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2026-07-27

「怖いのに立ち向かいたくなる」『インビジブル・ハーフ』西山将貴監督インタビュー ”体験するホラー”に込めた挑戦


 

7月31日(金)より全国順次公開(名古屋ではミッドランドスクエアシネマで公開)となる映画『インビジブル・ハーフ』は、ミックスルーツを持つ高校生・エレナが、自身のアイデンティティーに葛藤しながら、”透明な怪物”との恐怖に立ち向かっていく青春ホラーです。ホラーならではのスリルと、若者たちの繊細な心の揺れを描いた青春ドラマが融合した本作で長編映画デビューを飾ったのは、1999年生まれの西山将貴監督。VFXクリエイターとしても活躍し、短編作品や映像制作で注目を集めてきた若き才能です。名古屋を訪れた西山監督に、本作に込めた思いや映像表現へのこだわり、そして初長編映画への挑戦について話を聞きました。(取材日:2026年6月6日)

「ゾクゾクする怖さ」ではなく「立ち向かいたくなる怖さ」を描きたかった

西山監督は、幼い頃からホラーゲームや洋画ホラーに親しみ、数多くの作品から影響を受けてきたといいます。その経験が、『インビジブル・ハーフ』ならではの恐怖表現につながっています。監督は「ホラーには二種類あると思っています」と切り出します。一つは、『リング』や『呪怨』のように、じわじわと恐怖が迫ってくる「ゾクゾクする怖さ」。そしてもう一つが、『SIREN』や『バイオハザード』のように、「怖いけれど立ち向かいたくなるワクワクする怖さ」です。西山監督が本作で目指したのは、後者の恐怖でした。

「透明な怪物にどう立ち向かい、どう乗り越えるのか。観客が主人公と一緒に戦いたくなるような、ワクワクできるホラー作品を作りたかった」と語る監督。主人公・エレナが、自身のルーツへの葛藤や見えない恐怖と向き合いながら成長していく姿を描く本作には、恐怖だけではなく、一歩踏み出す勇気や青春映画としての爽快感も込められています。上映後、「ホラーなのに青春映画だった」という感想が多く寄せられるという本作。その理由は、恐怖の先にある”成長の物語”を丁寧に描いているからなのかもしれません。

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スマホとイヤホンが生み出す、新しい”体験するホラー”

『インビジブル・ハーフ』で印象的なのが、スマートフォンやイヤホンを恐怖演出の中心に据えた斬新なアイデアです。劇中では、イヤホンを装着すると主人公だけが怪物の気配を感じ取れるという設定になっており、音の聞こえ方そのものが物語を大きく左右します。西山監督は「映画は、ただ観るものではなく、体験するものにしたい」と考えていたといいます。そのため、イヤホン越しに聞こえる音や、装着したときと外したときの音の違いを細かく設計し、「映画館だからこそ味わえる体験」を意識して演出を積み重ねていったそうです。

また、ホラー映画では定番ともいえる、大音量で観客を驚かせる”ジャンプスケア”についても、独自の考えを持っています。監督自身、「急に音だけ大きくなる演出は、映画に嘘をつかれたような気持ちになるので、あまり得意ではない」と感じていたことから、「イヤホンの中だけ音が大きく聞こえるなら、それは自然な恐怖になる」と発想を転換。「ジャンプスケアではない、新しいジャンプスケアを作りたかった」と笑顔で振り返りました。観客自身が主人公と同じ感覚を味わいながら恐怖を体験する、そんな映画館ならではの没入感も本作ならではの大きな魅力となっています。

SNS世代だから描けた、”つながる道具”が生む孤独

スマートフォンが作品の重要なモチーフとなった背景には、西山監督自身の学生時代の経験があります。1999年生まれの監督は、中学生の頃にSNSが急速に普及していく時代を体験しました。当時は「SNSをやっているだけで珍しい時代だった」と振り返りながら、その後、誰もが複数のアカウントを持つ時代へと変化していく様子を目の当たりにしてきたといいます。そんな経験から強く感じたのは、本来、人と人をつなぐはずのツールが、ときに人との距離を生み出してしまうという矛盾でした。西山監督は、「世界中の人とつながれる夢のようなテクノロジーなのに、それによって人が遠ざかったり、傷つけ合ったりすることもある。その不思議な感覚が、自分の原体験として残っています」と語ります。

その思いは、『インビジブル・ハーフ』にも色濃く反映されています。スマートフォンやイヤホンは怪物と向き合うために欠かせないアイテムである一方、周囲とのつながりを遮断する象徴でもあります。監督は「コミュニケーションのための道具を使って、人とのコミュニケーションが遮断されてしまう。その違和感を映画で表現したかった」と話し、現代の若者たちが抱える孤独や分断も、”透明な怪物”と重ね合わせながら描いたことを明かしました。だからこそ本作は、ホラー映画でありながら、現代を生きる若者たちへのメッセージを秘めた青春映画としても、深い余韻を残す作品となっています。

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初長編だからこそ、故郷・愛媛で描きたかった”原点”

『インビジブル・ハーフ』の舞台となったのは、西山監督の故郷・愛媛県です。海辺の町や歴史ある女子校など、実際の風景を数多く取り入れ、監督自身の原体験が作品の随所に息づいています。西山監督は、初めて短編映画を撮影した場所も愛媛だったことを明かし、「初めての長編は、自分が一番知っている場所で、一番知っていることを描きたいと思いました」と振り返ります。劇中に登場する海辺のワイドショットには、十代の頃に撮影した短編映画とほぼ同じ構図を再現したカットもあるそうで、「夢だけを追いかけていた頃の情熱をもう一度思い出したかった」と笑顔を見せました。

撮影期間は、長編映画としては異例ともいえる約2週間。その初日はいきなり、主人公が”透明な怪物”に襲われるトンネルのシーンから始まったといいます。西山監督は「最初にホラーシーンを撮ったことで、キャスト全員が作品の世界観を共有できた」と話します。姿の見えない怪物と対峙する難しい芝居では、主演のシエラさんに怪物の位置や動き、距離感を細かく伝えながら撮影を進めました。「僕はVFXをずっとやってきたので、見えないものをイメージすることには慣れています。でも、役者さんは見えない相手と演じることになるので、一つひとつ感覚を共有しながら作っていきました」と、長編デビューとは思えない丁寧な演出を振り返ります。

高校時代に見えていた”大人”を描きたかった

本作では、若者たちだけでなく、親や教師など大人との関係性も重要なテーマとなっています。西山監督は、主人公・エレナと母親との関係について、「分かり合えそうで、最後まで完全には分かり合えない距離感を大切にしました」と語ります。撮影が進むにつれて役者同士の関係が深まり、自然と親子の距離も近づいていきますが、監督は「そこは近づき過ぎないでほしい」と演出していたそうです。その理由について、「僕が高校生だった頃に見えていた”大人”を描きたかった」と説明します。当時は、大人がかけてくれた言葉の優しさや本当の意味に気付けず、「分かってくれない存在」と感じていたといいます。

だからこそ本作では、大人を単純な悪者にも理解者にもせず、「高校生の自分から見えていた大人」として描くことにこだわりました。「今の自分が考える大人ではなく、あの頃の自分の目に映っていた大人を演じてください、とキャストの皆さんにはお願いしました」と西山監督。その視点が、エレナの孤独や葛藤をよりリアルに浮かび上がらせています。青春映画としての繊細な人間関係が、本作のホラー表現に深みを与えていることを感じさせるエピソードでした。

約4年をかけて磨き上げた”体験するホラー”を映画館で

『インビジブル・ハーフ』の完成までには、およそ4年という歳月が費やされました。西山監督が最もこだわったのは、「締め切りを設けなかったこと」だったといいます。「プロデューサーがよく許してくれたなと思います」と笑いながら振り返る監督ですが、その時間があったからこそ、細部まで妥協のない作品づくりが実現しました。VFXは撮影前から約2年間テストを重ね、撮影終了後もさらに約2年間かけてブラッシュアップ。音楽も、洋楽のリズムに和楽器を融合させる独自のサウンドを追求し、「和楽器を入れるとコメディーっぽくなってしまうこともあるので、その絶妙なバランスを何年もかけて探りました」と明かします。

さらに、クライマックスでは映像と音楽をフレーム単位で調整。「カットが切り替わる瞬間に一音入るよう、ドラムの音を数フレームずらしてもらうところまで作り込みました」と話す姿からは、映像と音響を一体の”体験”として届けたいという強い思いが伝わってきました。最後に西山監督は、「この作品はホラー映画ですが、それと同じくらい青春映画であることを大切にしました。ホラーが好きな方はもちろん、普段ホラーを観ない方にも楽しんでもらえる作品になっています」と笑顔で呼びかけます。恐怖に立ち向かうスリルと、青春ならではの葛藤や成長が交差する『インビジブル・ハーフ』。映画館ならではの音響と映像だからこそ味わえる”体験するホラー”を、ぜひスクリーンで体感してみてはいかがでしょうか。

作品概要

映画『インビジブル・ハーフ』

2026年7月31日(金) ミッドランドスクエアシネマほかにて全国順次公開

出演:シエラ璃砂、奥野みゆ、平澤瑠菜

監督・脚本・編集:西山将貴

撮影監督:山本周平

VFX:Cao Moji

配給・宣伝:ギークピクチュアズ

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