「この子が花だな」オーディションで見つけた“花”と、“伊吹”役・荘司亜虎さんとの出会い 映画『長浜』谷口未央監督・加藤あんりさんにインタビュー
10月3日(土)よりシネマスコーレ(名古屋市中村区)で公開される映画『長浜』は、長浜曳山祭を背景に、11歳の少年・伊吹が父親の故郷である長浜を訪れ、子ども歌舞伎を通して自分自身と向き合っていく物語です。台湾人の母・ヤオファと日本人の父・秀一を持つ伊吹は、亡くなった父の遺灰を届けるため、母とともに長浜へ。そこで、父がかつて演じた女形の役を受け継ぐことになります。慣れない土地や歌舞伎の言葉に戸惑い、周囲から孤立してしまう伊吹ですが、ジェンダー・アイデンティティに葛藤を抱える少女・花と出会い、少しずつ心を開いていきます。

監督・脚本を務めたのは、2歳から小学6年生ごろまで長浜で暮らしていた谷口未央監督。2016年に長浜曳山祭のユネスコ無形文化遺産登録を知ったことをきっかけに祭りの取材・記録を始め、約8年をかけて本作を完成させました。名古屋での公開を前に谷口監督と、花を演じた愛知県在住の加藤あんりさんにインタビューを実施しました。長浜曳山祭への思い、オーディションでのキャスティング、実際の祭りを取り入れた撮影エピソードを聞かせてもらいました。(取材日:2026年9月8日)
新着情報
谷口監督「子どもの頃から身近だった長浜曳山祭を、子どもたちの物語として描きたかった」
谷口監督にとって長浜は、子どもの頃に暮らした思い出の場所です。「2歳から小学6年生ごろまで長浜で暮らしていました」と話す谷口監督に子どもの頃の祭りの思い出について聞くと、「祭りの日になると学校が午後から休みになって、みんなで祭りを観に行きました」と懐かしそうに振り返ります。長浜曳山祭は、長濱八幡宮(長浜市宮前町)の祭礼として、毎年4月9日から17日の間、長浜の町中で開催される、長浜が世界に誇る祭りのひとつです。「同級生が歌舞伎をやっていたり、祭りを観ながら出店でお菓子を買ったり、川で遊んだり。子どもにとっては、すごく楽しみな行事でした」と語る谷口監督の原体験が、映画『長浜』を作る大きなきっかけとなったようです。

制作のスタートについて谷口監督は、「2016年に長浜曳山祭がユネスコの無形文化遺産に登録されたというニュースを見て、長浜の祭りを題材に映画を作りたいと思ったんです」と当時を振り返ります。そこから長浜市役所や長浜曳山文化協会などに足を運んで取材や記録を重ね、「2018年ごろから、映画にできるかもしれないと思うようになりました」と明かし、2022年には本格的な制作のため長浜へと移り住みました。
映画の中心となる長浜曳山祭では、子どもたちが歌舞伎を演じます。長浜の旧市街地には 13基の曳山が伝わっています。そのうち12基では子ども歌舞伎が行われ、毎年4基の曳山で上演されます。3年を1つのサイクルとして担当する曳山が入れ替わり、曳山を持つ町の5歳から12歳くらいまでの男児によって演じられます。「子どもたちは春休みに朝から晩まで稽古をします。決して気軽に参加できるものではなくて、町の人たちが子どもたちを支えながら、ずっと受け継いできたものなんです」と教えてくれました。
男児しか曳山に上ることができないという長浜曳山祭の伝統は本作のストーリーの中で鍵となる部分なのですが、谷口監督は少子化によって町内だけでは人数を確保できず、町外から子どもが参加することもある現状にも触れ、「子どもが減っていますが、そうやって地域の人たちが工夫しながら祭りを続けているんです」と話します。伝統文化としてだけでなく、そこに関わる子どもたちの姿を通して、長浜という町や人々の営みをリアルに描き出しています。
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加藤あんりさん「受かるとは思っていなかった」オーディションで「この子が花だな」と監督が感じた瞬間
ジェンダー・アイデンティティに葛藤を抱える少女・花を演じた加藤あんりさんは、愛知県在住の高校1年生。撮影当時は中学1年生で、本作がセリフのある役としては初めての映画出演でした。加藤さんはオーディションを振り返り「受かるとは思っていませんでした。エキストラの経験はありましたが、セリフのある役は初めてでした」と当時の心境を語りました。また加藤さんにとっては、撮影現場での経験そのものが初めての連続だったようです。「名前を呼んでもらえて、車で撮影場所まで送ってもらえたんです。1人の俳優として扱ってもらうことも初めてでした」と嬉しそうに撮影の日々を振り返ってくれました。

劇中には、花が「シャギリ」(笛)を吹く重要な場面があります。中学校の吹奏楽部でフルートを練習していたという加藤さんは、オーディションで初めて「シャギリ」を構え、音を出すことができたそうです。谷口監督は、「シャギリは音を出すのが難しいんです。でも、加藤さんは構えができていて、音も出せた」と振り返り、「構えたときの姿が凛としていて、いい目をしていたんです。この子が花だなと思いました」と、一目で惹きつけられた瞬間を教えてくれました。

撮影までの間、加藤さんは「シャギリ」の練習を重ね、現場に入ってからも地元の人たちに教えてもらいながら腕を磨いたそうです。また、役作りのために「大股で歩くことや、笑わないようにすることを意識していました」と明かす加藤さん。そうした努力をスタッフから聞いた谷口監督は、加藤さんが真摯に“花”という役に向き合っていたことを強く感じ取ったそうです。
「オーディションでは“伊吹”に合う子に出会えなかった」文房具の話で見せた荘司さんの無邪気な素顔と加藤さんとの交流
“伊吹”を演じた荘司亜虎さんについて、谷口監督は「オーディションでは、“伊吹”に合う子に出会えなかった」と打ち明けます。“伊吹”は台湾人の母と日本人の父を持つ少年であることから、「同じようなルーツを持つ子を探して、荘司さんと会うことになりました」とキャスティングの経緯を語ります。「初めて会った日は、撮影の根岸憲一さんとともに1時間ぐらい話をしました。いちおうカメラも回していました」と話す谷口監督。長く芸能活動を続けてきた荘司さんに対して、最初は「プロフェッショナル」という印象を抱き「あまり子どもっぽく見えなかった」と少し悩んだと言います。

しかし、そんな印象が変わるきっかけとなったのが、根岸さんとの何気ない会話でした。「根岸さんが文房具の話をしたら、急に目を輝かせて話し始めたんです 。そのときに無邪気な子どもの顔になったのを見て、きっと荘司さんなら“伊吹”を演じられると思いました」と当時を振り返りました。実際の撮影では、荘司さんが長く続けてきたダンスの経験も大いに生かされました。特に曳山の上で歌舞伎を演じる場面での美しい手足の動きについて、谷口監督は「ダンスをやっていたことが、歌舞伎の繊細な身体表現にもしっかりつながっていた」と絶賛しました。

“伊吹”と“花”を演じた荘司さんと加藤さんは、撮影当時は共に中学1年生。「同じ年齢だったので、最初はちょっと気まずいというか、お互いに遠慮していました」と加藤さん。ですが、撮影の終盤になるにつれて少しずつ打ち解けていった2人は、撮影が終わる頃には少し話ができるようになり、完成後の舞台挨拶で会話ができるようになったそうです。

荘司さんはダンス&ボーカルグループ「VOKSY DAYS」のメンバーとしても活動していますが、加藤さんは撮影中の荘司さんについて「TikTokで見るような、グループで活動している賑やかな男子高校生という感じは、撮影中にはなかったです」と振り返り、役に集中していた様子を明かしました。映画の中で、抱えているものを理解しながら少しずつ距離を縮めていく“伊吹”と“花”。そんな2人の関係性には、撮影現場での2人のリアリティある距離の変化も重なって見えてきます。
「当初の予定とは違う場所での撮影」西野水道で生まれた幻想的なシーン
映画の中で印象的なあるシーンが長浜市にある「西野水道」で撮影されています。西野水道は、西野の西山の山裾から琵琶湖へ向かって掘り抜かれた排水用の岩穴で、滋賀県指定文化財にもなっているスポットです。谷口監督は「西野水道」での撮影について「撮影直前に当初予定していた場所が使えなくなり、急きょ別の場所を探すことになり、そこで以前市役所で提案されたこの場所を思い出しました 」と教えてくれました。「実際に訪れてみると、水があり、暗く、細い場所を進んでいく幻想的な雰囲気がありました」と谷口監督。観光地として整えられた場所とは異なる独特の空間について、谷口監督は「最初に見たときに、ここしかないと思いました。結果的に、すごく映画的な場所になりました」と話し、ハプニングから生まれた奇跡的なシーンの舞台裏を明かしてくれました。

長浜の町で出会った“伊吹”と“花”は、歌舞伎の稽古や祭りの日々を通して少しずつ変化していきます。谷口監督が長浜で過ごした子ども時代の記憶から始まり、約8年にわたって祭りと向き合ってきたからこそ描くことができた『長浜』。地域の記憶と子どもたちの成長を描いた美しく温かい物語を、ぜひシネマスコーレのスクリーンでお楽しみください。
1週目はシネマスコーレで舞台挨拶を開催 2週目は『彦とベガ』と日替わり上映
映画『長浜』は、10月3日(土)より名古屋のシネマスコーレで公開されます。公開にあわせて、10月3日(土)・4日(日)・9日(金)には舞台挨拶の開催も決定しています。10月3日(土)と4日(日)は、11時50分の回に谷口未央監督と花役の加藤あんりさんが登壇。10月9日(金)は11時50分 の回に、谷口監督と長浜市曳山博物館館長の太田浩司さんが登壇し、長浜曳山祭についても語ります。料金は当日券が一般1,800円、会員1,300円ほか。10月3日(土)・4日(日)は朝9時20分ごろから、10月9日(金)は朝9時40分ごろから劇場窓口で販売されます。オンライン予約は9月26日より開始されます。なお、舞台挨拶の回は 招待券・完走スタンプカードは使用できません。
さらに、2週目となる10月10日(土)からは、谷口監督の初長編映画『彦とベガ』を『長浜』と日替わりで上映します。『彦とベガ』の上映日は、10月10日(土)、12日(月・祝)、14日(水)、16日(金)。『彦とベガ』は、「彦」「ベガ」と互いを呼び合い、星を眺める老夫婦、比古朝雄とことを描いた作品です。自分を16歳の少女と思い込んでいる認知症の妻と、若い訪問介護ヘルパーとの出会いによって、穏やかだった日々が揺らぎ始めます。現役看護師でもある谷口監督が自身の実体験をもとにシナリオを書き上げた長編デビュー作で、当時14歳だった吉田仁人さん(M!LK)が朝雄の若き日の姿を演じ、映画初出演を果たした作品でもあります。『長浜』とあわせてシネマスコーレでご覧ください。
シネマスコーレ

Address:名古屋市中村区椿町8-12 アートビル1階
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作品概要
2026年10月3日(土)シネマスコーレほか全国順次公開

出演:荘司亜虎、加藤あんり、瑛蓮、池田良 ほか
監督・脚本:谷口未央
撮影:根岸憲一
照明:佐藤仁
音響:松野泉
美術:塩川節子
エンディング曲:HASAMI group「消えても何かが(長浜ver.)」
歌舞伎振付:岩井小紫
協力:長浜曳山祭
仕様:2025年/日本/93分
© 2025 コルミオ・フィルム





















