映画『ひかりのたび』名古屋での公開初日の舞台挨拶に主演の高川裕也さんと澤田サンダー監督が登壇
映画『ひかりのたび』が10月14日に名古屋での公開初日を迎えました。上映館の名古屋・今池のシネマテークでの舞台挨拶に主演の高川裕也さんと脚本もつとめた澤田サンダー監督が登壇しました。映画上映後のお二人による舞台挨拶の様子をレポートします。(取材日:2017年10月14日)
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映画『ひかりのたび』
映画『ひかりのたび』は、2003年に始まった群馬県の伊参(いさま)スタジオ映画祭シナリオ大賞で2015年に大賞を受賞した脚本を映画化した作品です。澤田監督にとって伊参スタジオ映画祭での受賞は2度目なのですが、『ひかりのたび』は初めての商業映画であり、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2017の長編コンペティション部門に正式招待されました。
ある地方の町が舞台で、不動産業者を営む男が買い上げた土地を外国人に売り渡していることで、地元の名士から疎まれています。不動産業者の男を父に持つ高校3年生の少女は、子どもの頃から父親の仕事のせいで転校ばかりで親への不満も募り、父親と心を通わせることができないでいます。暴力的ではないが不気味な雰囲気を醸し出す不動産ブローカーの仕事とは、地方に空き家を持つ人とその心の内、父と娘の関係はどうなっていくのか、全編モノクロで描かれた作品から不穏な空気を感じ、最後まで目が離せません。
スポンサーリンク笑いを交えた和やかな舞台挨拶
澤田サンダー監督は最初の挨拶で「名古屋でケーキの盛り合わせを頼んだら、山盛り出てきてお腹がいっぱいです。」と場を和ませました。三重県四日市出身の高川裕也さんは『ひかりのたび』の映画化の初期の段階から澤田監督と会っていて、「月一で飲み」という約束を取り付けていたそうです。その理由について「演劇の場合は一ヶ月くらい稽古をしてコミュニケーションが取れるが、映画の場合は一人で台本を勉強をして現場に行く。(この作品では)演劇的なアプローチができると思ったこと、もう一つは仕事で監督と飲まなきゃいけないというのは女房に言いやすくて、出かけやすい。」と裏話を披露してくれました。また澤田監督は「資料(『ソロモンの偽証』)でみた高川さんの役が子供を蹴ったり、怖いお父さんのイメージだったので、映画で裏がある感じが出ていた。」と高川さんの印象についても話していました。
受賞後、映画化に向けて脚本を改稿
映画化への経緯について澤田監督は「(伊参スタジオ映画祭で大賞を受賞すると)100万円と映画製作の協力支援をしてもらえる。撮影場所や宿泊場所を無償で提供してもらえる上に、地元のラインプロデューサーがつき、実際に映画を製作するところまでサポートしてもらえる。」と話していました。プロデューサーが1番初めに主人公に高川さんを提案されたそうで、実際にお会いしたところとてもイメージに合ったそうです。そして、元々の脚本では地方の外国人の不動産トラブルがメインだったのですが、内容が硬派すぎて(商業映画として)売りづらいことから娘を主人公にすることを提案されたそうです。娘のキャラクターは前半に少し出てくるだけで、高川さん演じる不動産ブローカーと取引を考えている訳ありの女性のほうが準主役的な位置付けだったことを教えてくれました。「(50分程度の中編だった脚本から90分程度にする作業の中で)当初は脚本を書きなおすことに疑問があったそうですが、娘(の存在)を通してローカルなところが描けるということに気付いてからは考えが変わって、話は変わってないけど、わかりやすくなったと思う。」と話していました。脚本の改稿作業をしていることを高川さんに言えずにいた澤田監督は、高川さんとの月一の飲みの席で、高川さんの家族事情を根掘り葉掘り聞いていたそうです。高川さんは「酔っ払ってて覚えてない。」と答えていましたが、澤田監督は「(高川さんの家族の話)が本編にも活かされている部分もある。」と振り返っていました。
スポンサーリンク不動産ブローカーという職業
高川さん演じる植田という不動産ブローカーには非暴力で地上げや立ち退きをする理論を作り本もたくさん書いている植田六男というモデルがいて、高川さんも植田六男の本を3冊ほど読まれたそうです。(具体的な書名はお話になっていませんでしたが、過去に澤田監督が不動産業界で話題になっていた植田六男の本として、以下を挙げていました。)
高川さんは「どうやって土地を有効活用していくか、若い不動産屋のための教科書のような本」と話し、不動産ブローカーという仕事について「自分が手を下さなくてもその筋の人を使って、ブルドーザやトラックで突っ込むようなイメージしかなかった」と言うと澤田監督は「映画に出てくる人ってそういうイメージしかない」「僕自身が2000年代前半のバブル崩壊後に不動産ブローカーをやっていて電車を待っているときに線路に落とされかけたことが何回かあり、人混みの中を回転しながら逃げたこともある。」と自身の経験を教えてくれました。澤田監督は「(地方と不動産ブローカーを描いた作品なので)町役場のコンペティションだったのですが、僕の(授賞式の)時は町長が上がってこなかった。」と話し、「不動産ブローカーや金融業の暴力のイメージがあまりにも流通しているのでそれを利用して、礼儀正しくて気持ち悪い男を作ってみたかった。(それには)高川さんのキャスティングがぴったり合った。」と話していました。
澤田監督のこだわりと好きなシーン
全編モノクロで制作された『ひかりのたび』について澤田監督は「モノクロにすることは賞を取った時から決めていた。緑と赤を絶対いれたくない。(モノクロにすることで)土地の値段がゼロに近くみえる。」と言いつつエンドロールとオープニングに一部カラーの部分があることを教えてくれました。「全てをモノクロにするとファンタジーな雰囲気になりそうで、避けたかった。」と話していました。
またお客さんからの質問で好きなシーンを問われた澤田監督は、植田と彼と不動産の取引を考えている訳あり女性の二人が夜に車の中で話しているシーンと答え「理解しあっているようで、話が食い違っている。不動産ブローカーと地元の人間はわかりあえない。だけど、家庭のことを話しているからいいムードになっている。騙されたまま終わっていく。」と話していました。高川さんは「バス停で主人公の娘とある女性、面識のない2人がすれ違うシーン」と答え、監督の演出を絶賛していました。澤田監督もこのシーンにはこだわりがあったようですが、実際の撮影では電信柱が光りすぎて、霧吹きで濡らして光を抑えながら撮影した苦労話も披露してくれました。
澤田サンダー監督と4年半ぶりの再会
実は澤田監督とは、私が東京で映画イベント司会などの仕事をしていた頃にお会いしたことがあり、今回、4年半ぶりの再会となりました。初めて澤田監督にお会いしたのは2012年に渋谷ヒカリエで夜通し行われた映画イベント「渋谷真夜中の映画祭 第零夜」でした。「渋谷真夜中の映画祭」は「渋谷のミニシアター文化を再興する」という願いをこめて、数名の有志で立ち上げたイベントです。映画祭の企画として新進気鋭の映像作家の作品を公募し、各作品について予告編の上映と監督のプレゼンテーションを行い、会場に集まった観客の投票でその夜に上映する1作品を選ぶという、参加された監督にはとても過酷な企画でした。結果的に観客の興味をそそるプレゼンをされた澤田監督の作品が選ばれ、明け方までかけて『惑星のささやき』を鑑賞したのを懐かしく思い出しました。『惑星のささやき』は澤田監督が初めて伊参スタジオ映画祭で大賞を受賞して映画化された作品でした。そして2013年4月に開業1周年を迎えた渋谷ヒカリエとのプロジェクトで、澤田監督を含む9名の映画監督に渋谷ヒカリエを舞台にした短編映画を制作してもらったオムニバス映画『ヒカリエイガ』を上映しました。『ヒカリエイガ』内の澤田監督の作品『私は知ってる、私は知らない』は短編作品として福井映画祭で審査員特別賞を受賞するなど、多くの映画祭で上映され、高く評価されていました。この日、名古屋で再会できたことをとても嬉しく思いました。
作品概要
『ひかりのたび』
監督:澤田サンダー
出演:志田彩良、高川裕也、瑛蓮、杉山ひこひこ、萩原利久、鳴神綾香、山田真歩、浜田晃
名古屋シネマテークで10月27日(金)まで上映
2017年10月14日(土)〜20日(金)16:15~
2017年10月21日(土)〜27日(金)20:30~
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