2024-06-20

映画『あんのこと』入江悠監督が名古屋・伏見ミリオン座に!ティーチインで河合優実さんについて語る

 

6月7日(金)より公開中の映画『あんのこと』は2020年の日本で実際に起きた事件を基にした作品です。話題作への出演が続く注目の俳優・河合優実さんが、壮絶な人生を歩んできた主人公・杏を演じ、底辺から抜け出そうともがく杏に更正の道を開こうとするベテラン刑事役で佐藤二朗さん、2人を取材するジャーナリスト役で稲垣吾郎さんが出演しています。

監督・脚本をつとめる入江悠さんが伏見ミリオン座で映画上映後の舞台挨拶に登壇し、映画を観終えたばかりの観客からの様々な質問、ひとつひとつに丁寧に答えました。(取材日:2024年6月16日)

「モデルとなった方に失礼があってはいけない」「ずっと考える旅を続けています」

映画『あんのこと』は監督・脚本をつとめる入江悠さんが2020年6月に新聞に掲載された「ある1人の少女の壮絶な人生を綴った記事」に着想を得て描いた、実話を基にした人間ドラマです。公開後から満席の回が多く出る話題の作品で、伏見ミリオン座も満席となっていました。上映後のスクリーンの前に登場した入江監督は「昔の伏見ミリオン座をイメージしていたら、こんなに立派に」と驚いた様子で、5周年を迎えた伏見ミリオン座の新館を訪れるのは今回が初めてだったそうです。また、キャストを含めた舞台挨拶は行ってきたものの「1人でお客様と向き合うのは初めてなので緊張しています」と言い、舞台挨拶が始まりました。

新聞記事を読んだことから始まった本作の制作について入江監督は「自分は主人公のことがわからなくて、どういう子なのかわかりたくて脚本を書きました。映画が完成してもわからないことがあり、ずっと考える旅を続けています」「(新聞記事と)佐藤二朗さんが演じた刑事の方の逮捕について週刊誌に記事が出て、その二つの記事が繋がってることにショックを受けました」と話しました。

映画は幼い頃から実母に虐待を受けて育ち、21歳で薬物依存症となっていた主人公の杏と彼女に手を差し伸べ、薬物更生者の自助グループに誘う人情味あふれる型破りな刑事・多々羅、多々羅の取材をしているジャーナリストの3人を中心に進んでいきます。杏の人生に希望が見えてきた矢先、コロナ禍によって様々な繋がるが絶たれていく現実が描かれていて、入江監督は「コロナ禍の空気感を記録しておきたいという意味もあり、マスクをし始めた時期や全校休校、マスクの品切れなどの事象も映画として描きたいという思いがありました」と話しました。また「刑事のいろいろな場面は脚本にもあって撮影もしているのですが、『あんのこと』というタイトルに決めて、編集の段階で多々羅側は削っているんです」と話し「そこを犠牲にしても、杏に向き合おうと思いました」と強い思いがあったことを述べました。

稲垣吾郎さん演じるジャーナリストのモデルになった、当時、実際に取材をしていた新聞記者の方に会うことができ「モデルになった女性や刑事の人物像について聞くことができました」と様々な協力をしてもらったことを教えてくれました。その方には、入江監督だけでなく、主演の河合優実さんも一緒に会って話を聞く機会もあったそうで「映画としてフィクションにしている部分にも理解をしていただき、モデルとなった方に失礼があってはいけないという責任感で映画を作ることができました」と伝えました。

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「河合優実さんによって発見できた」「演技というレベルではない」

ティーチインでは映画を観終えたばかりの観客から様々な質問が投げかけられ、入江監督は「(客席に)傾斜があるから、皆さんの顔がよく見えますね」と言い、ひとつひとつの質問に対して真摯に向き合っていました。「(河合優実さんが演じた)杏のキャラクターはどのように作っていったのか?」と聞かれると入江監督は「河合優実さんによって発見できたことがほどんどだと思います」と答えました。「僕は男子校で男兄弟で育っているんで、母と娘の関係性みたいなのがわからなくて、撮影前にリハーサルをさせていただきました」と話し「お母さん役の俳優さんもすごい線が細くて優しい方なので、どうやったら家庭内暴力が発生するのか、エチュード的に試させていただきました」と教えてくれました。

入江監督は「お母さんの暴力によって(杏が)泣きながら、家を飛び出るシーンを書いてましたが、河合優実さんが『何か、お母さんを守らなきゃという気持ちになる』と言っていました」と話し「嫌で逃げ出すんじゃなくて、守らなきゃいけないっていう意識があるから、彼女が家に留まっているんだ」と言い、リハーサルを経て「杏は責任感がある子なんだと見えてきました」とも変化があったことを語りました。

劇中では杏の母親が杏のことを「ママ」と呼ぶことがあります。入江監督は「実際の杏のモデルの子ではなく、別の家庭内暴力や虐待に関する文献に載っていた事例の中に母が娘をママと呼ぶ関係性がありました」と答え「自分が母親を守る気持ちになってきた」という河合さんの話と結びつけて脚本に取り入れたものだと答えました。またシェルターのマンションで窓を開けた時の表情などから杏の心情を感じ取ったそうで「脚本を書いていた時には全く想像していなくて、河合さんによって発見させてもらえました」と河合さんが杏を演じたからこそ得られたものが多かったと話しました。

河合さんと仕事をするのは今回が初めてという入江監督は「河合さんが19歳の頃にワークショップでお会いしていて、演技に対する取り組み方が真摯で役を演じることに対する真剣さが違っていました」と印象を語りました。本作への取り組みについても「基になった事件やモデルがいるので、無頓着ではいられない。僕以上に、演じる責任を感じていたと思います」と話しました。撮影中の河合さんについて「杏ちゃんと手を繋いでいるような気がする」と話していたことを明かし「演じるのとは、もう少し違う感覚だったのではないかと思います」と振り返りました。入江監督は「亡くなった方の気持ちを伝える役目・いたこ」のようだったと言い「河合さんの体や精神を通して杏を見せてもらっている、演技というレベルではない中で撮影をしたと思います」と話しました。

舞台挨拶の最後に入江監督は「映画の終わり方をどう捉えるかは映画を観た人に委ねたいと思います。まだまだ映画の上映は続きますので、一緒にあんのことを語ってもらって、この映画に出会って、誰かに伝えてもらえたら嬉しいです」とメッセージを伝えました。舞台挨拶の後にはサイン会も行われました。映画の感想を伝えたり、監督と交流ができる機会とあって、サインを求める長い列が2階のロビーから階段にも続いていました。

作品概要

映画『あんのこと』

6月7日(金)公開

【あらすじ】21歳の主人公・杏は、幼い頃から母親に暴力を振るわれ、十代半ばから売春を強いられて、過酷な人生を送ってきた。ある日、覚醒剤使用容疑で取り調べを受けた彼女は、多々羅という変わった刑事と出会う。
大人を信用したことのない杏だが、なんの見返りも求めず就職を支援し、ありのままを受け入れてくれる多々羅に、次第に心を開いていく。
週刊誌記者の桐野は、「多々羅が薬物更生者の自助グループを私物化し、参加者の女性に関係を強いている」というリークを得て、慎重に取材を進めていた。ちょうどその頃、新型コロナウイルスが出現。杏がやっと手にした居場所や人とのつながりは、あっという間に失われてしまう。行く手を閉ざされ、孤立して苦しむ杏。そんなある朝、身を寄せていたシェルターの隣人から思いがけない頼みごとをされる──。

出演:河合優実 佐藤二朗 稲垣吾郎 河井青葉 広岡由里子 早見あかり

監督・脚本:入江悠

製作:木下グループ 鈍牛倶楽部

制作プロダクション:コギトワークス

配給:キノフィルムズ

2024年/日本/114分/PG12

© 2023『あんのこと』製作委員会

公式サイト:annokoto.jp

公式X:@annokoto_movie

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