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2024-02-09

吉高由里子さんが100年前に自由を求めて闘った伊藤野枝を熱演!『風よ あらしよ 劇場版』演出の柳川強さんにインタビュー


 

2月9日から全国で公開される映画『風よ あらしよ 劇場版』は、大正時代に結婚制度や社会道徳に真正面から異議を申し立てた女性解放運動家・伊藤野枝の生涯を描いた作品。伊藤野枝を吉高由里子さん、平塚らいてうを松下奈緒さん、第二の夫・辻潤を稲垣吾郎さん、同志であり夫ともなる大杉栄を永山瑛太さんが演じます。村山由佳さんによる同名の評伝小説が原作。演出したのは2014年に連続テレビ小説『花子とアン』を手がけた柳川強さんです。2022年にNHK BSP・8Kで放送された特集ドラマが再編集され、新しく劇場版として上映します。柳川さんに吉高さんの魅力、キャスティング、名古屋で暮らした時のできごと、これから観る方へのメッセージなどを聞きました。(取材日:2024年1月23日)

吉高由里子さんが演じる伊藤野枝とは?演出の柳川強さん「原作と時代の機運の高まりで撮れた作品」

『風よ あらしよ 劇場版』の物語は、福岡の片田舎の貧しい家で育った伊藤野枝が家族を支えるための結婚から逃れ、単身上京。雑誌『青鞜』にあった平塚らいてうの「元始、女性は太陽だった」という言葉に感銘を受け、らいてうが主宰する青鞜社に参加し、いつしか中心となり婦人解放を唱えていく模様と、辻潤との別れ、生涯をともにする無政府主義者・大杉栄との出会い、そして関東大震災による混乱のなかで襲われた悲劇など、波乱に満ちた人生を描いていきます。

この物語について、演出の柳川さんは「大正時代に自由を求めて闘った人たち…伊藤野枝などにもともと興味がありました。ただ、企画を出しても時代劇だから予算がかかるとか、最期の悲劇などがエンターテイメントとしては不向きだとかの理由で、今までは企画が前へ進むことがありませんでした。」とまず述べました。では何故具体化したのか?と聞くと「原作の出現と時代の機運です」ときっぱり。具体的には「直木賞作家の村山由佳さんが、今までの恋愛小説とは違う評伝小説で伊藤野枝の人生を600ページ超の大作としてお書きになり、吉川英治文学賞も受賞されました(2021年)。又、その頃、日本に限らず世界の女性たちが例えば#Me Too運動などで声を上げ始め、野枝がいた時代と微妙に空気感が重なってきて、この企画をやるべきだという機運が自然と高まってきて、企画がGOになった感じがあります」と語りました。

伊藤野枝は、平塚らいてう達と共に雑誌「青鞜」の編集に携わり、女性解放運動に奔走した女性です。波乱万丈の28年を生きた伊藤野枝のイメージについて聞くと、柳川さんは「男尊女卑の風潮がはなはだしい大正時代の雰囲気に負けず、女性の権利をきっぱりと主張する強い女で、又、自由奔放に生きた人という漠然としたイメージを持っていました。でも村山さんの小説を読んで、“人々がお互いに助け合う世の中の良さ”を説くような、自己主張だけじゃない今の社会につながる現代的なメッセージを28歳の若さでちゃんと出していた人なんだな、とイメージが変わりました」と語りました。

吉高由里子さんと10年ぶりのタッグ 演出の柳川強さん「表現や存在感がすごく太くなった」と絶賛

伊藤野枝は行動力・情熱が著しい女性で素晴らしいけれど、“わがまま”にもみえる…同性から見ても少し疎まれる要素を持つ印象があります。そんな伊藤野枝を描くにあたり、吉高由里子さんを主演に迎えた理由を聞くと、柳川さんは「いろいろ調べてみて野枝は“人たらし”な面があると感じました。人との間に自然とスッと入っていけるような人物の気がして、僕が知っている範疇で言うと吉高さんしかいませんでした」と笑顔を見せました。


連続テレビ小説『花子とアン』でタッグを組んでいた吉高さんについて、柳川さんは「10年ぶりにご一緒してみて、表現や存在感がすごく太くなったという印象です。本人に伝えたら、”え~、体が太いって言ってるの?”って」と吉高さんのマネを加えながら二人のやり取りを紹介し、「『花子とアン』で、子どもを亡くした時の全身からの慟哭のお芝居に「この人はなんて凄いんだ・・」と思ってはいたんですけど、その時以上に存在とか表現が太くなりました」と絶賛しました。そして「もう、吉高ちゃんと呼べないです。吉高さんですね」とお茶目な口調で述べました。

吉高由里子さんに「可愛すぎてNG」!?一番のポイントである演説シーンに注目

吉高さんに演出した中で気を付けたことを伺うと「可愛すぎてNG」という意外な答えがポロリ。柳川さんは「吉高さんは当然ですが・・脚本を読み込んでいるし、細かく言わなくてもいいんです。でも、野枝はちょっと嫌われる存在…強い存在なので、可愛い女性に見られると少しキャラクターから外れてしまいます。だから可愛い面が出たら“可愛くしないで”と吉高さんに伝えました。吉高さんは”うん、分かった”みたいな感じで応えてくれました」と撮影風景が目に浮かぶようなエピソードを明かしました。少女性と成熟した女性の両面を持つ吉高さんの魅力をスクリーンで楽しんでください。

柳川さんは本作前半のポイントと語る野枝の演説シーンについて「吉高さんも演説シーンを一番のポイントだと思っていました。実際に野枝が書いた文章“新しき女の道”という論文に則った内容にしています。文語調だったので話し言葉に変えました」と言いました。そして「現場で吉高さんは本当に声を張り上げてテンション高く演じていて、何度もできない…ほとんど1回しかやらなかったんじゃないかな・・。あのシーンは作り手として緊張感を伴ったシーンで、瞬発力が半端ない」と集中して作りあげたシーンに自信を見せました。「少女だった野枝がいつの間にか論客の野枝として成長していたと分かり、野枝に関わる男性たちの立ち位置が変わるというのも面白いよね」と含みを持たせました。

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野枝をめぐる多彩な人間模様 夫役の稲垣吾郎さん、永山瑛太さんなどキャスティングの決め手は?

伊藤野枝は親が決めた最初の男性を含め、夫が3人います。2人目の夫は、稲垣吾郎さんが演じる野枝の女学校時代の教師でダダイストの辻潤です。柳川さんは「辻は自分1人が自由になることを希求していて、“内なる革命”から社会が変わらないか、と考えている人です。著作が売れないから金も入れず、家事も子育てもしない…まあダメだけど、その姿勢はぶれずに個人主義を突き詰めて最期は孤独死。当時の詩人の萩原朔太郎は”辻潤の生き方は、一つの芸術だ”と言ったらしいのですが、僕から見たらカッコいい男です」と評しました。そして「辻は女性からするとダメな部分がありますが、吾郎さんが演じると品があるし、何か許せてしまう雰囲気がありますよね」とキャスティングした決め手を語りました。

3人目の夫は永山瑛太さんが演じる無政府主義者の大杉栄です。自由恋愛を謳い、正妻の堀保子(山田真歩さん)、愛人の神近市子(美波さん)、野枝の四角関係から神近市子に刺されるというスキャンダラスな男性でもあります。柳川さんは「瑛太さんのやんちゃなイメージと、大杉栄は「眼の男」と評されるほど目が大きいのですがそこもピッタリでした。大杉は”外への革命”をする人で動的にアクティブな人。上品さとやんちゃな面を永山さんが上手く表現されていました」と話しました。撮影中のエピソードとして柳川さんは「辻も大杉も目指すところはそんなに変わりません。でも助監督に女性が複数いたのですが、演者で選んだわけでなく考え方においての辻ファンが多かったんですよ」と教えてくれました。辻派、大杉派のどちらかという視点で鑑賞する楽しみ方がありそうです。

柳川さんは「平塚らいてうは、たいていの教科書に出てきて有名です。男尊女卑の時代に、“元始、女性は太陽であった”と、女性の権利を高らかに主張する人なので、輝いている人でないと成立しない。その時ふと浮かんだのが松下奈緒さんでした」と明かしました。「野枝は福岡の貧しい家の出身で、らいてうは上流階級の娘さんで、野枝が憧れたらいてうさんは当時のスターに見えるように」と吉高さんと松下さんの身長差も意識したと述べました。演出面の工夫を伺うと「調べてみると、らいてうは出版のお金は親が出しているし、割と内向的な人で野枝よりも頼りなさがあると感じました。だから奈緒さんにはその点をお伝えして意識して演じてもらいました」と語りました。

本作『風よ あらしよ 劇場版』には、現在放送中のNHKの大河ドラマ 『光る君へ』(主演:吉高由里子さん)で藤原道兼役で話題の玉置玲央さんが出演しています。大河ドラマ第1回放送後に「サイコパス道兼」などの反響を呼んだ戦慄の表情が印象的な玉置さん。本作では野枝と大杉(と子どもたち)を支える村木源次郎をどのように演じているのか期待が膨らみます。柳川さんは「彼は村木のような役は、難しかったんじゃないかな。でも、今の大河ドラマで演じているキャラとは全く違うのでお楽しみに」と微笑みました。

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「4年間名古屋にいました」と柳川さん「100年前も今もそんなに変わっていない」と作品への思いを述べる

以前NHK名古屋放送局で働いていた柳川強さん。当時の思い出を「2006年から4年間名古屋にいました。鶴舞に住んでいて、自転車で行き帰りしていました。ちょっと息抜きに名演小劇場にいったりしてね」と振り返りました。そして「去年も名古屋に来たのですが車で通ると色んなものがなくなっていますね…名演小劇場とか丸栄とか。逆に中日ビルが大きなビルとして再開すると聞きました。栄も変わりますね」と述べました。

これから鑑賞する名古屋圏の人に向けて柳川さんは「伊藤野枝を全く知らなかった人にご覧頂いて、まずは、100年前にも今と同じように声を上げていた女性がいたと知ってもらえるといいなと思います」と話しました。また、「でも、僕の感覚で言うと、100年前も今もそんなに変わっていないんじゃないかな。当時は女性に選挙権がなく、今は選挙権があるから進んでいるとも言えるけれど、“うちの嫁さん”と言う人が未だにいます。別に、女の人は「家」に嫁いだわけじゃないですよね。でも、そういう言葉が出てくるのは、やはりどこかでまだ100年前と感覚が変わってない部分があるのかな、と。女性の立場が変わらないのは、男性の意識が変化していないからだと思います。女性に限らず社会的に虐げられている人は今もやっぱりいるし、そういう人に勇気をふり絞って声を上げていいんだと、そして声を挙げる側には心の痛みがあるんだと、又、それを受け取る方も変わる必要があるのでは、と、この作品を通して伝えたいと思います」と力強く語り、一呼吸して「今の時代はSNSで声を挙げると叩かれるじゃないですか、当時のSNSは何かと考えたら雑誌や新聞だと思うんです。だから新聞や、雑誌で野枝が非難されたり叩かれるシーンは多めに出すように意識しました。昔も今のSNS社会も、本質は変わっていないということですね」と100年前の問題ではなく、改めて“自分ごと”として考えて欲しいという願いを込めて締めくくりました。

風の音が印象的な映画『風よ あらしよ 劇場版』、是非スクリーンでご覧ください。あなたに、どんな風が吹くのでしょうか。

作品概要

映画『風よ あらしよ 劇場版』

2024年2月9日よりミッドランドスクエア シネマほかで公開

原作:村山由佳

脚本:矢島弘一

音楽:梶浦由記 (エンディングテーマ『風よ、吹け』FictionJuncton feat.KOKIA)

出演:吉高由里子、永山瑛太、松下奈緒、美波、玉置玲央
朝加真由美、山下容莉枝、山田真歩、栗田桃子、
音尾琢真、石橋蓮司、稲垣吾郎ほか

製作総括:岡本幸江

演出:柳川強

2023年製作/127分/G/日本

製作・配給:太秦

©風よ あらしよ 2024 ©村山由佳/集英社


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