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2019-03-13

〈子ども食堂〉が生まれるきっかけを描いた映画『こどもしょくどう』日向寺太郎監督に名古屋でインタビュー


 

3月23日より公開となる映画『こどもしょくどう』は、子どもの貧困対策のひとつとして注目を集めている<子ども食堂>が生まれるきっかけを描いた物語です。監督は『火垂るの墓』(実写版)で戦禍のなか精一杯生きる兄妹を描いた日向寺太郎さん。脚本は『百円の恋』で日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞した足立紳さんです。子どもたちから見た世界を通して描かれた映画『こどもしょくどう』は、子どもの純粋な気持ちが社会を変えることができるかもしれないという「希望」が見える作品になっています。

映画に込めた現代社会への思いや撮影で大切にしたことなど、日向寺監督に名古屋でインタビューすることができました。(取材日:2019年2月27日)

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脚本は映画『百円の恋』で日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞した足立紳さん!

映画『こどもしょくどう』で日向寺監督がテーマにした〈子ども食堂〉は運営者によって異なりますが、無料または数百円で子どもたちに食事を提供する場所として全国に広がり注目を集めています。この映画の企画がスタートした2015年頃はマスコミで少し報道がされている程度で今ほど<子ども食堂>が世間には知られていなかったそうです。映画づくりのスタートと同時に、まずは〈子ども食堂〉に足を運んだという日向寺監督は「一番初めに<子ども食堂>を開いた東京大田区にある『だんだん』に客として行きました。子ども300円、おとな500円(当時)で大人も入れるお店で、子連れのお客さんもいました。特別な場所に来たという感覚はなく、とても和やかな場だと感じました」と印象を語りました。そこで目にした光景や子ども達の様子や服装などを振り返り「(食事に困っているかどうかは)外見では分からないんだと思いました」と〈子ども食堂〉や子供たちの現状に触れたことを教えてくれました。

映画『こどもしょくどう』の脚本は映画『百円の恋』(2014年公開)の足立紳さんが手がけています。原作のないオリジナル作品の制作にあたり監督は足立さんに脚本を依頼した理由を「『百円の恋』の脚本を読んだときに、人間のみっともない部分、だらしない部分、弱さをひっくるめて描ける脚本家だと思ったんです。私自身、善と悪がミックスされているのが人間だと思っているので、足立さんに書いてもらいたいと思いました」と、日向寺監督たっての願いが叶ったことを明かしました。

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ワンテイク撮影が日向寺監督流!大切にしたのは「子どもたちが持っている良さを失わないようにすること」

映画『こどもしょくどう』には、食堂を営む両親と妹と健やかな日々を過ごすユウト(藤本哉汰さん)、ユウトの幼馴染で育児放棄の母子家庭で育つタカシ(浅川蓮さん)、河原で父親と妹と車中生活を送るミチル(鈴木梨央さん)など、様々な境遇の中で生きる子どもたちが登場します。

日向寺監督は「この映画がうまくいくかどうかは、いかに魅力ある子どもたちと出会うことができ、生き生きと描くことができるかどうかということでした」と話し、子役のオーディションについても触れました。「子どもたちはオーディションで選びました。ミチル役も最初はオーディションでしたが、どうしてもミチル役は鈴木梨央ちゃんがいいと思ってお願いしました」と鈴木梨央さんのキャスティングも監督たっての願いだったことを教えてくれました。

子どもたちの演出について聞いたところ「子どもたちが本来持っている良さを失わないように心掛けただけです。すごく悩みましたが、撮影前の稽古はしないことにしました。『火垂るの墓』を撮った時に、子供は何回か芝居を繰り返すと子どもの良さが無くなるということに気づきました。もちろんプロだから、もう1回やりましょうといえばやるんですけど、1回目の良さはでません。ワンテイクがいいと思います」と日向寺監督流の撮影方法が子どもたちの瑞々しい姿に繋がっていることを教えてくれました。
脚本家の足立さんが映画『14の夜』を撮った際に(子役たちと)1ヵ月間みっちり稽古をしたら現場がとてもスムーズだったという話を聞いたそうで「すごく悩みました。クランクインまでは不安で不安でしかたなかったです」と自分の選択が正しいのか大きな不安を抱えていたと明かしてくれました。

また、〈子ども食堂〉の役割や満足な食事がとれない子がいることを子役たちにどのように説明して撮影に挑んだのか訊ねると「それはほとんど伝えていないに等しいです。子どもたちが脚本を読んで、気持ちの部分で分からないことは多分ないと思ったからです。難しいシチュエーションは車の中で生活しているってことだけじゃないかと。逆にユウトからみると、現実にもそういう子どもたちと会うことはなかなかないでしょうし。全部の感情が分からないってことはないと思ったのです」と話し「『ここは悲しい気持ちだよ、寂しい気持ちだよ』と言うと、子どもはそういう顔をしようとすると思うんです。演じようとすると思うんですね。監督によってはその方が良いっていう方もいるかもしれませんが、これは好みの問題ですね」と、それぞれの子どもたちの気持ちの解釈や表現に任せたことを教えてくれました。

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「ミチルの家族は明日の私たちかもしれない」と思って観てほしい

映画『こどもしょくどう』の中で複雑な事情があることを想像させるのがミチルの家族です。父親役をDragon Ashの降谷建志さん、母親役を石田ひかりさんが演じていますが、この家族の過去を深く描いていない理由について「そこが脚本上で最後の最後まで試行錯誤したところでした。足立さんは母親が出ていくシーンなど、いろいろ回想を書き足したりしてくれました。しかしミチルの家族が特別な家族に見えては困ると思いました。観ている人が私たちには関係ないと思ってしまうのが嫌だったのです。

(幸せな思い出を持っている)家族でも、なにかあればミチルの家族のようになることがある。ミチルの家族は明日の私たちかもしれない、隣の家族かもしれないと思って観てもらいたい」と、セーフティーネットを持たない現代社会を表現した部分であることを教えてくれました。

また、言葉の少ない謎めいた役を演じた降谷さんについて日向寺監督は「セリフがほとんどない役ですが、存在感がほしいと考え“ミュージシャン”がいいと思いオファーしました」と話し「(役について)大まかなことを説明しただけで『脚本を読めば分かります』と言ってくださいました」と振り返りました。降谷さん自身が〈子ども食堂〉にとても関心があることも決して大きくはない役での出演を引き受けてくれた理由かもしれないと感謝の気持ちを述べていました。そして母親役の石田ひかりさんも、フードバンクの活動をされていることを後から知ったそうで、偶然にも関心を持った方々に出演してもらえたことを監督は嬉しそうに振り返っていました。

また、食堂を営むユウトの両親を演じるのは吉岡秀隆さんと常盤貴子さんです。温かい眼差しで子どもたちを包み込み、物語に深みを与えています。

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主題歌「こどもしょくどう」作詞は歌人・俵万智さん 日向寺監督の出身地「仙台」が繋いだ縁

映画の感動をさらに大きくしてくれるのは、主題歌「こどもしょくどう」です。“たべることはいのち たべることはつながり いっしょだったらもっとおいしい”と歌うミチルの妹・木下ヒカル役の古川凛ちゃんとユウトの妹・高野ミサ役の田中千空ちゃんの無邪気な歌声が印象的です。

この曲の作詞は歌人の俵万智さんが担当しています。日向寺監督は「俵さんの子育ての短歌を読んで、こどもの視点で、優しい言葉で心に伝わる歌詞を書いてくれるのではないかと思いました」とオファーの理由を語りました。日向寺監督の友人が俵さんと知り合いで「俵さんに詞をお願いしたい」と話したところ、繋いでくれたそうです。日向寺監督のふるさとである仙台が繋いでくれた縁があったことを嬉しそうに話してくれました。映画を観た人の心にそっと寄り添う主題歌「こどもしょくどう」は食べることの大切さ、誰かと一緒に食べることの温かさ、人と繋がることの嬉しさを感じさせてくれます。エンドロールまでじっくりとお楽しみください。



作品概要

映画『こどもしょくどう』

3月23日から 名演小劇場 ほか全国順次ロードショー

【ストーリー】

小学5年生の高野ユウト(藤本哉汰)は、食堂を営む両親と妹と健やかな日々を過ごしていた。一方、ユウトの幼馴染のタカシの家は、育児放棄の母子家庭で、ユウトの両親はそんなタカシを心配し頻繁に夕食を振舞っていた。
ある日、ユウトとタカシは河原で父親と車中生活をしている姉妹に出会った。ユウトは彼女たちに哀れみの気持ちを抱き、タカシは仲間意識と少しの優越感を抱いた。
あまりに“かわいそう”な姉妹の姿を見かねたユウトは、怪訝な顔をする両親に2人にも食事を出してほしいとお願いをする。久しぶりの温かいご飯に妹のヒカルは素直に喜ぶが、姉のミチル(鈴木梨央)はどことなく他人を拒絶しているように見えた。数日後、姉妹の父親が2人を置いて失踪し、ミチルたちは行き場をなくしてしまう。これまで面倒なことを避けて事なかれ主義だったユウトは、姉妹たちと意外な行動に出始める――。

監督:日向寺太郎

原作:足立紳

脚本:足立紳、山口智之

出演:藤本哉汰、鈴木梨央、浅川蓮、古川凛、田中千空、林卓、降谷建志、石田ひかり、常盤貴子、吉岡秀隆

配給:パル企画

公式サイト:https://kodomoshokudo.pal-ep.com

©2018「こどもしょくどう」製作委員会

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