ハ・ミョンミ監督来名!映画『済州島四・三事件 ハラン』シネマスコーレの舞台挨拶に登壇&インタビュー
4月3日(金)から5月1日(金)までシネマスコーレで上映している映画『済州島四・三事件 ハラン』は、3万人にも及ぶ無差別虐殺が繰り広げられながら、長らく語られてこなかった「済州島四・三事件」を題材に、海女のアジンと6歳の娘ヘセンの命がけの逃避行を描き、いつの時代も罪のない‟弱き者”たちが権力によって翻弄される姿を切なく紡いだドラマです。2007年にユネスコの世界自然遺産に登録され、リゾート地としても人気が高い韓国・済州島ですが、かつて凄惨な事件があったことは2000年頃までほぼ知られていませんでした。「済州島四・三事件」とは1948年4月3日に外国勢力による干渉に反発した済州島の一部島民が武装蜂起したことを指します。武装島民に対して政府は‟討伐”と称し、1954年までに3万人にも及ぶ島民の虐殺を行い、その事実をずっと隠蔽していました。

この事件をテーマに本作を描いたのは、長らく商業映画の脚本家としてキャリアを積んできたハ・ミョンミ監督です。2013年に済州島に移住して毎年追悼集会に参加するなかで、多くの犠牲者たちのうち名前も知らされていない女性たちの姿を描きたいと企画。雪の中で花を咲かせる寒蘭<ハラン>のように強い人間の意志と生命力を作品名に込めて、全編を済州島で撮影しました。主人公アジンを演じたのは天才子役としてデビューし、演技派女優へと成長したキム・ヒャンギさんです。そして娘ヘセンを演じたのはキム・ミンチェさんで、彼女が物語後半で発する「オモニ」という声に涙が禁じえません。

公開2日目の4月4日(土)に、名古屋のシネマスコーレで『済州島四・三事件 ハラン』のハ・ミョンミ監督が舞台挨拶に登壇しました。またインタビューにも応じさまざまな想いを話しました。ハ・ミョンミ監督の想いが詰まった舞台挨拶・インタビューの模様をお届けします。(取材日:2026年4月4日)
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あいち国際女性映画祭から繋がった日本公開「四・三事件で犠牲になった方の声を伝えたい」
映画『済州島四・三事件 ハラン』は1948年10月、誕生したばかりの大韓民国政府は、済州島で発生した武装蜂起を鎮圧するため、海岸線から5㎞以上離れた地域を「敵性区域」とみなし、出入りする者は無条件に射殺するという布告が発令された時期を舞台に、難を逃れるためハルラ山を目指した村民たちをはじめ、主人公の母娘、軍人たちの極限の心模様を描いた人間ドラマです。劇中の「この恐ろしい惨劇を忘れてしまったら、誰が記憶にとどめると言うの?」という問いかけに、私たちはどう答えるべきでしょうか。
映画『済州島四・三事件 ハラン』は2025年9月に開催されたあいち国際女性映画祭でワールドプレミアとして公開され、観客から高い評価を得ました。そして2026年、現代韓国史の深い傷跡を照射する作品が時と国を超えて4月3日(金)よりポレポレ東中野ほか全国順次公開がスタートし、4日にはハ・ミョンミ監督が来名し舞台挨拶する運びとなりました。舞台挨拶当日はかつての済州島の悲劇を包み込み、また平和への祈りをささげるような優しい雨が降っていました。全席が埋まったシネマスコーレに映画『済州島四・三事件 ハラン』のハ・ミョンミ監督と通訳のジョン・テヒさんが登壇し、あいち国際女性映画祭のディレクターであり、シネマスコーレ代表の木全純治さんが進行を務め舞台挨拶がスタートしました。

木全さんが、ソウル出身でシナリオライターとしてコメディを書いていたハ・ミョンミ監督がなぜ済州島に移住したのかと尋ねると、ハ監督は「2013年頃にオリジナル脚本が書きたいと済州島に引っ越しました。島に暮らすうちに四・三事件の話を聞くようになりました」と答え、「2014年に漠然と母と娘の話を映画にしたいという気持ちが湧いて、島で様々な話を聞いたり取材したりしました。2023年にデビュー作(『彼女の趣味』)が公開されたのを契機にハランの企画が始まりました」と加えました。インディーズ製作のため予算集めが大変だったのでは…と木全さんが質問すると、ハ監督は「膨大な予算(およそ1億円)が必要でした。どうしてもこの映画を完成させて、四・三事件で犠牲になった方の声を世の中に伝えたいと思ったので、助成金や投資から足りない分は自分で用意しました」と並々ならぬ思いがあったと語りました。木全さんは、韓国のメジャー映画は製作に1億、宣伝費に2千万円ほどの資金が必要だと言及し、ハ監督が半分のお金を苦労して用意したと補いました。
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オール済州島ロケ 韓国での上映でも80年以上前の言葉を字幕で表現「1948年、当時の済州島の言葉が大事」
本作はオール済州島ロケ、当時の済州島の方言を使っています。そのこだわりについて、ハ監督は「1948年に済州島で生きていた方たちを表現するうえで、当時の済州島の言葉が大事だと思いました。方言であり、80年以上前の言葉なので済州島でも若い人には分からないんです。実際に韓国で公開された時も字幕をつけました」と明かしました。客席では驚きの表情を浮かべる方も多く、その顔に頷きながらハ監督は「演者も済州島出身者でないので、方言指導の方を迎えて練習してもらいました。苦労したようです」と振り返りました。

主演のキム・ヒャンギさんは天才子役としてキャリアを重ね、現在はメジャーな作品でも主演を張る俳優です。そのキム・ヒャンギさんが出演したいきさつについてハ監督は「演技の経験が20年以上あって、20代の俳優の中でも深みのある演技をされるので、この母親はキム・ヒャンギさんしかいないとシナリオを書いている時から考えていました。それでシナリオをヒャンギさんに渡したら‟この役に挑戦したい”とお返事をいただきました」と相思相愛のキャスティングだったと述べました。6歳の娘役ヘセンを印象深く演じたキム・ミンジュさんについてハ監督は「オーディションで初めて顔を見たときに、‟この子がヘセンだ”と思いました。演技も素晴らしくて抜擢しました」と起用の決め手を語りました。

物語終盤の銃声シーンについて木全さんが、企画当初から決めていたのかと尋ねるとハ監督は「最後に2025年の済州島が映るのはシナリオを書く段階から決まっていました。主人公母子の銃声後のシーンが撮影されていましたが、完成直前にカットしました」と明かし、彼女達のその後の姿を考えて欲しかったので観客に委ねたと語りました。舞台挨拶の最後にハ監督は「あいち国際女性映画祭でワールドプレミア上映されて出会った木全さんのおかげで、名古屋のシネマスコーレに立つことができました。名古屋や大阪は在日韓国人の方も多く、また韓国に興味を持ってくださる方と映画を通してコミュニケーションできたら嬉しいと思います」と結びました。舞台挨拶の後はサイン会が催され、あいち国際女性映画祭を含めて3回鑑賞した方、在日韓国人の方などたくさんの方が集まりました。ハ監督は一人一人の観客の感想を聞いて大きく頷いたり、一緒に写真を撮ったりして交流を楽しんでいました。
2013年に済州島に移住したハ・ミョンミ監督「島からも四・三事件で亡くなられた方々からも応援してもらった」
映画『済州島四・三事件 ハラン』では、済州島民の中でも立場によって軋轢が生じたり、軍人の中でも嬉々として指令に殉ずる人と良心に苦しむ人がいたりと様々な分断や対比が描かれます。本作は済州島オールロケで撮影され、ハ・ミョンミ監督自身も2013年に済州島に移住していることから、本作ができる前と完成後の済州島への想いを聞きました。ハ監督は「四・三事件について移住前まで活字の情報でしか知りませんでした。でも毎年4月3日に追悼式が行われて、そちらに参加する中でもっと知りたいと思うようになりました」と静かな口調で話しました。そして済州島の‟島が受け入れた人だけが住める”という言い伝えについて触れ、「島からも四・三事件で亡くなられた方々からも受け入れられて、応援してもらって映画を完成させることができたと感じています」と笑顔を見せました。

移住した済州島の雰囲気を監督は「私が暮らす町は海沿いで、多くの方が海に関わる仕事をしていて繋がりが強くて温かい町です。一人暮らしのお年寄のことを、みんなが把握しているなど共同体として韓国人の情けを分かち合う町ですね」と紹介しました。そのコミュニティーの絆の強さ、一緒に生きようとする姿を温かな光として描きたいと劇中でも、村民が避難先の洞窟内で共に過ごすシーンに反映させて明るめの映像になるようにこだわり、「軍人達がいる洞窟の描写との違いを意識しました」と語りました。また、幼いヘセンが母を探して夜の山道を歩く時は蛍が飛び交うシーンにしており、「殺戮と対比を意図して、童話的な描写にしたかった」と言いました。

主人公アジンを支える存在として巫堂(ムーダン)が印象的に描かれています。彼女(カン・チェヨンさん)が祈るシーンは観ている私たちも敬虔な気持になってしまいそうです。現在の済州島でも巫堂は文化的な影響を与えているのか質問すると「巫堂というと2024年の映画『破墓(バミョ)』ではオカルティックに描かれていましたが、済州島では人の悲しみや怒りを慰めてくれる存在です。『ハラン』では怖いイメージでなく、悲しみを言葉にできない人や犠牲者の想いを代弁する精神的に支える存在として見て欲しいと思います」とハ監督が語りました。通訳のジョン・テヒさんはハ監督の言葉を残さず伝えようとメモをしっかりとり、その姿にハ監督は「ケンチャナ(大丈夫?)」と姉妹のようなやり取りを見せました。リラックスした雰囲気でインタビューが進みます。
軍人としての葛藤を抱えるムン一等兵の‟迷いの眼差し”に注目 軍犬に重ねた意味とは?
劇中、巫堂という伝統的な信仰に対してキリスト教徒のムン一等兵(キム・ウォンジュンさん)が登場します。彼は島民を取り締まる側の軍人ですが、島民を銃殺しなければならない軍令に良心を咎める青年です。彼の‟迷いの眼差し”が問いかけるものを無視することはできません。ハ監督は「事件の記録を見ると、国の警備隊として島を守るために派遣されてきたのに、済州島の島民を虐殺するという現実に葛藤を抱えた人が多かったとありました。その任務から逃れようとすると、下手したら銃殺されるなどの暴力に晒され、精神を麻痺させるためにお酒で紛らしたそうです」と述べました。国家権力による暴力に適応する人もいたと思うが、そうできない人もいたと手振りを大きくして、「脚本の段階からムン一等兵の存在を描きたいと思いました」と語りました。

ハ監督は映画完成後の観客のコメントの中に「軍人の事を描いていいと思っているのか!」という内容があったことに怖さを感じたと明かしました。そして「2024年12月3日、私はこの映画の編集をしていました。その時に大韓民国非常戒厳令事件が起こり、軍人たちが国会を封鎖させる事態になりました…。国家が下した命令に軍や警察が消極的に対応したからこそ事態が悪化しませんでしたし、国会に走って行った市民達のおかげで、この映画が韓国・日本でも公開できたと思います」と1948年と2024年に起きた事件を絡めて権力と軍についての想いを漏らしました。
極限の人間模様が描かれる『済州島四・三事件 ハラン』には、アジンとヘセン母子に初めは吠えかかり、いつしか山中で共に眠るほどの親密さを見せる軍犬が登場します。軍犬を登場させた意図をハ監督は「戦闘のときに犬たちは攻撃や人の盾として使われていました。動物たちも殺されていたという事実を表現したかったのです。そして劇中の犬は米軍のプレート(標識)をつけています。人も動物も標識から逃れて自由に生きられるのではないかという意味も添えました」と述べました。演じたワンちゃんについて「済州島の警察署で活躍している犬で、偶然四・三事件を経験した方の遺族の方が飼い主なんです」と浅からぬ縁を明かし、大事な役を演じた犬を飼い主さんは誇りに思っていると話しました。

ハ監督は日本の映画ファンに向けて、「四・三事件はたった一日の事件でなく、7年7か月に及んで約3万人の方が虐殺されました。アジンが持っていた家族写真は1947年3月1日の日付になっています。3月1日は日本軍から朝鮮が解放された韓国史で非常に重要な日です。でも三・一節に島民の抗議を反乱と誤解した警察による8人の銃殺…国家が殺人を犯したのに責任を取らないという出来事が四・三事件の引き金となりました。韓国の歴史的背景を考えつつ、日本との関連を考えて欲しいです」とメッセージを届けました。そして「名古屋・大阪・東京でも在日韓国人、在日済州島の人がいます。その方々に『貴方は一人じゃない』ということも伝えたいと思います」と結びました。
たくさんの質問に真摯に応えてくれたハ・ミョンミ監督の映画『済州島四・三事件 ハラン』は5月1日までシネマスコーレで上映されます。詳しい時代背景などがパンフレットに書かれているので合わせてご覧いただくと一層の理解に繋がるでしょう。是非スクリーンでご覧ください。
作品概要
4月3日(金)ポレポレ東中野、シネマスコーレほか全国順次公開
出演:キム・ヒャンギ(『神と共に』2部作、『無垢なる証人』、『雪道』)、キム・ミンチェ、ソ・ヨンジュ、キム・ウォンジュン
脚本・監督:ハ・ミョンミ プロデューサー:ヤン・ヨンヒ
撮影:オム・ヘジョン
音楽:キム・ジヘ
音響:ムン・チョルウ
編集:イ・ヨンジョン
照明:シン・テソプ
美術:キム・ジンチョル
2025 年|韓国|韓国語|カラー|119 分|シネスコ|5.1ch|原題:한란 ©Whenever Studio
配給:シネマスコーレ、MYSTERY PICTURES
HP: https://hallan-movie.com X: @hallan_film
©Whenever Studio





















