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2021-06-23

“自分らしく生きたい”トランスジェンダー女性のドキュメンタリー映画『息子のままで、女子になる』サリー楓さん、杉岡太樹監督に名古屋でインタビュー


 

6月26日(土)から3週間に渡って、名古屋シネマスコーレで公開される映画『息子のままで、女子になる』はパンテーンCM「#PrideHair」起用や講演活動など、トランスジェンダーの新しいアイコンとして注目されるサリー楓さんを追ったドキュメンタリー作品です。建築家としての夢、ビューティーコンテストへの挑戦、息子としての期待に応えられなかった葛藤、家族との対話を通して“自分らしく”今を生きようとする姿を描いています。本作は日本映画史上初のロサンゼルス・ダイバーシティフィルムフェスティバルにてドキュメンタリー賞を受賞。ニューヨークで映画製作を学び、三宅洋平さんの選挙活動を撮った映画『選挙フェス!』(15年)が話題になった、新進気鋭の監督・杉岡太樹さんが監督・脚本・撮影・編集・製作をつとめました。

映画の公開を前に、名古屋シネマスコーレにてサリー楓さん、杉岡太樹監督にインタビューをしました。映画を製作することになったきっかけ、杉岡監督が直面した楓さんの家族の葛藤、これからカミングアウトしようとする次の世代への楓さんの想いについて話しくれました。

「日常の一角にいるトランスジェンダーの私を見せたい」“はるな愛さんとの対話”

映画『息子のままで、女子になる』は、トランスジェンダーの新しいアイコンとして注目されているサリー楓さんを追ったドキュメンタリー作品です。子どもの頃から性別に違和感を感じていたという楓さんは2017年、慶應義塾大学大学院在学中に社会的な性別を変え、2018年の日本一美しいトランスジェンダーを決める『ミス​インターナショナルクイーン』日本大会に出場しました。本作はコンテストに向けて楓さんのレッスンを担当していたスティーブン・ヘインズさんが「(楓さんが)練習しているところを撮らないか」と提案したことから始まりました。ミス・インターナショナルの吉松育美さんやはるな愛さんなど、世界一の日本人女性を3名輩出したビューティ界のカリスマであるスティーブンさんの10年来の友人である杉岡太樹監督が撮影を担当することになり、楓さんは初対面の印象を「まったく面識のないサングラスの人が、カメラを持ってずっと私を撮っていて・・・」と笑顔で話しました。

『ミス​インターナショナルクイーン』は2009年にはるな愛さんが世界1位を獲得した大会で、楓さんは毎年注目していたと話しながら「出場者の大半が夜の世界の方で、学生や会社員が出場していない事実に引っかかりを感じてもいました。学生・就活生としてコンテストに出ることで、これからカミングアウトする人のロールモデルになれるのではないかと感じたんです」と目を輝かせました。さらに楓さんは「電車の中やオフィスなど、日常の一角にいるトランスジェンダーの私を見せたいという気持ちで挑みました」とコンテストに出場するきっかけを話してくれました。コンテストに向けて厳しいレッスンに励む姿や、コンテスト当日のメイク風景、素敵なドレス姿、コンテストでのパフォーマンス、カルーセル麻紀さんのコメントなど熱気溢れるバックヤードを覗き見ているような気分も楽しめます。

楓さんはコンテストに挑戦した当時の気持ちを振り返り「コンテストに向けて努力する中で、今度は女性らしさに囚われ始めていました。自分自身になるのではなく女性という虚像に近づこうとしていました」と葛藤を感じていたことを打ち明けてくれました。映画の中には楓さんにとって転機となる“はるな愛さんとの対話シーン”も収められています。楓さんが挑戦したコンテストで司会をつとめ、楓さんの様子を間近で見ていたはるなさんが感じたこと、楓さんに伝えたメッセージにぜひご注目ください。

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カミングアウトを“する側の気持ち”と‟される側の気持ち” 楓さんとお父さんの姿

ドキュメンタリー映画『息子のままで、女子になる』の冒頭シーンで楓さんは電話で親に「ドキュメンタリー映画に出てもらえないか?」と依頼します。杉岡監督は当初、楓さんのコンテストの結果が出るまでの道のりを映像化するだけのつもりでしたが「楓さんのキャラクターが見えてくる中で、家族の関係も撮りたいと思うようになりました。断られると思っていた楓さんのお父さんが意外にも出演してくれまして、真正面からカメラに自分自身をさらけ出してくれた時、中途半端なことは出来ないなと映画を作る覚悟を決めました」と映画製作のきっかけになった出来事を教えてくれました。

家族へのカミングアウトについて楓さんは「幼少期に姉の服を着て遊んでいたら父に叱られたことがありました。女子の格好や遊びをしてはいけないんだと感じて・・・やってはいけないことだと封印してきました」と複雑な想いがあったことを明かしました。本作ではカミングアウトを受けた家族の戸惑いや様子もつぶさに映し出されており、取材に応じるお父さんに向き合った杉岡監督は「“こうあるべきだ”だけでは解決できない問題です。どんどん多様性に向かう未来に向けて、どのようにコミュニケーションをとっていけるかと考えると、楓さんのお父さんがこの映画で果たしてくれた役割は、社会的に大きな影響があると思います」と語りました。

本作では楓さんが女性として生活していくために行った様々な努力、まだ性別適合手術を受けていない今の楓さんの肉体的な現状についても包み隠さず話してくれています。洋服や持ち物など、男性であった証拠を全て捨てたと話す中で、どうしても捨てることが出来なかったある思い出の品とその理由から、建築家になるという夢に対する楓さんの揺るがない気持ちが伝わってきます。「女性として生きること」「建築家になること」この2つを両立させようと前進する楓さんに、お父さんが贈ったあるプレゼントにぜひ注目してください。

LGBT当事者にとって、いつ誰にカミングアウトするかは非常に重要なことです。身近な人からカミングアウトをされた時、自分はどんな反応をして、どんなコミュニケーションをとるのかを考えるきっかけとなる作品です。楓さんとお父さんの姿にあなたは何を感じるでしょうか。

「次の世代のロールモデルになれれば」「多様性の結晶にほかならない」

映画『息子のままで、女子になる』ではサリー楓さんが、LGBTの理解を深めるための講演や、就職活動をしているトランスジェンダーの学生の支援活動をする様子も映し出されています。楓さんは女性として就職活動を行った経験者として「就職活動で自分の大切なことをカミングアウトするのは勇気がいることです。カミングアウトを受ける側はその勇気を評価して欲しい」と熱く語りました。また「学校でカミングアウトしている姿を次の世代につなげてあげたい、ロールモデルになれればいいな」「時代が変化しつつあるとはいえ、カミングアウトをしてマイナスに働くことがまだあると思います。私が”女性社員“として働き、社員名も女性となっていることで救われる方がいたら、カミングアウトの説得材料になれたらいいと思っています」と力強く述べました。

本作について楓さんは「当事者はもちろん、当事者の周りにいる人にも観ていただきたいです。皆さんがカミングアウトされる当事者になるかもしれない未来を、映画を観る全ての人たちに考えてもらえたらいいなと思っています」とアピールしました。スティーブンさん、楓さん、杉岡監督、各々の考えやバックグラウンドを持つ3人が中心となって製作した映画『息子のままで、女子になる』について、杉岡監督は「たくさんの衝突や苦境を乗り越えて、ついに公開を迎えることができるという事実こそが多様性の結晶にほかならないと自負しています」とコメントしました。自分らしく生きて行きたいという人の背中を優しく押してくれるのではないでしょうか?

6月26日からシネマスコーレで3週間上映 公開初日オンライン舞台挨拶

映画『息子のままで、女子になる』は6月16日から東京渋谷のユーロスペースで公開となりました。東京の次に公開されることになった名古屋シネマスコーレでは6月26日から3週間の上映が決定しています。週によって上映時間が異なりますので、ご注意ください。また名古屋での公開初日となる6月26日には上映後にサリー楓さん、スティーブン・ヘインズさん、杉岡太樹監督が登壇するオンライン舞台挨拶が予定されています。映画とあわせて直接、話を聞くことができるチャンスです。

上映スケジュール

6月26日(土)~7月2日(金) 10:10-12:05

7月3日(土)~7月9日(金) 10:50-12:40

7月10日(土)~7月16日(金) 19:05-20:55

初日オンライン舞台挨拶

日時:6月26日(土)10:10回上映後

登壇者:サリー楓さん、スティーブン・ヘインズさん、杉岡太樹監督

シネマスコーレ(名駅)


Address:名古屋市中村区椿町8-12 アートビル1階

名古屋市中村区椿町8-12

作品概要

映画『息子のままで、女子になる』

出演:サリー楓、Steven Haynes、西村宏堂、 JobRainbow、小林博人、西原さつき/はるな愛

監督・脚本・撮影・編集・製作:杉岡太樹

エグゼクティブプロデューサー:Steven Haynes

配給: Mirrorball works

106分/ 日本語・英語/ カラー

(C)「息子のままで、女子になる」

公式HP:www.youdecide.jp

ストーリー:
男性として生きることに違和感を持ち続けてきた楓は、就職を目前に、これから始まる長い社会生活を女性としてやっていこうと決心する。幼い頃から夢見ていた建築業界への就職も決まり、卒業までに残された数ヶ月のモラトリアム期間に、楓は女性としての実力を試そうとするかのように動き始めた。
ビューティーコンテストへの出場や講演活動などを通して、楓は少しずつ注目を集めるようになる。メディアに対しては、自身が活躍することでセクシャルマイノリティの可能性を押し広げたいと語る楓だが、その胸中には、父親の期待を受け止め切れなかった息子というセルフイメージが根強く残っていた。社会的な評価を手にしたい野心的なトランスジャンダー女性と、父親との関係に自信を取り戻したいとひそかに願う息子。この二つの間を揺れながら、楓はどんな未来をつくり上げていくのだろう。
これは、社会の常識という壁に挑みながら、自分だけの人生のあり方を模索する新しい女性の誕生ストーリーである。

 


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