性暴力・差別・誹謗中傷 戦時下で起きた実体験を語る女性たちの変化を描いたドキュメンタリー映画『黒川の女たち』松原文枝監督にインタビュー
7月26日(土)より名古屋・今池のミニシアター ナゴヤキネマ・ノイで公開(7月12日(金)より全国順次公開)となるドキュメンタリー映画『黒川の女たち』は80年前の戦時下に満洲の地で起きていた性暴力の事実を公にした女性たちの告白と尊厳の回復を求める活動を描いた作品です。岐阜県白川町黒川から満洲に渡った黒川開拓団の人々は生きて日本に帰るために、敵であるソ連軍に助けを求め、数えで18歳以上の女性たちをソ連軍に差し出しました。ソ連軍の性の相手として差し出された女性たちが満州で体験したこと、日本に帰国した後に差別と偏見の目に晒されて誹謗中傷を受けたこと、様々な体験を伝える“黒川の女たち”の生の声は何物にも代えがたい重みがあります。

長年に渡って伏せられてきた事実を「伝える」ことの必要性を強く感じさせる作品を作り上げた松原文枝監督が名古屋でインタビューに応じました。取材をスタートさせたきっかけや、映画という形にすることを決意した理由、目の当たりにした取材対象者の変化について語ってくれました。(取材日:2025年6月27日)
新着情報
Contents
「自分の体験をみんなに伝ええようという強い意志」映画制作を決意させた出来事とは?
ドキュメンタリー映画『黒川の女たち』は岐阜県白川町黒川から満洲に渡った黒川開拓団の人々が、第2次世界大戦の敗戦後、現地住民からの襲撃から身を守るためにソ連軍に助けを求め、その代償として、数えで18歳以上の女性15人をソ連軍に差し出した事実を公にした女性たちの告白と尊厳の回復を求める活動を描いた作品です。
監督をつとめたのは、テレビ朝日で長く報道に携わってきた松原文枝さんです。撮影を始めたきっかけについて、2018年8月に朝日新聞の全国版の記事に掲載された佐藤ハルエさんの写真に「自分の体験をみんなに伝ええようという強い意志を感じた」と教えてくれました。松原さんが目にした新聞記事は岐阜市民会館で行われた集会で佐藤ハルエさんが証言をした時のもので、敗戦直後の旧満州で、黒川開拓団幹部の指示によってハルエさんを含む17~21歳の未婚女性たちが「性接待」を強いられたことを実名で顔を出して証言しています。
岐阜県白川町の佐久良太神社境内には、黒川開拓団の慰霊碑のひとつである「乙女の碑」がありますが、長年に渡り何のために建てられたかの説明文はなく、多くを語ることはタブーとされてきました。「乙女の碑」の碑文が完成し、2018年11月に除幕式が行われた際にニュースに出し、「碑文ができるまでを追って、2019年8月に報道ステーションとテレメンタリーで放送したんです」とスタートについて話してくれました。
松原さんは「性暴力を外に出したことで、何が起きるのか」とその後も取材を続けていたと言い、佐藤ハルエさんが亡くなった場に立ち会ったこととテレビ放送時には顔を出さずに取材に答えていた安江玲子さんの変化を目の当たりにしたことから「この人達の成し遂げたことを残さなければと突き動かされました」と映画『黒川の女たち』の制作を決意した出来事を教えてくれました。
〈関連記事〉
ドキュメンタリー映画「ムクウェゲ 『女性にとって世界最悪の場所』で闘う医師」立山芽以子監督にオンラインインタビュー
沖縄現代史に切り込んだドキュメンタリーで日本のありようをあぶり出す 映画『太陽(ティダ)の運命』佐古忠彦監督に名古屋でインタビュー
“自分らしく生きたい”トランスジェンダー女性のドキュメンタリー映画『息子のままで、女子になる』サリー楓さん、杉岡太樹監督に名古屋でインタビュー
ドキュメンタリー映画『生きろ 島田叡―戦中最後の沖縄県知事』佐古忠彦監督に名古屋でインタビュー
「人生の最後の最後でようやくトラウマから解放」「尊厳の回復は簡単なことではない」
佐藤ハルエさんについて聞くと「可愛らしいおばあちゃんですが、満州の話になるととても真剣に話をしていて、聞いていると自然と向き合わなければと思わせてくれる人でした」と印象を話しました。実名で証言をしたことで、碑文が完成した後には「ハルエさんの話を聞きたいという人がハルエさんの元を訪れるようになりました」と言い、ハルエさんの話を聞いて何かをしなければと動き出す人たちの様子も撮り続けていたと話しました。
映画化に向けて動くきっかけとなったもう一人の女性、安江玲子さんについて「トラウマが大きくて、東京に住んでいたので相談相手もいなくて、碑文に対しても反対はしないけれど孤立していました」とテレビ放送に向けた取材の際は「刺々しさがあり、カラに閉じこもっている感じで、取材をするときにも傷つけないように気を使っていました」と振り返りました。
碑文完成後にも黒川開拓団の遺族会は玲子さんとの対面を希望していて、松原監督も取材の機会をうかがっていたそうで、コロナ禍が収まってきた頃に「玲子さんが(遺族会と)会ってもいいと言っている」と聞き、対面のタイミングで取材に行ったことを教えてくれました。松原監督はその時の玲子さんについて顔を出しての取材にも応じてくれた上に「玲子さんは笑顔で冗談も言うようになっていて、こんなに人間は変わるんだと驚きました」と玲子さんの変化をカメラで捉えられたことを教えてくれました。
玲子さんの変化について松原監督は「(自身の過去の出来事について家族が知り)孫が理解をしてくれて『おばあさんのことを誇りに思う、尊敬する』と言ってくれたことが安寧をもたらした。人生の最後の最後でようやくトラウマから解放されて、完全に回復したわけではないけれど、心が安定し、人間性を取り戻していくことができた」と感じたことを話してくれました。さらに松原監督は孫やひ孫に囲まれて嬉しそうな様子の玲子さんが見られたことが嬉しかったと振り返り「尊厳の回復はそんなに簡単なことではないが、理解者がいることの大切さを感じました」と力強く語りました。
政治や選挙に対しても高い意識を持ち、自分たちが体験したような出来事が二度と起きてほしくないという強い思いを伝えてくれる女性たちの生の声が詰まったドキュメンタリー映画『黒川の女たち』。自分たちが経験したことを外に伝えて、理解されたことで解放に繋がっていく、女性たちの勇気と行動、そして変化の道程を見ることができる作品です。
名古屋公開2日目に松原文枝監督による舞台挨拶開催!
7月26日(土)よりナゴヤキネマ・ノイで上映となるドキュメンタリー映画『黒川の女たち』、名古屋公開の週末に松原文枝監督による舞台挨拶の開催が決定しました。13:10の回上映後に松原監督が登壇します。座席予約はナゴヤキネマ・ノイのホームページまたは劇場窓口で受付中です。座席数に限りがあるので、お早目に。全国鑑賞券など前売券での座席の予約手続きは劇場窓口限定、オンラインの場合はクレジットカード決済のみ、劇場窓口の場合、現金かPaypayでの決済となります。
日時:2025年7月27日(日)13:10~14:49
場所:ナゴヤキネマ・ノイ(愛知県名古屋市千種区今池1丁目6−13 今池スタービル 2F)
作品概要
2025年7月26日(土)よりナゴヤキネマ・ノイで上映 ※7月12日(土)よりユーロスペース、新宿ピカデリー他全国順次公開
監督:松原文枝
語り:大竹しのぶ
製作:テレビ朝日
配給:太秦
2025/日本/99分/ドキュメンタリー
https://kurokawa-onnatachi.jp/
©テレビ朝日