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2023-12-09

撮影の合間に散歩や昼寝も!?映画『市子』杉咲花さんと戸田彬弘監督にインタビュー


 

12月8日(金)より公開となる映画『市子』は杉咲花さんが主演をつとめ、過酷な宿命を背負ったひとりの女性の切なくも壮絶な人生を描く衝撃作です。恋人からプロポーズされた翌日に忽然と姿を消した市子。彼女の行方を追って、これまで彼女と関わりのあった人物たちを訪ねていくと、知られざる彼女の過去が徐々に明らかになっていく物語。監督をつとめた戸田彬弘さんが主宰する劇団「チーズtheater」の旗揚げ公演、舞台「川辺市子のために」が原作となっています。名古屋の伏見ミリオン座で先行上映会が行われ、舞台挨拶の前に杉咲花さんと戸田彬弘監督がインタビューに応じました。戸田監督が脚本とは別にスタッフやキャストに渡したサブテキストについて、杉咲さんは「初めての体験」だったと話し、これまでにはしなかったある行動をしたことなどを明かしました。(取材日:2023年12月4日)

「第三者の視点でしか市子のことを描けないルール」から生まれた「サブテキスト」

映画『市子』は監督の戸田彬弘さんが主宰する劇団「チーズtheater」旗揚げ公演の舞台「川辺市子のために」(2015年初演)が原作で、杉咲花さんが主演をつとめています。若葉竜也さん演じる恋人・長谷川からプロポーズを受けた翌日に忽然と姿を消した市子。市子の行方を追う長谷川が、市子と同じ団地で育った幼なじみや市子に好意を寄せていた高校時代の同級生、新聞配達をしながら同じ下宿で生活していたかつての同僚など、これまで彼女と関わりのあった人々から証言を得ていくうちに、彼女の知られざる過去が徐々に明らかになっていきます。

脚本を読んで「絶対にやりたい」と強く思ったという杉咲さんは「市子という人がどんなことに幸福を感じるのかを知りたかったというのが突き動かされた理由です」と答えました。舞台「川辺市子のために」は観客から熱い支持を受け2度再演された人気の舞台で、市子と関わった人々が一堂に集まって、市子について喋る証言をもとに演劇が具現化されていくスタイルです。映画では市子に関わった人々の証言が章立てになっていることについて戸田監督は「市子という人間が他者からの目線で立体的に見えてくるようにするために、第三者の中にいる市子、それぞれのキャラクターの主観でみた市子を描いていきました」と話し「原作の舞台と似たような雰囲気の作品になったと思います」と話しました。

戸田監督は脚本の他にキャストやスタッフに渡すためのサブテキストを作成していて「市子に関わった第三者の視点でしか、市子のことを描けないルールのもとで脚本を書いているので、登場人物が目撃したものしか台本上のシーンで書けなかったんです」と話し「通常の映画だと描くであろう重要なエピソードがたくさんあるけど、今回の台本のルールの中では撮影することができず、その代わりに役作りや理解の助けのためにサブテキストとして撮る予定ではない台本も書きました。気が付いたら結構な分量になっていました」と話しました。サブテキストについて杉咲さんは「初めての体験でした」と答え「本編の中で描かれている断片的な部分の背景にどんなことがあったのか、手触りをもって伝わってくるものでした。サブテキストがあったからこそ、撮影の時に対峙した相手に自然と反応できるものがあって、とても参考になりました」と話しました。

「俳優として味わったことのない時間を経験させてもらいました」

杉咲さんは高校生時代から28歳までの市子を演じていて、撮影の順番について聞くと「完全な順撮りではなかったのですが、高校時代から始まって現代でクランクアップをしました」と答えました。戸田監督はできるだけ時系列に沿って撮影できるようにスタッフに依頼したそうで「子役は先にほぼ撮り終えて、杉咲さんは高校生の時から撮りました」と話し、ハードなシーンが多い高校生時代からの撮影だったと明かしました。

撮影について杉咲さんは「順を追っての撮影だと、市子が過ごした時間を自分の中で実感を持ちながら現代に向かっていけるのでありがたかったです」と振り返りました。自身の撮影が始まる前の子役の撮影も現場でみていたという杉咲さんは「市子の過ごしてきた時間を自分の目に焼き付けておきたい気持ちがありました」と話しました。また「自分の想像だけで市子の心境にたどり着くことはできるのだろうかという緊張感がありました」と話し、撮影に入る前に自ら取り組んだこととして「何か満たされていない感覚を自分の中に味わうことが必要な気がして、減量をしました」と教えてくれました。またロケハンにも同行したそうで「現場が始まる前から市子がどんな場所で生活してきたのかを見させてもらえたことはありがたい時間でした」と答えました。

杉咲さんは「市子を演じていて、俳優として味わったことのない時間を経験させてもらいました」と話し「自分が想像していたところからはみ出して、どうなってしまうかわからない、目の前で起きていることに反応してしまう瞬間がありました」と撮影中に感じたことを語りました。そして、俳優としてより良いお芝居や表現に対する欲があると話し「その欲を演じている時は削ぎ落していきたいのに、俯瞰してみてしまう自分がいることに悩まされている」と吐露し「(市子を演じている時に)そういうものからほんの一瞬だけ解放された時間があって、それだけの力のある作品だったことを実感しています」と作品によって経験できたことを教えてくれました。さらに、市子の感情がわからなくなる瞬間もあり、役に入り込むことの難しさも痛感したとも明かし「演じるという行為は他者と一個人として関わることに近い気がして、想像して想像して限りなくその人に接近していくしかないということなのだと学びになった時間でした」と実感を込めて語りました。

撮影の合間に昼寝や散歩 普段はしない勝手な行動を敢えてした理由は?

戸田監督に撮影中の杉咲さんの様子を聞くと「自然体でずっと現場にいた印象があります。空き時間にフラッと団地を散歩して、一人でいなくなったりしました」と話し「お芝居モードに入るのではなく、心で市子を受け止めてロケ地の中に存在しようとしている印象を受けました」と自然体でいられることが杉咲さんの良さだと感じたことを教えてくれました。

杉咲さんは「普段の自分からすると、周りが把握できないような行動は避けたいタイプなのですが」と言及し「でも『市子』の現場では、本人が何をしだすかわからないという感覚でスタッフさんに捉えてもらうことの必要性を感じたりもして。勝手な行動をしてみたんです」と答えました。また「撮影の合間に長谷川と暮らしているアパートで昼寝をした日もありました」と話し「皆さんが帰ってきて、マネージャーさんにここが次の現場になると叩き起こされて(笑)起きたら監督や助監督さんに見降ろされていて恥ずかしかったです」とハニカミながら話す杉咲さんは「それを許してくださる、とても貴重な現場でした」と様々な新しい経験をしたことを教えてくれました。寝ている杉咲さんを見た戸田監督は「寝ていたことは、いいことだと思いました。長谷川の家は市子にとって一番の安住の地だったと思いますし」と振り返りました。

またノーメイクで撮影に臨んでいた杉咲さんは「私は、メイクをすることによって鎧をまとうような感覚にもなるのですが、市子に関しては足していくことで市子という人物がぼやけてしまうのではないかという思いがあって、徹底的に引いていくことを意識していました」とその理由を話しました。「ロケ地の団地や長谷川と暮らしているアパートなど、そこで実際に生活をしている人がいる場所をお借りしての撮影だったので、そこから匂い立つ空気によって自分の中で変化を感じることもありました」と現場に行ってから感じ取ることを大事にして撮影に臨んでいたことも教えてくれました。

劇中で流れる市子の鼻歌について戸田監督に聞くと「鼻歌を歌うのは決まっていたのですが、どの曲にするのかずっと探していてたどり着いた曲です」と答え「曲の中にある歌詞の強さとメロディのささやき易さ、辛い時に母親が口ずさむ曲なので前に進もうとする曲がいいなと思って決めました」と教えてくれました。また「撮影中に虹も出たんです」と曲と映像がマッチする瞬間もあることも明かしていて、歌詞を知っているとさらに映画を深く味わうことができるのではないかと思います。エンドロールの最後まで席を立たずにお楽しみください。

作品詳細

映画『市子』

12月8日(金)伏見ミリオン座ほか全国公開

出演:杉咲 花、若葉竜也、森永悠希、倉 悠貴、中田青渚、石川瑠華、大浦千佳、渡辺大知、宇野祥平、中村ゆり

監督:戸田彬弘

原作:戯曲「川辺市子のために」(戸田彬弘)

脚本:上村奈帆、戸田彬弘

音楽:茂野雅道

配給:ハピネットファントム・スタジオ

©2023 映画「市子」製作委員会


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