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2023-02-20

白血病を克服した少女と、そのドナーになった男の数奇な運命の物語 映画『いちばん逢いたいひと』丈監督にインタビュー


 

2月24日からミッドランドスクエアなどで、全国公開される映画『いちばん逢いたい人』は、急性骨髄性白血病の少女の闘病・成長を縦糸に、骨髄移植をしたドナーの男性の紆余曲折を横糸にして描かれたヒューマンドラマです。会うことが許されない患者とドナー…その二人の地平は重なることはあるのかどうか。“生きること”や“つながり”について考えたくなる作品です。

成長した主人公をAKB48のメンバーの倉野尾成美さんがフレッシュに演じ、三浦浩一さん、不破万作さん、田中真弓さん、崔哲浩さん、中村玉緒さん、高島礼子さんが脇を固めます。監督・脚本を担当するのは、テレビドラマ『HOTEL』などに出演し俳優としても活動している丈(旧名:小野寺丈)さんです。映画の公開を前に、丈監督が名古屋でインタビューに応えてくれました。10年越しの映画製作、キャスティング交渉、撮影秘話、次回作について笑顔いっぱいでお話ししてくれました。(取材日:2023年2月8日)

「一人のお母さんが製作した映画」いろんな巡り合わせが重なってできた

映画『いちばん逢いたいひと』は、生きていくなかで耐え難い苦しみや理不尽な運命に心が折れる瞬間を何度も感じながら「いちばん逢いたいひと」を生きるための原動力にして、前に進んでいく白血病の少女と、彼女を救ったドナーの男性の人生模様を描いた物語です。骨髄移植で命を救われた少女が知った「命の大切さ・人を想うことの尊さ・生きたくても生きられなかった人の気持ちの重さ」をぶつけるクライマックスシーンには涙を禁じえません。

そんなヒューマンドラマのメガホンを取ったのは俳優の丈さんです。本作『いちばん逢いたいひと』のプロデューサーの堀ともこさんについて「お嬢さんが白血病になり、ドナーのおかげで命を取り留めました。でもドナーが圧倒的に足りないという事実を知って、その事実を広げるために映画を作ろうと10数年前に芸能事務所を立ち上げるところから始めた人なんです」と堀プロデューサーの熱い想いを紹介。丈監督が俳優としてテレビドラマ『HOTEL』に出演していた時、堀さんがメイン監督の瀬川昌治さんのマネージャー的な活動をしていて知り合い、丈さんの演劇の舞台を毎回見に来るようになったことに触れ「僕の書く台詞が好きだったみたいなんです。映画を撮るなら丈さんだって決めていたらしいんですよ」と監督・脚本の大役を任された経緯を嬉しそうに話しました。

映画化への大きな動きがあったのは、2021年のコロナの真っ只中。丈監督の3週間の公演が延期になったときでした。丈監督は「SNSで“いま暇です”って書いたら、堀さんがそれを読んで“じゃあ、映画を撮りませんか”とそんな感じでした。最初の打ち合わせのときにストーリーもできて、すぐ台本に取り掛かりました」といろんな巡り合わせがうまく重なり、スピーディーに運ばれたと述べました。打ち合わせで白血病の患者と、そのドナーは会うことが禁じられ、手紙の数回のやり取りしかできない点を知って、そこにドラマ性を感じたことも加えて語りました。そして「一人のお母さんが、映画を製作したってことなんです。その覚悟を聞いて、僕も精一杯、携わらせていただきました」と述べる姿に、丈監督の真摯な人柄が表れていました。

備後弁のやさしい響きに癒される 広島は「ロケーションとして最高」

映画『いちばん逢いたいひと』の見所のひとつに、広島の町並みの美しさがあります。スクリーンいっぱいに映し出される山や海、備後弁の響きが魅力的です。丈監督は「以前、広島の福山で自主映画を1本撮影させていただいたときに、本作で出演している“とめぞう”さんが広島ご出身というご縁があって、バックアップしてくれたんです。昔、日活で製作の経験もある方でを現場でやられていた方で、すごくできる人。とめぞうさんの周りに居る方々も協力的だし映画を撮るなら次も広島でとりたいなと思っていました」とロケーションとして選んだ理由を話しました。また「本当にロケーションとして最高なんですよ!山も綺麗だし、海も日本的な美しさがあります。東京っぽいところも、府中市のような古都みたいな雰囲気を醸し出すところもあって絶好の場所です」と自信を見せました。

今作の出演者でもある丈監督は備後弁には苦労したようで「もう、そっくり暗記するしかなくて、必死ですよ。アドリブが言えないですからね」と苦笑いしつつ「癒される響きですよね、備後弁って」と述べました。名古屋弁のイントネーションに近い部分があって親近感を持つ方もいらっしゃるかもしれません。

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映画『いちばん逢いたいひと』の中で、丈監督がドナーの男性の旧友役として出演しています。丈監督は「実はドナーの柳井役をやりたかったんですが、堀プロデューサーに瞬殺されました」と笑いました。ドナーの柳井役は崔哲浩さんが演じ、東京でのブルジョワ的な暮らしから、人生に疲れきってボロボロになるまでの姿を熱演しています。丈監督は「崔くん、(柳井役に)ピッタリですからね。ナイスガイだし、何かアンダーグラウンドの香りがする貴重なキャラクターです」と初めて一緒に仕事をした崔さんを賞賛しました。

崔さんは劇中で“久しぶりに会う母”というリアリティを出すため、母親役の中村玉緒さんと現場以外では会わないようにしていたそうです。その役作りの行方について丈監督は「“私の相手役はどこ行ったん?”と始まって、メイク室まで玉緒さんが鼻歌歌いながら迎えに行っちゃったんですよ。それで崔くんは半開きの目でね…」と種明かし。「現場では“いちばん逢いたくないひと”に逢っちゃった訳です」とまとめました。マイペースな玉緒さんについて丈監督は「普段はああいう感じですが、カチンコがなった後の玉緒さんの役の入り方は凄いですよ。1番驚きましたし、感動しました。臭く見えそうなところも自然に見えるように演じてくれています」と舌を巻きました。

本作の母親役を考えたときすぐに玉緒さんの顔が浮かんだそうで「何度も共演している間柄です。直接電話して、すんなり決まったんですよ」と自ら交渉したことを明かしました。玉緒さんと同様に三浦浩一さんなどにも直接電話で出演をお願いし、高島礼子さんも共演経験もあり、同じマネージャーだという縁をつないでキャスティングが決まったそうです。これまでの丈監督の俳優・演出家の来歴や人徳でキャストが集結した素敵な座組みです。

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俳優と監督の目を持って映画製作「両方やっててちょうどいい」「熱量がスクリーンから伝われば僕は嬉しい」

映画『いちばん逢いたいひと』は白血病を患った少女が、骨髄バンクのドナーのおかげで命を食い止め、その後成長していく姿が描かれています。発病から過酷な闘病生活を送る時期を演じた田中千空さん、同じ病気で同室に入院している少年役の梅津陽くんが好演。彼らへの演出について丈監督は「結構、厳しかったと思います。この映画が成功するかしないかは君ら次第だと言って、あるシーンで5,6回テークを重ねました」と述べました。そして「自分も基本的には俳優なので、何が大切かというと、形やテクニックでなく、その人になれるかどうかその感情にリアルになれるかどうかだと思います」と演技に対する考えを示しました。演者のときは監督が何を求めているのか、また監督として演者をどう撮るのかの両面から考えるのが丈監督のやりかたのようです。「両方やっててちょうどいいんです。すごくバランスが取れているし俯瞰で見えます」と目を輝かせました。

成長した主人公の少女をAKB48の倉野尾成美さんが演じています。高校生のシーンでAKB48の楽曲の一部を友達と踊る姿はファンにはたまらない可憐さです。その倉野尾さんと、ドナー男性の柳井が感情をぶつけ合うクライマックスの場面は、長回しで撮影したそうです。その理由を「カット割りだと気持ちが止まっちゃうんですよね」と丈監督は俳優の目線で答え、「通して演じてもらって、その後で編集したほうが演者としては嬉しいだろうし、熱量がスクリーンから伝われば僕は嬉しいですね」と微笑みました。

作中で、過酷な治療やドナーが決まるまでの心身の辛さ・闘病する主人公を明るく見守る家族の心模様が描かれています。丈監督は「知らないでキャスティングしたのですが、主人公の父親役の大森ヒロシさんと、祖父役の不破万作さんのご親族に白血病の方がいらしたんですよ。不思議な力を感じましたね」と語り「家族は明るくなきゃいけないと思って。でも大森さんの実体験から明るくしようとするけれど、どこかでできないっていう思いが活かされていると感じました」と話しました。骨髄移植のドナーが見つかるかどうなのかということや、この時期の患者がどんな状態なのかをリアルに描いているのは堀プロデューサーの実体験であり、一番描きたいという希望があったからだそうです。同室に入院している片方の子にはドナーが見つかり、隣りのベッドの子にはドナーが見つからないというつらい現実を堀さんは目の辺りにしてきました。10数年の時を越えて「一人のお母さんが製作した映画」が封切られます。どうぞ、劇場でご覧ください。

改名して運が好転!「監督の夢が叶った」次回作も続々と!

次回作についてたずねると「2本、長編映画が決まっています。5月に新作を撮り始めます」と豪華キャストで戦時中の特殊病院が舞台だということを明かしました。丈監督は、好調の原因を「小野寺丈から苗字をとって丈と改名したんです。名前を変えてから良いことばかり!」と分析。「10代のころから占いで大器晩成だと聞いて信じたくなかったし、40くらいから占い当たってくれよ~と言う感じでした」と振り返りました。2021年に改名して運が好転し、2023年以降もいくつか企画が進んでいるそうです。

最後に丈監督は「子供のころからずっと監督が夢だったので、この年(57歳)になって映画監督でこんなに忙しくなるとは思わなくて、毎日楽しいです」と結びました。今後の活躍も楽しみですね!

作品概要

映画『いちばん逢いたいひと』

2月 24 日(金)より、ミッドランドスクエアシネマほか全国公開

出演:倉野尾成美(AKB48) 三浦浩一 不破万作 田中真弓 大森ヒロシ 丈 崔哲浩 田中千空 海津陽 細川学 夏井世以子 町本絵里 近藤玲音 中村玉緒(特別出演) 高島礼子

監督・脚本 丈

原案・エグゼクティブプロデューサー:近藤牧人

プロデューサー:堀ともこ

ラインプロデューサー:宇佐美博 とめぞう

撮影・編集:松岡寛

主題歌『青色の航海~君へ捧げる応援歌~』歌・作詞・作曲・編曲 山本雅也

協力: 広島県府中市 広島県府中市観光協会 広島県府中市教育委員会 国登録有形文化財恋しき

後援:中国新聞備後本社 公益財団法人日本骨髄バンク

配給:渋谷プロダクション

製作:TT Global 2022/ビスタ/5.1ch/DCP/ 106min

©TT Global

https://www.ichi-ai.com/


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