大事にしてきたことを磯村さんは「生き続ける、じゃないですかね。家族の介護、弟の面倒、自分で働いて稼がなければならないという…あの状態ですと苦しいはずです」と話し、ヤングケアラーの方々から取材したときに逃げたくなった人、死んでしまいたいと思っている人がいると知ったと語りました。そのうえで「彩人は、絶望的な気持ちになったことがあっても生き続ける、生かされているというところを大事にしたいと思いました」と、その気持ちの底に弟への思いがあると言葉を選びながらまとめました。

1年かけて鍛え上げた肉体と精神で挑んだ総合格闘家役の福山翔大さんに注目

主人公の弟で総合格闘家の壮平を演じた福山さんは「約8年前、監督と出会ったその日に、お互いが何者であるのかを確認しあう証明書のような形で『若き見知らぬ者たち』という物語を頂いて、ようやくこの時が来たという感じです」としみじみと述べました。8年間も内山監督の姿を見て、自分の姿も見られてきたからこそ「全力で臨みたい」と熱い気持ちで壮平役を引き受けたと明かしました。内山監督は「出会ったのが仲間のKing Gnuていうバンドの事務所で、偶然、初めましてって出会って、僕は名刺も持ってなくて、名刺代わりに”台本を読んでみてっ”て渡したところから関係を築き上げてきました」と福山さんとの固い絆を語りました。

総合格闘技選手を演じるにあたり、福山さんは「クランクインの1年前からゼロからのスタートで、格闘家と同じ生活リズムでトレーニングしました。格闘技のスキルはもちろんですが、何故戦うのか、どんな気持ちでリングに上がるのか、家庭において壮平とは何なのかを見つめていく1年間だったと思います」と振り返り、「アスリート的なものではなく自分の内面と向き合う、苦しくも幸せな時間だった」と吐露しました。舞台挨拶ではキラキラとした目で客席を見つめる福山さんですが、劇中では獣のような眼のファイターとしてリングで戦います。手に汗握る試合シーンにご期待下さい。

自分が登場していないが気に入っている場面について質問されると、磯村さんは脚本に書かれていない兄弟間の空白の部分を作れたと自信をみせ「弟が兄の背負っている影を感じている眼差しだとか、弟が兄の影を感じながら最後の試合に向かっていくところは…実際に試合会場シーンを見に行ったので本当に感動して泣いていました」と話しました。

福山さんは、たくさんあるシーンのどれにするか悩む様子をみせ、「映画では、彼らは何歳?20代の…」とつぶやくと「27歳」と磯村さんがフォローし、内山監督が「それは壮平の年齢、2歳違いの兄弟だから彩人は29歳」と3人でのフランクなやりとりが見られました。気を取り直して福山さんが「劇中では兄が29歳ですが、何年も前からずっと過酷な状態で二人は過ごしていて、兄が『俺が何とかするから、お前は夢に向かって歩め』と言い続けて、つらい顔を見せない。そんな中で、あるシーンで兄が佇む姿…試写で見たときにむせび泣いてしまいました」と胸がいっぱいの様子で語りました。

「僕自身がヤングケアラーだった」「余白をたくさん作っている映画だから一つ一つ咀嚼して頂けたら」

現場ではテストなしの撮影だったとのことで、内山監督は「いい緊張感の中、撮れました」と話し、「前作の『佐々木、イン、マイマイン』は8か月くらいリハーサルなどを重ねたのですが、今回は俳優さんから出て来る感情をつかもうと、本読みやリハをしない形にしました。スタッフは全て役者から受け取らないといけないので、何があってもスタッフが対応するっていう入念な準備をしたうえで役者さんに委ねながら、感情は寄り添いながら作っていくという感じでした」と前作との違いを明かしました。

内山監督は「僕自身がヤングケアラーだったことと、実際に友人が経験した、実際に起こった事件をもとにその二つを軸にして向き合い続けた時間でした。なぜそういう描き方だったのか、なぜそう描かなかったのかという要素は点だと思っています。その点と点が結ばれた線がこの世の中は見えづらくなっていて、時に隠されてもしていて、宿っている事実は簡単に変化したり変化させられたりしてしまう。真実は1つじゃなくて、受け取る側の数だけあると僕は思います。その余白を作ろうと、その余白を埋めてもらうために映画館から出たあとの補助線になりたいと思って臨みました。たった一人のために、僕自身がそういう一人だったんですが、その一人のために脚本を書きました。しかし、”たった一人”は実はたくさんいるので、そんな人たちに現実の世界に戻ったら力を貸してあげてください」と熱いメッセージを送りました。福山さんは「大切な人を抱きしめて頂きたいです。そして壮平の言葉を借りるとすれば『自分の居場所は必ずある』ということです」と声に力を込めました。

最後に磯村さんは「映画とか世の中のニュースの捉え方など、何か隠されて楽な方へ導かれているような気がするんです。抽象的な言い方ですが、ヤングケアラーの問題や事件のことなどが薄めて伝えられて、事実としてしっかり届いていない気がします。自分たちの考えを言えない、声を上げることすらできないことが増えているし、それを見て見ぬふりをしている人がたくさんいる世の中に僕は怖さを感じています」と現在の社会について私見を述べた上で、「まずは受け取って考える時間を持ってほしいなと思います。余白をたくさん作っている映画なので、みなさんの中で一つ一つ咀嚼して頂けたら映画を作った意義があると思います。今日は本当にありがとうございました」と映画『若き見知らぬ者たち』への強い思いを乗せて挨拶しました。舞台挨拶の最後には、観客の皆さんのためのフォトセッションの時間が設けられ、たくさんのシャッター音が会場を満たしていました。

作品概要

映画『若き見知らぬ者たち』

公開日:2024年10月11日(金)

監督・脚本:内山拓也

出演:磯村勇斗、岸井ゆきの、福山翔大、染谷将太、伊島空、長井短、東龍之介、松田航輝、尾上寛之、カトウシンスケ、ファビオ・ハラダ、大鷹明良、滝藤賢一、豊原功補、霧島れいか

原案:内山拓也

©2024 The Young Strangers Film Partners


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