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2026-09-22

「観客が100人いたら100通りの映画の受け取り方があってほしい」映画『ナギダイアリー』深田晃司監督インタビュー


 

9月25日(金)に全国公開される深田晃司監督・脚本の映画『ナギダイアリー』は自然豊かな架空の町「ナギ」を舞台に、ひとりで創作に打ち込む彫刻家・寄子と、東京から訪れる建築家・友梨、寄子の幼なじみ・好浩ら、それぞれの場所で生きる人々の関係を描きます。寄子を演じるのは松たか子さん、友梨を石橋静河さん、好浩を松山ケンイチさん。岡山県奈義町をモデルにした「ナギ」での9日間の出来事を通して、家族や土地、人が生きていく場所、そして他者との距離が静かに浮かび上がっていきます。

平田オリザさんの代表作『東京ノート』に着想を得て、深田晃司監督自身が脚本を書き下ろした本作は、企画の立ち上げから9年の歳月をかけて完成。第79回カンヌ国際映画祭コンペティション部門にも正式出品されました。公開を前に深田晃司監督に名古屋でインタビューを行い、松たか子さん、石橋静河さん、松山ケンイチさんらとの作品づくり、映画における「余白」についての考え、奈義町での人々との出会い、『東京ノート』から始まった企画の背景、さらにフランスをはじめ海外スタッフとともに作り上げた映画について話を聞きました。(取材日:2026年9月14日)

松たか子さんは「とても自由な方」石橋静河さんの「抑制の効いたお芝居」の魅力

映画『ナギダイアリー』は、岡山県奈義町をモデルにした自然豊かな町「ナギ」を舞台に、そこに暮らす人々の関係やそれぞれが抱える思いの揺らぎを描いた人間ドラマです。ひとりで創作に打ち込む彫刻家の寄子(松たか子さん)のもとを、東京と台湾で建築家として活動する友梨(石橋静河さん)が訪れ、彫刻のモデルを務めることに。寄子の幼なじみで、若くして妻を亡くした好浩(松山ケンイチさん)や、その息子たちとの出会いも重なり、それぞれの日常に少しずつ変化が生まれていきます。

深田監督は本作で松たか子さん、石橋静河さん、松山ケンイチさんと初めて一緒に作品を作ることになりました。俳優陣に求めることを聞くと「脚本に書かれたキャラクターを正確に演じてほしいわけではなく、脚本のキャラクターと俳優さん自身が掛け合わさったものになってほしいと思っています」と答えました。掛け合わせ具合について「最初はやっぱり分からないので、リハーサルをやりながら、お互いに探っていく感じでした」と教えてくれました。さらに深田監督は「自分が俳優に求めるものの一つは、『一人で演じない』ということです。相手役とコミュニケーションを取りながら演じることをすごく重視しています」と話しました。

松さんと石橋さんは以前にも共演経験があって親しい間柄だったこともあり「撮影はすごくスムーズでした」と振り返ります。寄子を演じた松さんについて深田監督は「とても自由な方」と表現。特に寄子と友梨が2人で互いの過去について話したり、寄子が自身の価値観や創作に対する考えを述べる場面では、まるでその場で生まれた言葉によるやり取りのようにも見えます。「俳優というのは複雑で難しい職業です。自分の演じる人物が次に何を言うか、相手が何を言うか、お互いの運命さえも全部知ったうえで、あたかも何も知らないかのように演じなければなりません」と話す深田監督は寄子を演じる松さんの姿を見て「脚本なんてないかのように、一瞬一瞬を寄子として生きてくださいました」と話しました。

一方の石橋さんについては「抑制の効いたお芝居」に魅力を感じたそうです。「心身のコントロールが絶妙に日常の近似値にある感じは、私が慣れ親しんできた劇団青年団の俳優たちの演技の在り方とも近いように思え、とても安心して言葉を委ねられました」と振り返りました。

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「観客が100人いたら100通りの映画の受け取り方があってほしい」

本作は登場人物の行動や発言に「これはどういう意味なのだろう」と考えさせられる場面があります。とある印象的なシーンについて質問すると、深田監督は「観客の想像力との綱引き」という言葉を使って説明し「観客がある方向に想像を膨らませるように仕掛けておいて、それをあえて裏切ることもある。逆に、観客が感じ取ったことを、そのまま肯定することもある」と話し、映画と観客の間に生まれるものを大切にしていると語りました。映画を作る側がすべてを説明してしまえば、観客が想像する余地はなくなります。一方で、「何でも自由に想像してください」というだけでは、想像するにも拠り所がなくなってしまう。その間にあるバランスについて、深田監督は「余白」を緻密に作ることを大切にしていると話します。そして、「観客が100人いたら100通りの映画の受け取り方があってほしい」と続けました。

映像は、言葉以上に強く観客へ働きかけることがあります。そのため、作り手が意図していないところまで観客をひとつの感情へ誘導してしまう可能性もある。深田監督は、映画が持つその力を意識しながら、特定の人物に没入させ感情移入させるのではなく、日常で他者と接するような、少し距離のある関係も残したいと語ります。だからこそ、寄子と友梨の関係もひとつの言葉では括れません。「元義姉妹」という関係性だけでは説明しきれない2人の距離。近いようにも、遠いようにも感じられるその関係を、観る人がどう受け取るのか。映画がすべてを言葉にしないからこそ、観客自身の経験や感覚と重ね合わせながら、観終わった後にも「あれは何だったのだろう」と考え続けることができる作品です。

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実際に町で聞こえる音を取り込んだ映画 実際の奈義町には存在しない“あるもの”が登場

本作の舞台となった「ナギ」は、岡山県奈義町をモデルにしています。撮影は実際に奈義町で行われましたが、作品の中では町の名前を「ナギ」とし、架空の町として描いています。その理由について深田監督は、奈義町で取材を重ねる中で、家族や地域の中で女性や男性が受ける異なるプレッシャー、性的少数者が自分のことを周囲に話せずに暮らしていること、自衛隊や基地をめぐる問題など、さまざまな話を聞いたことを振り返りました。一方で、それらを「奈義町特有の問題」として描きたくはなかったといいます。奈義町だから起きているのではなく、日本や世界の様々な地域で起きていることでもある。そこで、実在する町をそのまま描くのではなく、奈義町をモデルにした架空の「ナギ」という町を作りました。劇中には、実際の奈義町には存在しない“あるもの”が登場します。奈義町をモデルにしながら、あえて架空の町として描いたことが分かる象徴的な場所です。

映画の中には奈義町で実際に聞こえる様々な音が映画の中に取り込まれています。印象的に響く自衛隊の訓練音について聞くと、深田監督は「もちろん365日、毎日ずっとというわけではないんですが、訓練の日は朝から夕方までずっと鳴っている、という感じですね」と教えてくれました。映画の中では日常的な会話の背景で砲声が聞こえ、駐屯地が近くにある生活を感じさせます。「本番のいいタイミングで鳴るとは限りません。こちらがきっかけを作って鳴らしてもらうものでもないので」と笑いながら撮影の裏側を教えてくれました。「録音スタッフが奈義町に残って音を録ってきてくれました」と実際にその土地で聞こえている音を改めて録音し、映画の中に取り入れることで、「ナギ」という架空の町にも、そこでしか生まれない空気や生活の気配が刻まれています。

さらに深田監督は、映画の企画から完成までの間に奈義町に長く滞在したことにも触れました。深田監督は車の運転免許を持っていないため自転車で町を移動。普段は車で移動する人が多い町で、自転車で走る深田監督の姿は目立ったといいます。その中で出会ったのが、地元でギャラリーやカフェを営む、元中学校美術教師の方でした。とてもエネルギッシュな方で退職後も絵を描き続け、地域に伝わる昔話や歴史などを題材に絵本を作っていて、また奈義町には小学校と中学校がそれぞれ一校ずつしかないため、地域の子どもたちのことをよく知っていました。その方を通して町の人々を紹介してもらい、ロケーションについても相談し、町の歴史や風土についても教わるなど、撮影だけではない関わりが生まれていったといいます。考えてみれば、その方の創作に向き合う姿勢はまさに寄子のようでもあります。

深田監督は、「『ナギダイアリー』は奈義町の人々と一緒につくった作品です。心から感謝しています」と話しました。また、映画の中に登場する人物の言動や出来事には、実際に奈義町で出会った人々から聞いた話が反映されています。たとえば、劇中で描かれる家族の中の「家を継ぐ」という感覚については、深田監督が町で行ったインタビューがもとになっています。ある取材では、中学生の長男が「自分はお姉ちゃんのようには仕事を選べない」「長男だから家を継がないといけない」と、ごく当たり前のこととして話していたそうです。それは昔の話ではなく、今から2~3年ほど前の取材中での出来事。深田監督にとっても印象に残る言葉だったといいます。また、取材を通して、奈義町では専業農家が多いわけではなく、別の仕事をしながら農業を続ける人も少なくないこと、代々受け継いだ土地を簡単に手放すことができないため、子どもたちにとって「継ぐ」という選択肢が自然に意識されることなども知ったそうです。それらを良い・悪いと単純に判断するのではなく、そこで暮らす子どもたちが何を感じ、どんな選択をしようとしているのか。そうした感覚が、映画の人物たちにもつながっています。

『東京ノート』から始まった物語   平田オリザさん、青年団との出会い

『ナギダイアリー』の企画の始まりは、2017年に奈義町の「教育・文化のまちづくり監」を務めていた平田オリザさんから深田監督のもとへ届いたメールでした。奈義町にある美術館を舞台に、平田さんの代表作『東京ノート』を映画化してはどうか、という提案だったといいます。深田監督にとって平田さんとの出会いは、映画監督としての活動だけでなく、青年団との関わりにもつながっています。もともと映画が大好きで、10代の頃から映画に夢中になり、映画美学校で自主映画を作っていた深田監督。演劇にはほとんど興味がなく、「むしろ演劇は、大っ嫌いだった」と振り返ります。そんな深田監督が青年団の舞台を観るきっかけになったのは、自主映画に出演した俳優が青年団に所属していたことでした。「自分の自主映画に出てくれた俳優さんが劇団青年団に入っていて『観に来て』と言われて。いつも通りそんなに期待せずに観に行ったら、これがもう、めちゃくちゃ面白かった。そのときの作品は『忠臣蔵・OL編』という、忠臣蔵の赤穂浪士が現代の女性会社員だったらどうなるかというような、青年団としては必ずしも本流ではないような軽いタッチの喜劇作品でしたが、すごくハマりました」と演劇に対する印象が変わったと話しました。

青年団の舞台では、いわゆる大きな声や身振りで感情を表現するのではなく、舞台上でもまるで日常の会話のように言葉が交わされていく。その一見、誰も本音なんて簡単には話さないような何気ない会話の奥に、登場人物の背景や感情を想像できることに強く惹かれたといいます。2005年、深田監督は平田オリザさんが主宰する劇団・青年団に演出部として入団。現代口語演劇のスタイルと映画を組み合わせることで、自分なりの表現を作れるのではないかと考えていたことも教えてくれました。その後、平田さんから届いた奈義町での『東京ノート』映画化の提案をきっかけに、深田監督は実際に奈義町を訪れます。『東京ノート』には「姉」と「弟の妻」が登場し、2人が交わす会話は作品の核となる重要な場面です。弟の妻は、夫との離婚を間近に控え、それを義理の姉に告白します。深田監督は「『東京ノート』に登場する姉と、彼女の弟の妻が、もしその後も会い続けていたらどうなるんだろう」と考えました。そんな発想から生まれたのが、『東京ノート』をそのまま映画化するのではなく、登場人物の関係性を出発点にしたオリジナルストーリーでした。さらに奈義町の美術館を訪れた深田監督は「奈義町をロケ地にして東京に見立てるのではなく、この町をこそ舞台にすべきではないか」と感じたといいます。

国をまたいだ制作  日本で撮影し、海外の視点を取り入れる

『ナギダイアリー』は日本、フランス、シンガポール、フィリピンの共同製作作品です。エンディングテーマには台湾のシンガーソングライター、俳優、作家として活動するイーノ・チェンさんが参加しています。フランスとの共同製作や助成の仕組み上、フランス側で一定の制作費を使う必要があり、撮影を日本で行った本作では、編集や音響などのポストプロダクションをフランスで行うことになりました。しかし、深田監督は、単に助成制度の条件を満たすためだけではなく、海外のスタッフと作ることによって得られるものがあったと話します。日本で映画を作っていると、どうしても「これは分かるだろう」と思い込んでしまうことがある。それを異なる文化圏のスタッフと作業することで、「なぜそうなるのか」「本当に伝わるのか」と、一度立ち止まって考えることができるといいます。

日本で撮影した映像を海外のスタッフが見て、編集や音響を組み立てていく。その過程で、自分が当たり前だと思っていたものを相対化することができたそうです。さらにエンディングテーマを担当したイーノ・チェンさんは台湾のアーティスト。日本、フランス、シンガポール、フィリピン、台湾と、さまざまな土地の人々が関わることで、一つの国や地域だけの視点に閉じない映画になっています。

9月25日(金)伏見ミリオン座で深田晃司監督による初日舞台挨拶&サイン会

『ナギダイアリー』の公開初日となる9月25日(金)には、伏見ミリオン座で深田晃司監督による初日舞台挨拶が開催されます。18時40分の回の上映後に深田監督が登壇し、本作の制作秘話や奈義町での撮影、作品に込めた思いなどを語る予定です。さらに、当日はパンフレット購入者を対象としたサイン会も実施されます。映画を観た直後に、深田監督から作品について直接話を聞くことができる貴重な機会となりそうです。

チケットはオンライン販売中で、劇場窓口では9月23日(水)の劇場オープン時から販売されます。上映後の舞台挨拶とサイン会を通して、『ナギダイアリー』の世界をより深く味わってみてはいかがでしょうか。

伏見ミリオン座 上映スケジュール

作品概要

『ナギダイアリー』

9月25日(金)よりミッドランドスクエアシネマ、伏見ミリオン座 他 全国公開

【ストーリー】
近くの山から切り出される木でひとり彫刻を作る寄子。ある日、東京と台湾で建築家として活躍してきた友梨は、 数日間の休暇をとって、別れた夫の姉・寄子のもとを訪れる。都会にはない「ナギ」での穏やかな生活。妻を亡くした寄子の幼なじみの好浩、そして息子の春樹とその親友の圭太――人々との出会いは、日常に小さな揺らぎをもたらしていく。やがて、彫刻のモデルを毎晩つとめるなかで寄子の知られざる喪失に触れ、友梨にも変化が起きていく。

出演:松たか子  石橋静河 川口和空  藤原聖  藤間爽子  水間ロン 申瑞季 松山ケンイチ

監督・脚本:深田晃司

製作:四宮隆史

エグゼクティブ・プロデューサー:大野二郎  Guillaume Morel  Jossette Atayde  Maria Sophia Atayde Marudo

プロデューサー:大野敦子  長井龍  角田道明

コ・プロデューサー:小山内照太郎  Carine Chichkowsky  陈思恩  佐藤央

撮影:四宮秀俊

照明:加藤大輝

録音:益子宏明

美術:大月由香里

彫刻:吉田愛美

ヘアメイク:菅原美和子

スタイリスト:荒木里江

衣裳:渡部祥子

キャスティング:吉川威史

助監督:鹿川裕史

制作担当:山村亘

編集:Sylvie Lager

VFX プロデューサー:平野宏治

カラリスト:Sorawich Khunpinij

音楽:李沛芩

リレコーディングミキサー:Olivier Goinard

エンディングテーマ:イーノ・チェン

International Sales:mk2 Films

助成:Aide aux cinémas du monde Centre national du cinéma et de l’image animée –Institut francais,文化庁文化芸術振興費補助金(日本映画製作支援事業)独立行政法人日本芸術文化振興会, White Light Studio, mk2 Films

後援:奈義町

製作:スターサンズ 八朔ラボ Survivance Momo Film Co. Nathan Studio ワンダーストラック

制作プロダクション:Lat プロダクション

配給:スターサンズ

2026/日本、フランス、シンガポール、フィリピン/ヨーロピアンビスタ/5.1ch/カラー/110 分/G

© 2026 ナギダイアリー・パートナーズ (スターサンズ/八朔ラボ/ワンダーストラック) / Survivance / Momo Film Co.

 


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