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2023-05-18

2023年7月末の閉館を発表した名古屋シネマテーク・代表の倉本徹さんに話を聞きました


 

名古屋市千種区今池で1982年にオープンしたミニシアター・名古屋シネマテークが2023年7月末をもって閉館することが発表されました。名古屋シネマテークは名古屋で最も歴史のあるミニシアターです。ドキュメンタリー、アートアニメーション、特集上映など洋画・邦画を問わずバラエティに富んだラインナップで、個性的で作家性の強い作品を多く上映しています。名古屋シネマテーク代表の倉本徹さんは5月14日付けでホームページに「名古屋シネマテークをご贔屓にしていただいた皆様へ」と題したコメントを掲載し、閉館を決意した経緯を明らかにしています。コメント掲載前に代表の倉本徹さんに話を聞きました。(取材日;2023年5月12日)

「閉館までのカウントダウン」「いつかは決めなければいけない」と閉館を決意

倉本さんは「名古屋シネマテーク閉館」という決断に至った経緯として「閉館までのカウントダウン」と題したグラフを示し、コロナ禍前から経営状況が芳しくなかったことを話してくれました。見せてもらったグラフは2017年8月から2023年5月までの「週間収益概算」を折れ線グラフで表していて、2019年頃から赤字の週が多かったことがわかりました。売上から家賃や光熱費、人件費などを差し引いた収支は週18万円前後の赤字が続いてたそうです。また預金から必要経費を差し引いた「余力額」の折れ線グラフも重ねて表示されていて、「余力予想」が2023年7月末に0になる見込みとなっているものでした。

倉本さんは「2020年3月には閉館を考えるべき危険水域に達していた」と語りました。その後、愛知県に緊急事態宣言が発令されたことにより、名古屋シネマテークは2020年4月中旬から約1ヶ月間の休館を余儀なくされましたが、「ミニシアター・エイド」や今池の古書店などが寄付を呼び掛けた「名古屋シネマテーク・エイド」による支援金、政府や行政からの支援などを運転資金に経営を続けてきました。しかしながら赤字が続くことで資金も徐々に減っていき、再び危険水域へと達してしまい「いつかは決めなければいけない」と閉館を決意したそうです。

また倉本さんは「やめるにあたってもお金がかかるんです」と閉館に際してコンクリートブロックで囲われた映写室を撤去して原状回復する必要があり、機材や資料などの処分にも費用がかかること、閉館後もすぐに物件から退去ができないことなど、必要となる経費があることを考えて「余力額」を算出していました。さらに倉本さんは「こういう仕事は銀行から借り入れたらお終いだ」と名古屋シネマテークの経営にあたり、銀行からの借り入れをせずに続けてきたことを話しました。自前の資金を投入したり、知人たちから資金を集め、多くのカンパによって運営が支えられてきた名古屋シネマテーク、多数の協力者への感謝の気持ちを口にしながら、倉本さんは「マイナスになるとお腹が痛い」「これ以上のカンパをお願いするのは・・・」と日々、心苦しさを感じていたそうです。

名古屋シネマテークでは2023年度の鑑賞会員を募集(入会費500円・年会費2000円・4月1日~翌年3月31日)していますが、倉本さんは「迷いもあったが何とか、もう少し続けられるのではないかと思っていました」と話し、5月10日付けで鑑賞会員に閉館と会費の返金について記載した書面を送付していることについて「読みが甘く、だらしないと思いました」と申し訳なさそうな表情を浮かべていました。

「地方のミニシアターにとっては厳しい状況がこれまで以上に続いていく」

名古屋シネマテークは1970年代初頭から会場を借りて上映活動を続けていたナゴヤシネアストという自主上映グループから発展し、固定した小屋を持とうと、倉本さんが代表をつとめる形で立ち上げました。開館3年目には閉館の危機がありましたが、1984年に上映した勅使河原宏監督によるガウディ建築を映したドキュメンタリー作品『アントニー・ガウディー』が大ヒットし、それまでの赤字を解消することができ、さらに斬新な上映企画を行えるようになりました。倉本さんは「ドイツ映画大回顧展」について、サイレントからトーキーまで150作品を超える作品をボランティアの協力も得て、字幕のスライドを活用した上映を行ったことを楽しかった思い出として話してくれました。また、1990年代に「渋谷系」と言われる作品が次々とヒットし、1998年に全国的にも大ヒットを記録した『ムトゥ 踊るマハラジャ』が名古屋シネマテークでも好評だったことを振り返りました。

大手が手をつけない作品を積極的に上映してきた名古屋シネマテークの座席数は40席。ヒットの見込みのある作品は配給会社がより座席数の多い映画館を優先するようになるため、上映したい作品を上映できなくなってしまうなどの苦労もあったそうです。倉本さんは常々、東京のミニシアターの上映作品や客入りをチェックするなどの分析もしていましたが、黒字にするのは大変だったことも話してくれました。2019年に逝去されたシネマテークの前支配人の平野勇治さんが1987年から支配人をつとめていましたが、2017年か2018年頃から平野さんが「やりたい作品がない」と話をしていたことや「もう辞めたい」という話が倉本さんと平野さんの間で出ていたことなどを明かしました。倉本さんは「地方のミニシアターにとっては厳しい状況がこれまで以上に続いていく」と今の気持ちを語り、名古屋の映画興行を取り巻く環境の変化によって「シネマテークはどうしても生き残れない」と感じていたことも話してくれました。

閉館にあたっての最後の企画として「原一男特集」として原監督の全作品を上映するほか、原監督による特別「CINEMA塾」を行う予定もあるそうです。さらに、ドキュメンタリー作家・小川紳介さんと土本典昭さんの作品の上映も計画していると話しました。

施設概要

名古屋シネマテーク(今池)

Address:名古屋市千種区今池1-6-13 今池スタービル2F

名古屋市千種区今池1-6-13

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