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2022-12-08

「僕は、あなたを十六年四ヶ月、思い続けてきた…」東出昌大さんが三好達治を演じる映画『天上の花』片嶋一貴監督にインタビュー


 

12月9日(金)から伏見ミリオン座にて公開される映画『天上の花』は詩人:三好達治が戦争に翻弄されつつ、妻に対する一途な愛とその裏がえしの憎しみから思いもよらぬ結末を迎えるまでの人間模様が描かれた作品です。“日本近代詩の父”と言われる萩原朔太郎の娘・萩原葉子が綴った『天上の花―三好達治抄―』が原作で、東出昌大さんが演じた主人公は萩原朔太郎を唯一の師匠とした詩人の三好達治。ヒロインの萩原朔太郎の妹で三好の二番目の妻:慶子を入山法子さんが好演しています。また萩原朔太郎を吹越満さん、佐藤春夫を漫画家の浦沢直樹さん(『YAWARA!』『20世紀少年』)、北原鐵雄役に原作者を母に持つ萩原朔美さん、闇市の女を有森也実さんが出演し作品の世界観を膨らませています。

本作のメガホンをとった片嶋一貴監督にインタビューを行い、本作に対する想いや、東出昌大さんや入山法子さんの熱演ぶり、ロケ地についてなど語っていただきました。(取材日:2022年11月29日)

「全力投球って感じでしたね、二人とも」東出昌大さんと入山法子さんの迫真の演技に注目

映画『天上の花』は、抒情詩「雪」や「大阿蘇」で有名な詩人・三好達治とその妻・慶子の出会いから思いもよらぬ結末までを描いた愛憎劇です。師匠:萩原朔太郎の末妹への16年4ヶ月の愛を実らせ結婚し、越前三国で同居する中で刻々と変化していく三好達治の心模様が描かれています。

萩原朔太郎を唯一の師匠と仰ぎ、彼の妹を愛する三好達治を東出昌大さんが演じています。片嶋監督は「東出さんのつかみようのない茫洋なところが好きだったんです」と話し、特に大河ドラマの『花燃ゆ』の久坂玄瑞役が印象深かったと明かしました。撮影中について「彼は勉強家なんですよ。台本を真面目に読んで、いろいろ研究もして演技にぶつけてくる」と全身全霊で役に向き合ってきた東出さんの姿勢を賞賛しました。

ヒロインの慶子を演じる入山法子さんはNHKの朝の連続テレビ小説『エール』(2020年前期)で大正美人と話題になりました。キャスティングの際、着物が似合う女優として紹介されたそうで、片嶋監督は「彼女と話をしてみると、この手の作品に飢えていましたし、意欲に溢れていました」と述べました。慶子は当時の日本文学界の巨星であった萩原朔太郎の末妹で、当時の女性像から見るとかなり奔放なタイプ。片嶋監督は「入山さん本人は“いい子”なんです。慶子はそうじゃないから…この役を演じるのは挑戦だったと思います」と入山さんの好演に目を細めました。

東出さんと入山さんが並ぶ絵はとても映画的。彼らが演じる三好夫妻の“まさかこんな結末を迎えるなんて…”というクライマックスのシーンは圧巻です。監督が「(入山さんが)ヘトヘトになって雪の中でぶっ倒れた」と評する迫力ある演技を見せた二人。「全力投球って感じでしたね、二人とも。このシーンでクランクアップしました」と片嶋監督が振り返りました。東出さんと入山さんが熱量を放出させたクライマックスシーンにご期待ください。

「戦争に翻弄される個人や社会を撮りたい」「詩はもうひとつの主役です」

映画『天上の花』は三好達治をめぐる人間模様だけでなく、満州事変から第二次世界大戦の終焉までの大きな時代のうねりが感じられる作品です。片嶋一貴監督は「これから戦争が始まろうという時代…戦争に翻弄される個人や社会なりを撮りたかったんです」と述べました。原作の『天上の花―三好達治抄―』をシナリオ化したものに出会い「自分のやりたいテーマが詰まっている!」と製作がスタートしたそうです。

三好達治は陸軍地方幼年学校時代(15歳ころ)に2・26事件の首謀者のひとりである西田税と親友になるくらい硬派な思想を持つ一面がありました。 陸軍士官学校を中退して文学の道に進み、泥沼の戦争状態に突入した日本の閉塞感と不安の中、戦意を高揚させるための“戦争詩”で名を上げます。本作で登場する詩について片嶋監督は「(三好達治作品の)有名なのは教科書に載るような抒情詩です。でも彼の戦争詩というのは、三好自身のアイデンティティと合体した形だから切り離せません。詩は映画のもうひとつの主役なんです」と厳かに話しました。戦争詩は三好達治の師である萩原朔太郎も書いています(「南京陥落の日に」陥は旧漢字)。萩原朔太郎と三好達治が戦争詩について語りあうシーンは見所のひとつ。詩が画面に映し出されており、じっくりと堪能できます。

新潟県柏崎市を中心に撮影 四季折々の絶景「抜群のロケ地でした」

映画『天上の花』の魅力の一つとして映像の美しさが挙げられます。海、山、趣のあるトンネルなどに目を奪われる人も多いことでしょう。作中の三好達治は海を見晴らせる丘に居を構えて、慶子を迎えました。同居し始めの二人の初々しい様子と美しい自然がマッチしています。また、海辺と言うことで三好夫婦の食卓には魚がよく登場します。はじめは喜んで食べていたものの、飽きてしまった慶子は甘味やお肉、米などを達治に要求します。戦時であったことと、当時の男尊女卑の常識からすれば慶子はわがまま・奔放な女性といえるでしょう。優しい一面がありつつナショナリズムの思想を強く持つ達治とは価値観が違いすぎるのは明らかです。二人が不仲になっていく過程と変わらぬ自然の美しさの対比は不穏さを醸し出します。片嶋監督は「三好達治と妻・慶子のドロドロの愛憎劇と、変わらぬ四季の美しさが合わさると異様な閉塞感が生まれるのではないかと思いました」と手ごたえを見せました。

撮影ロケのベースは新潟県柏崎市で組まれたそうで、先日行われた柏崎での完成試写会は700人ほど集まったとのこと。「ロケ地マップを作ってみると8割がたが柏崎でした。鉄道とトンネルのところだけ群馬県の安中というところです」と片嶋監督が教えてくれました。ロケ地マップを片手に散策したくなるような素敵な風景がスクリーンに映し出されています。トンネルはロケハンで発見したそうで「これはいいと思いました。抜群のロケ地でしたね」と目を輝かせる表情が印象的でした。映像美をぜひ劇場でお楽しみ下さい。

パンフレットも興味深い!

映画『天上の花』は萩原朔太郎の娘である萩原葉子が書いた小説『天上の花―三好達治抄―』をもとにした作品です。登場人物も達治、朔太郎以外に有名な文学者が登場します。片嶋監督は「朔太郎の弟子であった達治を、自分の幼少期から長年“かわいがってくれたおじさん”と慕い、彼が死ぬまでをフィクションとノンフィクションを織り交ぜた形式で書いた小説です、と原作者の萩原葉子が残しています」と述べ、「三国の暮らしは、原作のほんの一部です。これを脚本家が膨らませて描きました」ときっぱりと明言しました。

作品完成後、三好達治記念館の館長でもある達治の甥ごさんに挨拶に行った際、作中の達治に対する複雑な思いをぶつけられたそうです。そこで監督は甥ごさんの思いをパンフレットに書いてもらうようにしたといたずらっぽく話しました。資料に残っていない“本当かどうか分からない事実”と虚構の狭間に揺れる親族の想いを伺い知ることができます。

資料としても興味深いパンフレット。文学に興味がある人、映画をみて時代背景や詩に関心を持った方にとって本作のパンフレットは良き道しるべになるでしょう。三好達治の「もしかしたら、こんな一面があったかも知れない」という発見がある映画『天上の花』。事実なのかフィクションなのかはあなたに委ねられます。

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12月17日(土)に伏見ミリオン座で舞台挨拶

映画『天上の花』の名古屋での公開記念舞台挨拶が12月17日(土)に伏見ミリオン座でおこなれます。主演の東出昌大さん、片嶋一貴監督、寺脇研プロデューサーが登壇する予定です。チケットは12月9日(金)正午から劇場公式ホームページで販売開始、窓口での販売は12月15日(木)劇場オープンより販売されます。WEB販売でチケットは完売した場合は、窓口での販売はありません。

日時:12月17日(土)14:00の回 上映終了後

場所:伏見ミリオン座 ミリオン1

映画『天上の花』名古屋舞台挨拶の詳細はこちら

伏見ミリオン座

Address:名古屋市中区錦二丁目15番5号

名古屋市中区錦二丁目15番5号

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作品概要

映画『天上の花』

12 月 9 日(金)より伏見ミリオン座ほかにてロードショー

原作:萩原葉子「天上の花―三好達治抄―」

出演:東出昌大 入山法子 浦沢直樹 萩原朔美 林家たこ蔵 鎌滝恵利 関谷奈津美 鳥居功太郎 間根山雄太 川連廣明  ぎぃ子 有森也実 吹越満

脚本:五藤さや香 荒井晴彦

監督:片嶋一貴

プロデューサー:寺脇研 小林三四郎

配給宣伝=太秦

2022年/カラー/ビスタサイズ/5.1ch/125分/PG12

©2022「天上の花」製作運動体


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